19.今の俺
俺は教室に戻った。あんなところにいても悪い方にばかり考えるだろうと思ったからだ。
俺は、自分の席に座りじっと机を見つめていた。
「どうしたの?健斗」
不意に声をかけられてので、少しびくっと反応した。前を向くと俊也がいた。
俺の反応が面白かったのか俊也はふっと笑った。
「いや、何でもない。ちょっと疲れただけだ……」
俊也は一瞬何かを考え込んでいたみたいで、うんと頷いてからゆっくりを口を開く。
「そう……。ねぇ、健斗。ちょっと話があるんだけど、今いい?」
「あぁ……いいけど」
どうしたんだろうか。
俊也が怖い位、真剣な目で俺を見ている。それに話をするだけで、こんなことを尋ねてくる奴でもなかった。
いつもと違う俊也に戸惑いながらも、俊也の後をついて行った。
廊下は出たとき。誰か俺を呼ぶ声が聞こえた。
「おーーーーーい!!健斗!!」
後ろからやってきたのは真吾。走ってきたから息を切らしている。
「どうしたんだ。そんな大声出して……」
真吾は俺の肩を引っ張り、耳元で囁いた。
「………っ」
「でさ」
「おい!!ここで話すことじゃないだろ!!」
俺は、慌ててその話を中断させた。
俊也が俺を不思議そうに見ているのに気付いていたが、今はどうでもいい。
真吾の話があまりにも唐突過ぎて混乱した。
「なぁ?有泉。ちょっとコイツ借りていいか?」
「おい。何言ってるんだ。俺には先約があるんだ」
と断ろうとしたら、
「いいよ。僕の話は後でもできるし。宮沢君の話の方が重大そうだし……」
俊也は今はいいと断った。
「わりぃな。じゃあまたな、有泉」
「ごめんな。また後で、話を聞くから……っおい!!引っ張るな!!」
俺は引きずられながら、またもや屋上へ行くことになってしまった。
俊也がいつもと違ったことが気になったけど、それよりも真吾に言われたことが衝撃的だった。
「おい!!何であの話を俊也がいる場でするんだよっ!!俊也に聞かれたらどうするんだ!!」
あの話というのはさっき平井と話していたこと。そして俺が考えていたことだ。
多分俊也の過去を俺に話したことを平井は真吾にも教えたのだろう。
それにしても、あんなところで話さなくてもいいじゃないか!?
慌てている俺を見て、面白そうに真吾は笑った。
「だって、そう言った方が手っ取り早いと思ったんだ」
ちょっと拗ねて可愛いく見せようとしているみたいだが、今の俺にはそれに突っ込むような余裕は微塵もなかった。
「だって…じゃない!!一歩間違えれば俺は俊也に嫌われるところだったんだぞっ!?」
俺は真吾の肩を掴んで大きく揺さぶっている。
自分がとても混乱しているのはわかっている。冷静になろうとしても痛いところを突かれてしまって落ち付けないのだ。
真吾はそんな俺の手を邪魔とばかりに離し、悠長に話しかけてくる。
「まぁ……そんなに焦るなよ。大体はお前が悪いんだし……」
そう言われると何も言えなくなった俺。
一歩引き下がる俺を見て、真吾は苦笑した。
「何度も思ったが、本当にお前変わったな。有泉に恋してから、まるで別人。可愛くなっちゃって」
最後の言葉は確実に揶揄の色がにじんでいて、それが面白くなかった俺は真吾の頭をゴツンと叩いた。
俺は悪くない!!と反論する真吾だが、次の俺の言葉のトーンを聞いて、真吾も真剣な表情に変わった。
「どうすればいいと思うか?」
俺は問いかけた。
「有泉にこのことを知られない方法?」
うんっと頷いた。
俺自身が強姦に関わっていないとしても、やっぱり悪い印象が強いだろう。
『怖い』
何回も何回もそう思ってきた。俊也に嫌われるのが怖いって。
俊也には男同士の恋愛には偏見ないし、俺が告白しても嫌わないと俊也を仲良くなってから約10ヶ月。十分に分かった。
でも今回ばかりは違う。俊也の奥にとても深い傷がある。
それを俺自身が思い起こさせたらと思うと、このことは秘密にした方がいい。
俊也自身のためにも、俺自身のためにも。
俺はそう考えていたのだが、真吾はどうやら違ったようだ。
「そんなに気にすることないと思うけど、お前はそう見えても弱い奴だからな。有泉はそんなに弱い奴じゃないと思うぞ。お前よりはな」
それはどうゆうことだ?と目を向けると、自分で考えろっと俺の頭をつついてくる。
「それにな。言っといた方がいいこともあるんだ。擦れ違いってこともあるだろうし……」
すごく説得力のある言い方に俺は首を傾げる。
真吾も何かあったことがあるのだろうか?俺が知らないだけで……
真吾の顔はなぜか真っ赤になっている。何かを振り払うように首を振っていた。
「とっとにかくなぁ!今の自分を存分に出せばいいと俺は思う。過去より今の方が大事だろ?」
「あぁ。そうだな」
まだ、このことは俊也には言えないけど、今の俺を信じていけるといいと思う。
真吾の言葉でそうゆう風に思えるようになった。
「頑張れよ!!」
背中をとんとんと2回叩いてくれた。
俺は応援されてばかりいるな。と自嘲気味に笑った。