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サーヴァレット

「くそっ! 全員でかかれ!」

「は……、はっ!」


 サージの号令で、護衛が自棄気味に攻撃を仕掛けて来た。

 残った護衛は剣使いばかり。リーチも力量も完全にこちらが勝っている。

 ターロイは振り下ろされる剣を捌いて一人、二人とハンマーで打ち倒した。

 捨て鉢な攻撃に本気で相手をするのも馬鹿らしい。適当に再起不能にして捨て置いていく。


「ちっ、役立たずどもめ……!」


 一人倒すごとに近付くターロイに、サージは後退った。


 それでも、逃げてはいかない。

 ターロイはそれが不可解だった。


 サージという男はプライドが高く強がりだが、実際は酷く小心者で、嫌なことは他人任せにしてすぐ逃げ出す。自己保身の固まりなのだ。

 なのに、これだけ簡単に護衛を倒されてなお、ここにとどまっているなんて。


 護衛がサージの両脇に侍する二人だけになったところで、ターロイは一旦攻撃を止めた。


「……今日は親父に言いつけに帰らないのか、サージ。すぐに小便漏らして逃げるかと思ってたのに」


「お、俺を馬鹿にするな! てめえみたいなゴミと違って、俺は大司教様に見込まれてんだよ! 司祭になった時に、教団の至宝を託されたんだ!」


「教団の至宝?」


 高価な宝を頂いて、教団への忠誠を誓ったと言うことか? しかしこのサージは、それくらいで忠誠心と自分の命を天秤に掛けるような男じゃない。


「俺は、この宝のおかげですごい力を手に入れた。すでに教団に害をなす人間を何人も葬ってる」


 男の言葉に眉を顰める。

 こいつがここにいるのは私怨もあるだろうが、そもそも教団を離れたり不満を持ったりする人間を排除する役目を与えられたということか。とても不適当な配属に思えるが。


 しかし、宝のおかげでそれをこなしている、と。

 教団の宝と言えば、それは前時代の遺物だ。その中には魔力が込められて、人間に影響を及ぼすものが数多くある。


 宝ですごい力を手に入れたということは、その中でも貴重なステータス上昇アイテムか。充魂武器もそれなりに能力が上がるが、あの程度のブーストではサージには焼け石に水だろうし。


 不思議なのは、そんなすごい力を、何故追い込まれる今まで出さなかったのかということだ。


「そんなすごい力があるんなら、何で俺と最初から一対一でやり合わないんだよ。どうせはったりじゃないのか?」


 とにかく、そのすごい力とやらの正体が分からないことには対策が取れない。挑発をしてやると、サージは引きつった笑いを零した。


「は、は、そんなこと言えるのは今のうちだぞ。あまりにも俺の力が強すぎるから、ぎりぎりまで待ってやったんだ。これは味方も巻き込んじまうからな」


 味方も巻き込む。その言葉に嫌な予感がした。


 強すぎるから待ってやったというのは多分嘘だ。強いだけならこの男は嬉々として最初から掛かってくる。

 おそらく、能力発動の代償が大きいアイテムなのだろう。そして、味方も巻き込むということは、制御が利かない能力なのだ。


 そうして推測して、ターロイはあるアイテムに思い当たった。


 それは至宝と言うには危険すぎる一本の剣。

 多大な力を得るが、犠牲にするものも大きい。


 ……まさか、教団はこんな男にあの魔剣を?

 おまけにもう何人か葬ったと言っていたから、すでにそのアイテムは起動してしまっているのか。


「……お前がここまでそれを使わなかったのは、使った後に一度死んでしまうからだな?」


 ターロイがかまを掛けると、サージは目を丸くして狼狽えた。


「な、何でてめえがそんなこと知ってんだよ」


 やはり、そうか。


「魔剣サーヴァレット……まさか封印されずに残っていたとは。おまけに、こんな馬鹿男が所有者になってるなんて……」


「さっきから、俺のことを馬鹿にすんじゃねえって言ってんだろ! ほんとにこの鞘から剣を抜くぞ!」


 持っている宝を言い当てられて、隠している意味がなくなったサージは、それを取り出して鞘と柄を握って見せた。


 長さはショートソードと同等。その柄には前時代のまじないの文言が書かれているようだった。おそらく鞘から抜けばあの刀身には白くなった石が埋まっている。

 紛れもなく、サーヴァレットだった。


「……サージ、お前はその剣がどんなものか知ってるのか?」


「知ってるに決まってんだろ。俺に最強の力を与えてくれる剣だ。人間を食って、どんどん強くなる。……使い終わった後に一度死んじまうのがたまにきずだが、一晩過ぎれば生き返るから、問題はねえ」


 なるほど。都合の良い話ばかり聞かされているのか。

 しかし、おおかた間違ってはいない。


「てめえなんかに使う必要はないと思ってたが、お守り代わりに持ってきておいて良かったぜ。……下民のくせにたてつきやがって、ずうっと気に食わねえ奴だと思ってたんだ。てめえなんか、この剣の餌にしてやる!」


 言いつつ、サージがサーヴァレットの鞘を抜いた。


 途端に、雰囲気と目つきががらりと変わる。

 こいつ、まだ両脇に護衛がいるのに、お構いなしか。


「魂を寄越せええ!」


「うわあああ!」


 サージが言いざま、剣で左右にいた護衛をなぎ払った。

 すると切られた人間が光の粒子になり、剣に吸い込まれていく。

 剣の刀身にある石が、淡く光った。


 そう、サーヴァレットは魂を食べる剣。

 魂を得るために、所有者の理性を奪い、操る。そして周囲にいる人間を無差別に襲うのだ。


「魂をおおおお!」


 いつものサージからは考えられないスピードで突進してくるのをかわすと、こちらを相手にする前に、ターロイが殺さずに転がしておいた護衛を次々と剣に食わせていく。

 もちろん躊躇いなど微塵もない。


 ターロイはその光景に酷く嫌悪感を抱いた。


 サーヴァレットに操られたサージの状態は、ターロイの狂戦病の発作によく似ているのだ。


 敵味方関係なく、誰彼構わず手に掛ける。

 ……ただの殺戮兵器みたいだ。

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