神への反逆
「……あれが守護者?」
「そうです。こうして見ると到底神の僕とは思えませんが」
ターロイは首を傾げた。
前時代の知識の中に、守護者というものは存在しない。しかしあの姿自体は知識の中にあった。
前時代では、あれは、守護者なんてものじゃなかった。そう、あの姿はとある術のなれの果て。
では、あれを操っている神って、何者なんだろう?
「……グレイ達の神様って、グランルークだよね」
「そうです。前時代の英雄で、人類の救世主とされています」
グランルークという人物についてはもちろん知識にある。
前時代での能力と人となりは、国民に慕われるに十分なものだったようだ。その人を神とする教団が、どうしてこんな組織なのだろう。
教団の成り立ちなどは分からない。
ターロイの持っている知識の中には、グランルークの死後について何の情報も無かった。
あの声……この知識の持ち主は、グランルークが存命中に死んだ(?)のかもしれない。
まあどうあれ、教団が神の名の下に村を潰したのは事実。
「英雄だとしても……こんな酷いことをする奴が、神のわけない。こんなの……俺は許せない」
少年が呟くと、グレイが好奇の目を向けてきた。
「あなたが許せないと言ったところで、グランルークは正邪を別にしても教団の神です。どうするつもりですか?」
「俺は、神を壊す」
きっぱりと言い放ったターロイに、彼は何故か楽しいものでも見つけたように笑った。
「それは面白い。しかし重大でとても難しい。今のターロイでは到底無理です。計画、準備、その資金、信頼できる者、そして実行する好機……最低でもこのくらいは考えないと。神を相手にするということは、強大な教団を敵に回すということですから」
グレイは少年の決意を測るように、その言葉に重しを乗せる。
けれどターロイは、そんなものに覚悟を潰されはしなかった。逆にするべき事を提示されて、すんなりと決意が自分の中に収まった感覚すら覚える。
さて、何から手を付けるべきか。これからおそらく年単位の計画が必要になる。自分の身の振り方も考えなければ。
そう考えながらグレイを見上げる。彼はまだ好奇の目をこちらに向けていた。
「……俺が教団と戦うとなると、グレイは敵?」
「どうでしょう。敵になるつもりはありませんが、味方だとも思わない方がいい」
「じゃあ、何で俺を助けてくれたの」
「あなたが狂戦病という貴重な力を持っていたからです。……その上、新たな能力を見るに……あなたは再生師ガイナードの核を埋め込まれたようだ」
ガイナードの核? よく分からないけれど、心臓のところに変な石を埋め込まれたのは確かだ。孤児院の仲間もみんな同じように石を埋め込まれ、俺以外はみんな死んだ。
シャツの前を少し開けて確認すると、心臓の真上に脈打つような赤い塊が埋まっていた。グレイもそれを覗き込む。
「……ふむ? 適合……したのですよね? 過去の適合成功した文献の記述と様子が違うようですが……」
「そう言えば、誤動作で異常融合とか言ってた」
「異常融合……」
そう呟いてから、グレイは少し逡巡した。
「……ターロイ、この後どうせ行く当てはないでしょう。私のところに来ませんか。本当はどこか他の村で預かってもらって時々観察に行くだけのつもりでしたが、気が変わりました」
「は? でも今さっき、グレイを味方だと思うなっていったよね?」
「味方だと思わなくて結構です。私もただあなたの特異性をつぶさに観察したいだけなので」
つぶさに観察って……。うわあ。こちらを見る彼の瞳がすごく輝いている。そう言えば、村に時々医術師代わりに巡回に来ていたグレイは、俺の血を採る時いつもこんな顔してた。
「……つまり研究材料として来いってこと?」
「基本的にそういうことです。でもあなたへのメリットもたくさんありますよ? 教団の事情を内側から探れますし、神関連の資料も豊富ですし。病気になったらその身体では普通の医者にはかかれないですけれど、私がいれば問題ないですし」
確かに、事情を知っている大人がそばにいてくれるというのは心強い。だって子供一人では何をするにも制約が発生する。
金銭的な面でも、彼ら教団員は一般人に比べて破格の活動費支給があるというし、問題ないだろう。
どこかの村で一から準備を始めるよりも、ずっと効率がいい。
血を採られるのはちょっと好きじゃないけど。
「……わかった。研究材料になる」
ターロイが強く頷いてそう答えると、グレイは満足げに笑った。
「ふむ、危険を冒してわざわざここまで足を運んだ甲斐がありました。……あなたを救えたことで、これからこの世界は動き出す。……最強になるか、最凶になるか……。楽しみですねえ」
始まりの章はここで終わりです。
次回から本編。宜しくお願いします。