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2.最初の一歩

―――有泉への恋心に気づいて、1ヶ月がたった。季節は冬。



態度はでかいが、小心者の俺に一言だけ、有泉と話す機会チャンスがあった。


それは、有泉が机から消しゴムを落としたとき。


勇気を振り絞って(我ながら、しょぼい勇気だと思うが)俺が有泉の消しゴムを拾ったんだ。


その時俺に向かって、有泉は満面まんめんの笑みで言った。


『ありがとう』


ドキューーン!!


胸に天使の矢が刺さって感じをこういう時に言うんだろうか?


……あの時の有泉、かわいかったなぁ(ハート)


……。


…。


そこでまたも気付いてしまった。


――何で俺、こんなにも初々しく、乙女チックなこと言っちゃってるんだ!!しかもハートって何だ、ハートって……。


はぁ……。


心の中で大きなため息をつく。


……恋なんて、辛いし、苦しいし、嫌だって何度か思った。


でも、この恋心は中々消えてくれない。


有泉への思いは消えるどころか、ますます大きくなっていくばかりで、どうにも止まらない。


いっそこの気持ちを言ってしまおうかとも思った。


けどそれは俺にはできない。



『気持ち悪い』って言われて平気でいられるうつわを俺は持っていないから。



『もう、近付かないで』なんて言われたら、俺は一生立ち直れないと思うから。



それだけじゃない。


有泉がもし、昔の俺を知ったら……。



どうすればいいのかわからない。友達に相談することもできない。もう、一人で悩むことしかできない。


「はぁ……」


また、ため息をつく。


それを見た親友の宮沢真吾みやざわしんごは、心配そうに俺に話しかけてくる。


「健斗。お前大丈夫かよ?この頃元気ないな」


お前のせいだよ、って心の中で真吾に当たる。


そう。こいつが俺の元凶げんきょう


俺に、気付かせてくれなくてもいい恋心を気付かせた奴。


「あっそうか?そんなことないけどな……あはは」


無理やり笑ってせいか、顔が引きつっている気がする。それを親友である真吾が気づかないはずがない。


でも、とっさに話に触れてはいけないと察したのだろう。


真吾は、話題を変えようとする。――が、さすが親友!!


「あっもしかして、恋のお悩み?恋煩こいわずらいとか?」


なんでこうゆうことばかり、痛いところを突いてくるんだ。


本人は俺を元気づけるために茶化ちゃかした話題を出したつもりだったんだろう。しかしそれが見事、俺に的中し、固まってしまった。


俺のその反応に、真吾は素直におどろいたらしく、気を使うのを忘れて、またも痛いところを突いてくる。


「お前。本当に恋してんの?」


……ここまできて、誤魔化ごまかしてもしょうがないよな。


全部…は言えるわけがないが、少しだけ打ち明けると決心した。


『一人で悩んでいても答えが見つからない時、頼るべきは友』っと勝手に納得し、俺は真吾と一緒に屋上に行き、自分が恋していることを話した。


もちろん、有泉に恋しているっということは秘密だ。


だって相手が男だってばれたらどんな目をされるか……。


「……。やっぱりな。そういうことか」


俺の話を聞いて、一人納得したように頷く真吾。


やっぱりって何?そういうことかって何?


「健斗。お前、その好きな奴って有泉のことだろ」


「えぇーーーーー!!何で知ってるんだよ……ってあぁ!」


口を手でおおったが、もう後の祭り。


真吾が言ったことを、おもいっきり肯定してしまった。


真吾は呆れたようにため息をつく。


「正直な奴。…まっ、大丈夫だ。俺がその恋の悩み、解決してみせるし」


偏見へんけんを持たず、俺の恋を手伝ってくれるという真吾。


もしかして真吾は、俺にあの一言を言ったときから、俺が有泉に恋してることを知っていたのかもしれない。


やっぱり持つべきは親友だ!


と、今度はしっかり納得した。


「なぁ。有泉と仲の良い松澤っているだろう」


「えっ?あぁ」


「俺、そいつと付き合ってるし」


うん?松澤……。


「松澤って、…松澤達則たつのりのことだよな?」


「あぁ、そうだよ」


俺はその返事に、目をみはる。


だって、だって松澤って……男、だよ…な?


つまりそれは。


「男同士ということか?」


「当たり前だろう。タツが女にでも見えるのか」


「いや、見えませんけど……」


何かわかんないけど、真吾の威圧いあつオーラにやられて、自分らしくもない言葉を返してしまった。


「お前の言いたいことはわかってる。男同士でなんて、って思ってるんだろう?でも、お前も恋してわかっただろう。そんなの関係ないってこと。同性とか異性とか、男とか女とか、そんなもんはただのお飾りでしかないんだ」


真吾の言うとおり……。


そう、俺はもう知っていた。


わかっていた。


男とか女とか、好きになったら関係ないこと。


自分の意思が大切なこと。


でも俺は……。


心配そうな顔をした俺に、真吾は優しい言葉をくれた。


「大丈夫。さっきも言ったけど。手伝うし」



ありがとう。真吾。


――俺は真吾に励まされて、この恋を自分なりに頑張ろうと思った。


よく考えてみれば、俺はまだ何もしてない。



『努力』



意味もなく嫌いだった言葉。


でも、今日ほんの少し『努力』って言葉、好きになれた気がした。


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