13.俺のために。
「お誕生日おめでとう!!」
真吾の家に入った途端。三人は言った。
「はぁ?」
何ですかこれは。まだまだ混乱中の俺は呆けていた。
俺の表情を見て、真吾は呆れるようにため息をつく。
「お前のことだからそうだと思ったよ。今日、お前の誕生日だろ?4月24日」
誕生日。4月24日……‥・あぁ。
「あぁ、そう言えば。今日は俺の誕生日だ」
すっかり忘れていた。
平然と言う俺に真吾はまたまたため息をつく。
「少しは感動したとかないのかよ」
誕生日にいい思い出なんかないから、そんなことを言われても困る。
「玄関に立っててもなんだから、中に入ってよ」
楽しそうに言う俊也に真吾は突っ込む。
「ここは有泉の家じゃねーよ。俺の家だ。お・れ・の!!」
「いいじゃん!!」
二人は睨みあってる。
まあまあと二人を落ち着かせて中に入った。
奥に行ってみると。
「あ……」
『健斗お誕生日おめでとう』と書いてあった。その他に部屋の周りには、折り紙で作ったわっかが飾り付けられていた。
テーブルの上には沢山のご馳走。チキンに、ピザ。フルーツにケーキ。
何かクリスマスみたいだなと思うようなものばかりだ。
「早く椅子に座ってよ!!」
俺は椅子に座った。
三人は俺を見て、
「お誕生日おめでとう」
と笑って言った。
「さっきも言っただろ」
ぶっきらぼうに言ってしまうのは単に照れてるだけだ。それを三人は知っている。
何か気まずい雰囲気を変えようと違う話題を持ち出す。
「これはなんだ?」
俺が指さしたのは、なんか焦げている正体不明のものだ。
実はさっきから気になっていた。
見た目は、焦げたパン?みたいなのだが……。
食い物かすら疑いたくなるものだ。
「それはリンゴパイ」
俊也が得意げそうに言った。もしかして……。
「俺が作ったんだ!!自信作★おいしそうでしょ?」
「あぁ…」
平然とした答えに、俊也はムッとする。
「なにその反応!!せっかく健斗のために僕がパーティ企画したのに」
……えぇ?
俺は一瞬、目を瞠る。
「俊也が企画してくれたのか?」
「そうだって言ってるじゃん!!」
頬を膨らませて怒っている俊也。
俺のために一生懸命企画してくれたのがよくわかる。
「そうか、有難な」
なぜか素直に気持ちを伝えることができた。
俺がほほ笑んで言うと、俊也の顔がリンゴのように赤く染まった。
照れてるのか?
可愛らしいな。
…男に言う台詞じゃないのはわかってるから言わないけど。
「べ、別にいいけど。健斗が喜んでくれればさ」
「嬉しいよ。有難う」
一回言ってしまえば素直に自分の気持ちをすんなりと言える。
こんなに簡単なことだったのかと疑いたくなるほど。
「食べてよ、僕の作ったリンゴパイ」
恥ずかしそうにリンゴパイを皿に取ってくれた。
「あぁ」
俺はリンゴパイをおそるおそる一口食べてみた。
「どう?」
俊也は心配そうな目で俺を見てくる。
さっきまでの自信は何処にいたのやら。
「美味い…」
「本当!?」
「本当だ」
俊也は嬉しそうに笑っているが、真吾と平井は本当かよって目をしている。
俺自身も最初、これは本当に食いもんか?と思ったがお世辞抜きで凄く美味い。
少し焦げてるところもあるけど、パイは温かくてパリパリしている。
二人も俊也のパイを口にして呟く。
「美味い」
「すげーうまいぞこれ!!有泉すげー」
俊也は照れてずっと下を向いている。
「練習した甲斐があったな」
「うん!」
嬉しそうに頷く俊也。
――練習してくれたのか。
俺だけのために、こんなに一生懸命になってくれるなんて……。
俊也が俺だけのために何かしてくれたこと、考えてくれたことがとても嬉しかった。