20.再スタート?
―――昨日、真吾と話をした。
あの出来事で俊也に罪悪感がないわけではないが、真吾と話をして良かった。
俺は何でも悪い方向に考えるみたいだからな。
真吾みたいな前向きに考える人がアドバイスしてくれると、安心するし落ち着く。
まぁー心機一転、再スタート。
……で、今は平井とお話し中だったりする。ここは平井のクラスだし……俊也に聞こえることもないからあれを訊くなら今がチャンスだ。
「平井……。俊也は何の料理が好きか知っているか?」
「はぁ?」
昔のことを平井に話し終わったついでに、俺は俊也の好きな食べ物について訊いてみた。
冷たいもの――アイスが好きって言うの知っているのだが、家庭料理系で俊也が好きなものが浮かばないのだ。
「昨日、俊也とちょっと話し合う約束をしたんだが、話を真吾としたいからと言って断ったんだ……だからお詫びになんか俊也に手作り料理をしたいなぁと思って」
「藤堂って料理できるのか?」
あまりに素早い回答に俺は少しだけ、カチンときた。
「できる。カレーとかチャーハンぐらいなら」
「意外だな。藤堂って不器用そうだから」
「………」
平井って何でもズバッという奴だったか……?
俊也にはいろいろふざけて言っていたが、俺には言ったことがない。
悪気なく平然と言ってるのだとしたら、余計ムカつく。
「まぁ。それはやめといた方がいいんじゃないか?アイツの親シェフだし……味煩い」
「シェフ?」
それ本当か?と訊ねると、逆に平井の方が驚いているのか、あれ?と頭を掻いている。
「俊也言ってなかったか?俺はとっくに言ってると思ったが……」
「知らないが……俊也の親がシェフなのか?」
「あぁ、父親がフランス料理のシェフ。母親はパティシェだ」
そうなのか……それはそれで納得した。
前、俺の誕生日に俊也が俺のために、りんごパイを作ってくれたことがあった。見た目は悲惨だったが、とても美味かったのを覚えている。
「あとアイツはなぁ……」
「……何してるの?」
平井が俊也のことを教えてくれると話を聞いていたところに、とても冷え冷えとした声がさした。
「俊也……」
俺が言葉にした通り、冷え冷えとした声の主は俊也だった。
怖い目で俺を見ている。
勝手に俊也のことを聞いたから、怒っているのだろうか?
「だから、何してるの?」
また同じと問いを返されるが、怒っている理由が分からないから、どう答えていいのか困ったのだ。
俊也のことを訊いていましたと、素直に言ってしまっていいのだろうか?
「あのなぁ……えぇっと……」
俺が言葉に詰まっていると、平井が助け船を出してくれた。
「藤堂とはちょっと料理の話をしていてな。藤堂、カレーが得意らしい。今度作ってもらわないか?」
話を少し逸らそうとしてくれたのだが、
「タツには聞いてないんだけど?」
今度は冷たい視線を平井に向けた。平井も困っているらしく、俺に弱ったという視線を送ってくる。
これは確か、あの時――俊也と初めてした勉強会の時に聞いた声と同じだ。
とても怖く冷たくて、いつもの俊也ではなくなってしまったような……。
あの時よりも、険悪な雰囲気だ。
新しい気持ちで俊也とやっていきたかったのだが……どうも上手くいきそうもない。
―――俊也。一体どうしたんだ?