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マリーとの会話

 ルアーナが聖堂を去った後、ターロイは辛うじて形を残している出口付近の長椅子にマリーを運んだ。


 それから聖堂の隅にスペースを作り、近くにあった黒炭で転移方陣を書く。ここは空間が切り離されているから、国や拠点で何かあった時の避難場所に使えるかもしれない。書いておいて損はないだろう。


 血のカプセルを使って転移方陣を発動し、それを確認する。

 問題なく方陣を設置し終えたところで、背後で人が身じろぐ気配がした。


 どうやらマリーが目を覚ましたようだ。


 振り返ると、ゆっくりと身体を起こした彼女の、髪の色と同じブラウンの瞳と目が合った。


「……あなたは誰? ここは……?」


 不思議そうに首を傾げるマリーに、あまりこちらを警戒する様子は見えない。おそらくターロイが種族的に竜人族より圧倒的に弱い人間族だから、ほとんど脅威を感じていないのだ。


「俺はターロイ。ここはエルフの隠れ里にある、ユニルエスタの聖堂だ。成り行きであんたを助けることになっちまったんだが……あんた、不死者になってたことは覚えてるか?」


「不死者……!」


 その言葉ではたと何かを思い出したように彼女は自身の身体を見回す。


「そうだわ、私は石化病に罹って死の淵にいた時に、不死の術を受けて不死者に……。でも、不死の術が解けたのに、病が消えている……どうして?」


「ああ、石化病の病原になってた腫瘍は俺が消した」


「消した? 人間族にはそんな技術まであるの……?」


「技術っていうか、これは俺特有の能力っていうか。俺があんたを助けられたのは、本当にたまたまだったんだ。ここに封印されていることも知らなかったし」


 ターロイが言うと、マリーは不思議そうに首を傾げた。


「封印……?」


「あんた、それも覚えてないのか。……俺も聞いただけで詳しいことは知らないけど、あんたは随分昔にエルフの里を襲撃して、以来ここに封印されてたんだ」


「……そう言えば、少しだけ記憶の断片みたいなものが……。知らない声が頭の中に聞こえて、私に何かを命じて……」


「知らない声に命じられた?」


 今まで不死者から蘇った者などいなかったから、これは初めて聞く話だった。もしかして過去に、不死の者たちを統制する奴がいたのだろうか。


 サーヴァレットやソウルバイカーとも関係がある様子だし、不死者についてはおいおい調べていく必要があるだろう。


「……駄目だわ。不死の術を受けてからしばらくは普通に意識があったはずなのに、その後の記憶がほとんどない」


「まあ、今は無理に思い出さなくていいよ。とりあえず身体は治したし、また変な声に命じられることもないだろ。……それより、あんたのこの後のことなんだけど……」


 ルアーナは彼女が竜の谷に戻ることはないと言っていたけれど、だからといって自分の拠点にいきなり誘うのもどうだろう。

 どう切り出すべきかと迷っていると、マリーも困ったように眉尻を下げた。


「この後……。私はまだ竜の谷には戻れないわ」


 ルアーナの言うとおり、何か事情があるのか、やはり彼女は谷には戻らないようだ。


「他にどこか頼るところはあるのか?」


「……いいえ。そもそもこの世界に、私の存在を知っている者だって何人いるかわからない」


 確かに、竜人族は滅多に姿を現さないし、他の長命の種族も軒並み滅んでいるのだから、顔見知りなどほぼいないだろう。

 ターロイだってルアーナがいなかったら、見ず知らずの竜人をわざわざ封印を解いて助けてやろうなんて思わなかったに違いない。


「それでも、一人でどうにかしなくちゃ。まずは人間族の街に紛れたほうがいいかしら。……あの、ターロイさん。助けていただいた上に申し訳ないのだけれど、どこかに住み込みの働き口を紹介してくれないかしら」


「働き口か」


 おお、これはいい展開。彼女の方からそう言ってもらえると、こちらとしてもやりやすい。


「だったら俺の拠点に来るといい。住む部屋はあるし、仕事もある。竜人族だとバレないように気を付けてくれれば、こっちとしては問題ないよ」


「本当? それは助かるわ。ひよたん持ちなら他の人間よりもずっと信用できるもの」


「ひよたん?」


 思わぬところでひよたんの名前を出されて、ターロイは肩の上の黄色いふあふあを見た。竜人族もこの存在を知っているのか。


「ひよたんは高次の精霊だから、性質上悪人には従わないのよ」


「そうなんだ」


 ここでもひよたんの存在が役に立つとは。

 もしかして最初からあまりこちらを警戒していなかったのは、こいつがいたからなのか。


「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は竜人族のマリー。改めてよろしくね、ターロイさん」


「ああ、よろしく。……さて、さっそくあんたを拠点に案内したいところだけど、その前にやることがあるんだ。ちょっと待っててくれるか?」


 ここまでは一段落。あとはラウルをどうにかしないといけない。

 どういう状態なのかまるで分からないから、確認して来なければ。

 そう考えて、マリーに声を掛けて聖堂を出ようとすると、彼女も立ち上がった。


「私も行くわ」


「え? まあ、いいけど……身体、大丈夫なのかよ」


「ええ。石化病が消えたおかげで調子よすぎるくらいよ。……一応エルフとは以前少しだけ関わったことがあるから、私でも役に立てるかもしれないわ」


 確かに、一人で行くよりもいいかもしれない。

 ガイナードの知識には、エルフの里の中に関するものはほとんどないのだ。エルフと関わった記憶があるマリーの方がずっと役立つだろう。


「じゃあ、一緒に来てくれ」


「ええ」


 ターロイはユニルエスタの聖堂を出ると、裏にあるという湖に向かった。


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