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魂言のメモ

 前時代の文献に挟まっていた魂言で書かれたメモには、ターロイへのメッセージが並んでいた。


『いらっしゃい、ターロイ。

 君が何のためにここに来たのかは分かっている。この本を開くだろうということも。だからここにメモを残した。


 本当はあの人に君との接触を禁じられているけれど、どうしても渡したいものがあったんだ』


 あの人、というのはウェルラントの事だろうか。

 昨日の晩にターロイをここに入れるのを渋ったのは、このメモの主がいて、会わせたくなかったからか?


 どうやらこの人物はこちらのことを知っているようだが、ミシガルに知り合いなどいないし、ターロイとしては心当たりがなかった。

 何より、魂言を駆使してメモを残せる人間なんて、存在すら初めて知った。


 魂言は本当に難解で、グレイはもちろん、ターロイですら読めはしても文章を作ることができないのだ。


 その言葉をいとも簡単に操って、メモは続いた。


『今後の戦いのために、君用の転移方陣を造っておいた。受け取って欲しい。使い方は知っているよね?』


 メモの下の方に、二重の円の中に図形と自然数と魂言をちりばめた、複雑な絵が描かれている。


(魂方陣だと……!)


 これは前時代に、魔力がなく劣勢だった人間族のためにグランルークが造った魔方陣だった。

 代償さえあれば他の者でも使えるが、文字配置や法則が複雑怪奇で造り出せるのはグランルークだけだったはずなのだ。

 中でも転移方陣は個人ごとに組まれていて、過去の物を流用などできない。


 つまりこの魂方陣はターロイのために最近……というか、まさに昨晩、造られたということか。


 このメモの主は一体何者なんだ。ウェルラントに問い詰めてみたいけれど。


『このメモのことはくれぐれも内密に』


 そういうことだろう。

 領主はターロイとこの人物を接触させたくないようだし、不用意なことをしてミシガルとの協力関係を崩すわけには行かなかった。


(……ウェルラントも色々訳ありの男のようだ)


 とりあえずは知らぬふりをしておくのが最善。

 ターロイは騎士の監視の隙をついて、メモをこっそり懐に入れた。







 ほぼ一日を書庫で過ごして、部屋を出たのは夕食の時間になってからだった。

 夕食後に書庫を使うのは止められている。今回はここまでだ。

 ジュリアたちと食事をした後、ターロイは一人、領主の執務室を訪れた。


「目的の情報は見つかったのか?」


 部屋に入ると、ウェルラントが今日の成果を確認する。

 それにターロイは肩を竦めた。


「色々得るものはあったけど、一番欲しかった情報は見つからなかった。とりあえず明日は一旦王都に戻るよ」

「そうか。……ところでこれは最初に聞くべきだったが、君は前時代の書物が読めるのか?」

「ああ、読める」

「なるほど、やはり……」


 領主は何事かを思案した。その不自然な様子に、ターロイも探りを入れる。


「あれだけの文献を集めた書庫があるんだ。あんたのところにも古文書が読める奴がいるんじゃないのか?」

「……いや、あれは私が少しずつ解読しているだけだ。他に読める者などいない」


 ……嘘だ。どうして隠す必要があるのだろう。魂言を使えるほど前時代の知識に長けた人間がいるはずなのに。

 メモにも彼がターロイとの接触を禁じていると書かれていたけれど、会うと何が起こるというのだ。


 さっき書庫で監視をしていた騎士にそのような存在がいるのか訊ねてみても、まるで知らないようだった。


 随分と胡散臭い話だ。


 もちろんそこを突っ込んだりはしないけれど。





「そういえば、君が言っていた元・山賊の通行手形の手配をしておいた。名義はディクトのものにしてある。街で騒ぎを起こしたら一発で出禁だと伝えておいてくれ」


 ウェルラントはそこからすぐに話を変えてしまった。


 しかし直近の重要度でいったらこちらが上。ターロイはそれをありがたく頂く。


「了解。でも、ディクトで大丈夫なのか? あいつ街の商人に山賊として顔知られてないか?」

「平気だ、しばらくの間は街を歩く時に騎士を同行させる」

「ああ、なら安心だ。手間を掛けさせるな。よろしく頼むよ」


 受け取った手形を腰のポーチに入れて、ターロイは軽く頭を下げてから再びウェルラントを見た。


 もう一つ確認することがある。

 王国軍に助力が必要かどうかだ。


「ところでさっきも言ったように明日王都に戻るが、俺が何かすることはないのか? ……王宮に用事は?」


 ジュリアがここに来た理由はまだ知らないが、王宮に何かあったことだけは分かる。もし手が必要なら貸さないことはない。

 王国側に借りを作っておくことは後々いろいろ役に立つ。


 そう思って訊ねると、少し逡巡してから領主は首を振った。


「残念ながら頼めることはない。今はな。ただの従者とはいえ君はまだ教団の所属だ。王宮側が警戒するだろう」

「だったら教団側で動いても構わないぞ」


 返した言葉に、ウェルラントが顎をさする。


「……ふむ……そうか、教団側でか」


 彼はちらりとこちらに探るような視線を向けた。何か該当する案件があるようだ。


 どんな仕事だってやってやろうじゃないか。

 教団側相手なら、施設を壊したって所蔵品を盗んだって気にならない。


 と、意気込んでみた、けれど。


「だったら、グレイに書簡を届けてくれないか」

「……書簡?」


 あれ、思ってた仕事と違う。

 というか、書簡って、破り捨てたあれの返事か?


「そのくらい、全然構わないが……」

「ミシガルを立つのは明日の朝方だな? それまでに準備しておく」

「……頼みってそれだけなのか?」

「そうだ」


 ……まあ、いいけど。






 翌朝ウェルラントから受け取った書簡は、随分と分厚かった。

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