21.拒絶
「俊也?」
「………」
問いかけても返事をしない。
どうすればいいんだ?
こうゆう状態に陥ったことはあったが、あのときは直に仲直り(?)はしたし……。
「俊也。何がいけなかったんだ?俺何かしたか?」
確か真吾はしっかり話し合うことが大事だと言った。じゃあ訊いてみることも大事なのだろうか?
「………」
それでも俊也は答えない。じっと下を向いて口を開こうともしない。
「俊也、何か言わないと藤堂も分からない。何をそんなに怒ってるんだ」
平井が言葉をつけたしてくれた。
俊也はゆっくりと顔をあげていった。
「もう……」
表情はとても辛そうで、目をうっすら光ってる。
手はブルブル震えていて、何かに脅えている小動物のようだ。
―――俊也の中で何が起こっているんだ?
俺はこんなに怒る俊也も見たことはない。こんなに怯えている俊也も見たこともない。
どう話しかければいいのか分からない。
沈黙が続く。
何か嫌な目にあったのだろうか?俺がいつの間にか俊也を置いて詰めていた?
それとも口を強く閉ざすほど、俺に聞きにくいことでもあるのだろうか?
俺の中の不安は大きくなるばかりだ。
沈黙を破ったのは俊也だった。俊也は何か覚悟したのかのように真剣な目を俺の方に向けた。
「ごめん。健斗」
「えぇ……?」
その言葉の意味が分からないと首を傾げる。
「ごめん、……健斗」
また同じ言葉を繰り返す。何度も何度も。
「ごめん、健斗。ごめん、健斗っ」
俊也に何かがとりついたかのように、同じ言葉を繰り返す。
俺は目を瞠った。平井も驚いているようだ。
俺達に瞠目されてるのがいたたまれなかったのか、俊也は逃げようとドアに向かって走るが、腕を引っ張ってなんとか俊也を止めた。
「ごめん、じゃ分からない。何ついて謝ってるんだ?」
俊也は下を向いて、俺の顔を見ようとしない。
何もかも俺の言葉を拒絶するかのように。
「離せっ!!」
突然、俊也は腕を振り回した。大声を出したから、周りのみんなが吃驚してこっちに振り向く。
「触るなっ!!」
周りのみんなは、あはははっと笑いながら俺達のやり取りを見ている。
俊也は、さっきよりも強く腕を振り回す。触るなって言われても「ごめん」の意味を知るまでは。
っと、俺も頑張って俊也の腕を掴む。
痛くないだろうか?そんなことを考える暇なんてなかった。
必至に手に力を込めた………が、
「大っ嫌い!!」
そう言われた瞬間、俺は俊也の腕を掴んでいた手を緩めた。正確に無意識に緩んだ。
―――好きな人に一番言われたくない台詞を言われてしまった。
『大嫌い』
その台詞はどんなに俺を傷つけただろう。俊也は知る由もない。
俺の体の力が全部抜けた。脱力した俺は床にしゃがみこむ。
そんな俺を見た俊也は、またさっきの言葉を繰り返す。
「ごめん、健斗。僕は……」
最後に言った言葉をすでに俺の耳に入っていなかった。
「バイバイ」
そう言って俊也は、この教室から出て行った。
俺はそれすら気付かないほど、何も考えられなくなっていたのだ。