16.二人の過去―前編―
夏の終わりを告げたのは、テストだった。
「健斗教えてよ!!これ何??」
俊也は困ったように俺に訊ねてくる。
「これは、こことここを掛けて……うん、そうそう……で。ここは公式を覚えないと駄目だろ」
俺達、只今勉強中。
俺はまぁまぁできるからいいけど、問題は俊也だ。数学が苦手みたいで、全然わかっていない。来週がテストなのに大丈夫なのか。
「あ!!できた!健斗できたよ!!」
問題が解けて喜んでいる俊也を見ていると、俺まで嬉しくなる。
「健斗って教え方上手いよね」
「あぁ。そうか?普通だけどな」
俺は下を向いた。
照れ隠しで、そっけない言い方になってしまう。
言えるときは言えるのにな……。
あの時のように
―――夏休みの遊園地に行ったとき。
「尊敬してるんだよ」という言葉に「有難う」って素直に答えることができたのに。
………いつもの俺は、本当に情けないな。
はぁ……とため息をつこうとした時、俺の頭上から誰かの声が聞こえた。
「それは俺の教え方が下手と言いたいのか。有泉君」
上を向くと、わざと怒った顔を作った平井がいた。
いつもニコニコしてるのに、こんな時だけ怒る平井のことを、俺は「ダーク平井」と呼んでいる。これは真吾が命名した。
「タツ先生の教え方はとっても上手いんですが……先生の性格に問題がね」
俊也もわざとらしくため息をつく。
「ほほう。どんなところが言ってみなさい」
「そうゆうところ!」
面白そうに二人は笑っている。
……俺的には面白くもなんともないが。
理由はわかってる。
平井に≪嫉妬≫してる。
ということだ。
なんで今俺と話してないんだろうとか。
何度も思った。何度も考えても、これは嫉妬心としか言いようがない。
平井は何か閃いたように、手をポンと叩いた。
「そうそう。今日はちょっと藤堂に話が合ってな。暇か?」
「あぁ。いいけど」
「ちょっときてくれないか」
さっきまで笑っていた平井の顔が、なぜかこわばっている。
「わかった」
俺と平井は俊也を教室に残し、屋上に向かった。
屋上には生徒は立ち入り禁止だが、今日はなぜか開いていたみたいだ。
平井は平然と、屋上の階段を上って行く。
「はいっていいのか?」
「あぁ。大丈夫だろう。なんかあったらごまかせばいい」
平井らしくない言葉。
そう思いながらも、俺は平井の後をついていった。
「………」
屋上についたはいいが、平井は中々口を開こうとしない。話しにくいのかと思い、俺から声を掛けてみた。
「どうしたんだ、突然」
一目おいて、平井は口を開いた。
「俊也のことなんだが…」
俊也のこと?それは一体何のことだろう。しかも、[俊也なし]で話すことって……?
いろいろな不安がよぎる。
平井は俺を見てから、重く口を開いた。
「アイツ、実は……恐怖症なんだ」
えぇ…俊也が恐怖症??