12.桜と松澤がくれた勇気
「うわぁーーーーーーーーー綺麗!!」
「そうだな」
「食い物日和だな」
「食い物かよ」
俺達四人は、学校近くの公園で花見をしに来ていた。
「なぁなぁ。あれ見てみろよ!」
真吾が指さした先にあるのは、大きな桜の木、通称デカザクラ。樹齢500年だそうで、とても大きいから俺たちはデカザクラと呼んでいる。
デカザクラの花びらが風にのって綺麗に舞っている。
「じゃあ食い始めるか」
「かんぱーい」
そう言った後、みんなでぐぐぐっとジュースを飲んだ。
みんなで沢山お菓子を持ってきたのだが……
15分後、あっという間にお菓子は無くなってしまった。
原因は真吾と松澤。
「お前ら食いすぎだろう」
真吾と松澤はなんか競争しているみたいで、両手にお菓子持ちながら食っていた……口に詰め込んでいた。
俺は呆れたが、俊也はどうやら違ったらしい。
「宮沢君もタツもよく食べるね」
俊也は少食だから、逆に感心したみたいだ。
「俺はタツには負けたくないんだ!!」
「俺もだ!!」
二人とも運動部ということもあって負けず嫌いだ。
「どっちが勝った?」
二人は訊いてくる。そんなところ見てるわけもなく、
「知るかよ」
と俺は言ったのだが、またまた俊也は違ったらしく。
「宮沢君の勝ちだよ。タツの方が10個分少なかった」
そんなところ見てたんだな、と俊也に感心したくなった。
――この頃思ったのだが、俊也は結構天然ということがわかった。
俺は鈍感らしい(真吾に言われた)から中々気づくことができなかったけど。
俊也って別に気にしなくてもいいようなこと気にすることがあったり、突然意味不明なことを言い出したり。
でも、そんなところが可愛い。
だんだん俊也のこと知っていくにつれ、だんだん好きになっていくのも感じる。
まだお菓子を食い足りない真吾が提案した。
「お菓子調達しようぜ。じゃんけんで」
みんな頷いて、
『最初はグー、じゃんけんぽん!!』
俺と待つ座wがパーで、真吾と俊也はグー。
真吾と俊也が負けたので、コンビニに買い出しに行った。
「なんかあの二人がいなくなると静かになるよな」
「あぁ。そうだな」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
あまり話したことがないから気まずいのではなく、このままの方が気持ちがいいのだ。
なぜかわからない。でも、穏やかな感じがする。
何分か経った頃、松澤が突然呟く。
「なぁ。あのジンクス知ってるか?」
ジンクス?何のジンクスだと訊くと、
「デカザクラのジンクス」
「知らないけど」
そう言うと、松澤は語るように話し始めた。
「このデカザクラの下で告白をすると、恋が実るんだ。でも、桜の咲くこの時期だけ。他の時期にしても恋は実らない。それはこの桜の木に力があるからだ。桜が咲いている時だけ木に力が宿ると言われている」
俺は素直に驚いた。松澤がこんなにロマンチックなこと言うとは思わなかった。なんというか松澤って堅物ってイメージがあったから。
「もしかして松澤はここで真吾に告白したのか?」
ちょっと茶化すように言ってみた。どう答えるのか聞いてみたくて。
いつもなら無表情で首を横に振りそうだと思っていた。
でも違うんだな。
「あぁ。ここで告白した」
松澤はデカザクラを見ながら目を細めた。
きっとその時のことを思い出しているのだろう。
真吾は幸せ者だ。こんなにも松澤に想ってもらえて。
「羨ましいよ」
つい、本音が出てしまった。
――告白できる松澤の勇気が羨ましい。
――お互いを想って想われることが、羨ましい。
「藤堂、俺な。今この時期じゃなければ恋は実らないっていたけど、それは違うと思うんだ。なぜかというと、俺は真吾にここで【夏】に告白したんだ」
「えぇ?」
夏に告白して松澤と真吾の恋は実ったって……。
「だから頑張れよ!怖いなら、桜が咲く時期にここで。……お前なら大丈夫だ」
俺の目を見て真摯に言ってくれた松澤。
やっぱり松澤は俺の気持ちに気付いていたんだ。
この話をしたのは、俺も告白しろという意味なのだろう。
松澤は俺に勇気をくれた。
≪怖がらず、前向きに行け≫という勇気を。
「ありがとう、松澤」
「あぁ」
俺達二人は、微笑んだ。
「おーーーーーーーーーーい!!」
俊也と真吾は、走ってきた。二人とも両手に大荷物。
何を買ってきたんだ?袋の中身を見ると驚くべきものが入っていた。
「何だこれ??」
そう口にするように、何だこれ?というものが入っていた。
三角帽子に、眼鏡。つけ鼻に、どでかいリボン。
どう見てもそれはお菓子ではなく、お祭りで使うような仮想道具が入っていた。
これをどうするんだよ??と目で問うと。
俊也と真吾は面白そうに笑った。
「パーティーだよ。パーティー!!」
「何のパーティーだよ?」
そう訊くと、なぜか平井まで笑いだした。
訳わからない俺は、瞬きをするのを忘れ、ただ呆然としていた。
「とにかく来てのお楽しみ!!」
と言って、俺は何処かに連れていかれた。