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封印の地図

 タブレットに手を添えて、今度こそ修復のために交信をする。

 不足の欠片はないようだ。一分もすればそれは完全な形に再生された。


「魔法障壁に使われていたエネルギーを還元したけど、それでも起動はせいぜい一回しかできなそうだ。ここを出たら燃料を補充したいな」


「魂のエネルギーの補充……私は充魂武器の補充の仕方しか知りませんが、あなたはこういうアイテムの充魂の仕方を知っているんですか?」


「ああ。ガイナードの知識の中に一応ある。一番穏便に補充するなら、深夜まで待たないといけない。今度やり方を教えるよ」


 魂のエネルギーは、文字通り生物の魂のエネルギーだ。エネルギーの量は、生物の大きさや知能などによって異なる。

 充魂武器の場合、それを使って対象のものを殺すと相応の燃料が補充される仕様になっていた。


 しかしアイテムの充魂にはもう少し手間が掛かる。

 今度グレイに教えがてら、手順をさらっておこう。


「よし、じゃあタブレットを起動してみるか。この小さな水晶の板がはめ込まれたところに血を垂らすと、その人間を認証して起動するみたいだ」


 ターロイは言いながらグレイに向かって手を差し出した。


「何ですか」


「俺の血。カプセル持ち歩いてるだろ。一個返して」


 そこにあるのが分かってるのに、自分でわざわざ傷を作るのも馬鹿らしい。そう要求すると、少し不服そうにしながらも、グレイが血のカプセルを一つこちらの手のひらに乗せた。


「タブレット起動のためなら仕方がないですね……。さあターロイ、とっとと起動しなさい」


「はいはい」


 カプセルを水晶の上に置いて、親指でぷちんと潰す。

 すると途端にタブレットの全面に光の膜ができて、そこに砂嵐のような画像が映し出された。


「これは……失われし前時代の技術……。魔法の粒子に信号による光を反射させて、蓄積された情報を映像として映し出すもの、ですね」


「この技術もガイナードの知識にはないな。前時代の後期には、まるで大きな技術革命でもあったみたいだ。……大戦の終結と、何か関係があるのかな……」


「ふむ、いい謎ですね。私の研究リストに入れておきましょう。さあ、次はその映像を操作してみてください。まだ鉄格子が開かないところを見ると、出すべき映像があるのかもしれません」


「そうだな。ええと……」


 グレイに促されて、操作しようとタブレットを持ち上げる。と。


「『再生ノ申シ子』ヘノ、画像ヲ預カッテオリマス」


 唐突にゴーレムもどきがしゃべり出した。

 そしてターロイの手から抜け出して自分の足で立ち、自分の手でタブレットを操作し始める。


「……ん? このタブレットの使役者はターロイではないのですか? 勝手に動いてますけど」


「本来はそのはずなんだけど……。これ、ガイナードの核の持ち主の認証が取れると自動で発動するプログラムみたいだ。やっぱり全部仕組まれてるんだな」


「では、これの言う画像とやらをターロイが見れば、試練はコンプリートということですか」


「おそらく」


 二人でゴーレムもどきの操作が終わるのを待つ。

 時折その行動が止まって『Now Rording……』と画面に表示されるのがちょっとイラッとくる。


「……ロード時間長すぎじゃないですか? 何回やるんですか? めっちゃ興が削がれるんですけど」


「データ読み込みが終わらないんじゃしょうがないだろ。まあ、イラッとするのは同意だが」


「残エネルギーガ少ナイタメ、動作ガ省エネモードニナッテイマス」


 愚痴っていたら律儀に回答をくれた。エネルギー不足じゃあ仕方ない。


 それからまたしばらく待っていると、ようやくゴーレムもどきが石板の前面に画像を表示した。


「オ待タセシマシタ。ガイナードノ能力封印場所ノ地図デス」


「ええ!? ちょっと、マジ? いきなりそんな核心情報?」


 思わぬ情報をあっさりと提示されて、面食らう。しかし、その画像は確かにこの大陸の地図だ。王国の街や山、川の表示があり、そのあちこちに赤い点と一から七までの数字がふってあった。


「一がこのアカツキの祠ですね。……この数字は、この順番に封印を解けということですか」


「だと思う。ガイナードの能力は積み上げ式だから、たとえば二の能力を飛ばして三の能力を手に入れることはできないんだ」


「ふむ、面倒ですね。でもまあ、地図があるなら大した問題でもないですか。……それにしても、こんな画像一枚出すのにあんなにローディングしてたんですかね」


 そういえば、確かにあの長い読み込み時間なら、もっと複雑なプログラムでもされていそうなものなのに。


 そう思ってゴーレムもどきを見ると、何故か口から煙を吐いていた。


「お、おい、どうした!?」


「コノデータハ極秘事項デス。『再生ノ申シ子』ニ開示ヲ終エタラ、自動的ニ爆発シマス。爆発マデ、アト三〇秒……」


「えええ!? ちょっと待て!」


「爆発して壊れても、ターロイなら直せるんじゃないですか? ……いや、それくらい相手もお見通しですよね……となると、このチャンスは一回限り……?」


「ごちゃごちゃ言ってないで、その前に爆発を避けないと! ああ、そういや鉄格子も開いてない! 爆発までが試練の一環かよ!」


「きっと死ぬような爆発じゃありませんよ。それより、この地図の詳細は今後見れないかもしれない。あと一五秒。ターロイ、二・三・四の場所を完璧に暗記して。私は五・六・七を覚えておきます」


 妙に楽観している冷静なグレイに促されて、地図の場所を三カ所だけ覚える。しかし、このカウントダウンをこんなに間近で待っていられるほど、ターロイは楽観主義者ではないのだ。


 最後の三秒で、急いでグレイの襟首を掴んでタブレットから距離を取る。


 次の瞬間、爆裂系の魔法が発動し、耳をつんざくような爆発音と共に強烈な熱と爆風が二人を襲った。

 飛ばされた石礫がばちばちと無数に体を打つ。

 やばい、これ。間近にいたら死んでたかも。


 炎系の魔法と違ってすぐに収束する魔法だけれど、瞬間の威力はこちらの方が上なのだ。


「いってぇ……」


「なるほど、やたらと読み込みが長かったのは、この自爆のプログラムまで起動していたからなのですね」


「何落ち着き払って分析してんだよ。全く、あのまま間近にいたらあんた死んでたぞ」


「そうですね。ちょっと甘く見ました。常人なら遠くに逃げるはずだと思って仕掛けられた罠だったんですね。この教訓は今後に活かしたいと思います」


 相当危険な状況だったのに、あっさりしたものだ。

 まあ、事実死ななかったわけだから、もしかしたら死んでたかもなんて考えるだけ無駄だと思っているのだろう。反省点だけ抜き出して、グレイはその思考をポイしたのだ。



「それよりも、まだ鉄格子が開いてないんですけど」


「え、嘘だろ。もしかして、もう一回このゴーレムもどきを直すとか……」


 グレイの指摘に驚いて、ゴーレムもどきの破片を見回す。最初の時と違って、原型が分からないくらい粉々になっているが、まあ、欠片は全て揃っているのだから修復はできるはずだ。


 でも、結局修復できるんだったら、何のために爆発したんだよ。


 不思議に思っていると、アカツキの隠し扉に、こぶし大の小さな穴が開いた。


「……あれ? アカツキのひよたん?」


 ひょっこり現れたのは、先日戦ったひよたんだ。もちろん、今のその姿は黄色いふわふわだが。


 ひよたんは地面に飛び降りて、何かを探しているようだった。

 そして、目当てのものを見つけると、それをくわえて再び穴をくぐり、隠し部屋に戻ってしまった。


 それと同時に鉄格子が開く。


「あ、開いた」


「今のあのひよたんは何をくわえて行ったんでしょう?」


「多分、タブレットの裏面の魂言の一部だ。俺に再生をさせないために、欠片を回収していったんだと思う」


「なるほど……そこまで完璧に事を進めてから、やっと解放ですか。なんとも抜け目のない」


 グレイは感心したように何度も頷いた。

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