ウェルラントに報告
翌日、まずはイリウを連れてミシガルへと飛んだ。
事前に共鳴石で連絡を取り、ウェルラントがいることは確認している。ひとまずルアーナの件は話しておかなくてはいけなかった。
「……モネの地下がアルディアに繋がっていただと?」
「つっても今はもう繋がっていないけどな」
ウェルラントの言葉に補足を入れる。テレポートポインターは回収してしまったから、あそこからアルディアに飛ぶことはもうできないだろう。
「それでも、やはりあの地下への入り口は閉じるべきだな。守護者もまだ残っているし」
「あの爆弾を抱えたままモネを再興するのは少し気がかりなんだけどなあ」
隣でイリウが大きく嘆息する。
……守護者か。
正直、ルアーナがいれば排除することが可能かもしれない。けれど、それを口にはしなかった。
彼女と不用意に接触するのもまたリスクが高いのだ。
「それで、ターロイの再生師能力は無事回収できたんだな?」
「ああ、問題ない。今回戻ってきたのは欠損再生の力だ。燃え落ちたり風化したりと一部が欠損したものを、周囲の物質を使って再生する」
「その力をモネの復興にちょっと貸してもらおうと思ってるんだ。……安心しろ、賃金はちゃんと払うからな」
イリウはターロイに向かって、任せろとばかりに自身の胸をどんと叩いて見せた。
さすが、こういうことはきっちりしている。
「モネの復興に掛かる費用は王国からも工面する。イリウ、その辺の収支はまとめて後で報告してくれ」
「了解。……それでさ、ついでの提案なんだけど」
ウェルラントが復興費用の話を出したからだろう、イリウが言葉を乗せてきた。
「何だ、言ってみろ」
「ターロイたちの拠点とモネを繋ぐ直通の道を作らないか?」
「へ? 俺たちの拠点と?」
隣から出た唐突な話に目を丸くする。
そんなターロイを放って、ウェルラントとイリウが話を進めた。
「確かに、我々があそこを宿駅として使っていることを考えれば、モネにも繋がっている方が都合がいいな。今後モネも王国管轄になるし、いちいち王都からミシガル経由で行くよりずっと早い」
「あの拠点から南に山を下ればモネの外れに出る。道を作るのもターロイの力に頼れば早いと思うんだよな。木を伐採しながら復興用の材木も作れるし、一石二鳥だろ」
「うむ、許可する」
こちらの話も聞かずにウェルラントが許諾する。
そんな簡単に決めていいのか、これ。
「そんなことしたらミシガルとモネの間にある宿駅が売り上げ減るだろ。イリウ、店主から相談受けてたじゃないか」
「あくまでターロイの拠点を通るのは王国軍の兵士や騎士だけだ。旅人や商人はミシガルを経由する。モネが王国管轄になって復興すれば、今まで以上に往来は増すだろうから、心配はいらない。店主も色々考えているしな」
正直ターロイ側としても、拠点を経由してくれる人間が増えるのは単純に収入増になるからありがたい。
ただ逆に、見張るべき箇所も増える。
今の拠点の人数では少し対応に不安があった。
「もう少し仲間の人数が増えないと、拠点では対処しきれないかもしれない」
「人数か……確かに、お前の拠点の人員は少ないかもしれないな。もう少し増やせ」
ウェルラントは簡単に言うけれど、人を探すのだって大変だ。特に教団の息の掛からない、人として信頼できる人間となると、一朝一夕に掻き集められるものではない。
考え込んでいるターロイに、彼は言葉を続けた。
「何ならイリウのとこの子供たちを紹介してもらったらどうだ。彼らなら有能だし、人間的にも問題ない」
「イリウの子供?」
思わぬ提案に驚く。
モネでの彼は一人暮らしのようだったが、結婚してるのか?
もしくは、離婚してて子供は別のところにいるとか?
イリウの歳は三十代前半に見えるけれど、こちらの仲間に勧めるってことは、子供たちは一体何歳なんだ?
不思議に思って彼を見ると、イリウは肩を竦めた。
「俺の本当の子供じゃないよ。一時期、孤児を引き取って育ててたんだ。今はみんな独立している」
そう言われて、はたと彼の家に泊めてもらったときのことを思い出す。
我々が使わせてもらった二階にあったベッド。あれは孤児が使っていたものだったのだ。確か六台あった気がする。
「独立してるってことは、みんな大人なのか」
「一応成人してるのもいる。みんなお前と同じくらいだよ」
ということは十八歳前後。少し頼りない気がするが、イリウが育て、ウェルラントが勧めるのだから、期待が持てる。
もともと仲間はもう少し欲しいと思っていたし、ちょうどいい。
「紹介してもらえるか?」
「まあ、連絡は取ってみるけど……あいつら生意気だからなあ。ターロイが足を運ぶ羽目になるぞ」
「構わないよ、転移方陣もあるし。連絡ついたら教えてくれ」
「わかった。一応、それと平行してこっちの道作りも頼むな」
「ああ」
モネと拠点を繋ぐ道路の話は、これで一旦しめることにした。
「……ところで、ここからはまた違う話なんだけど。ちょっと面倒事になるかもしれない」
次いで、本題に入る。
モネの復興も大事だが、今日、直接ウェルラントに報告しなくてはと思っていたのはこちらの方だ。
「面倒事?」
「あんたならルアーナを知っているよな? ……実は、彼女が復活したんだ」
「ルアーナって、前時代の? グランルークのパーティにいた……」
「そう、それ」
肯定すると、ウェルラントは酷く渋い顔をした。明らかによくない話を聞いた表情だ。
おそらく、即座にカムイへの影響を考えたに違いない。
彼はちらりとイリウに目をやって、「そう言えば」と言った。
「イリウ、モネの住民たちが街の復興について相談があると言っていた。ここはもういいから、行ってやれ」
「……そうか? じゃあ俺はやることもあるし、これで」
おそらくウェルラントの席を外して欲しいというわかりやすい意図を汲んだのだろう。
イリウはあっさりと請け合って退出する。
さすが、商売人は出資者の不興を買うようなまねはしない。
その扉が閉まると、ウェルラントはすぐにターロイに確認した。
「まさかと思うが、ルアーナにカムイの中のルークの話はしていないだろうな」
「それは大丈夫だ。ただ、教団本部の塔の中にグランルークの本体があることは知られてしまった」
「……そちらはまあ、ひとまず問題ない。しかしゆくゆくはルークを探しに来るだろうな。……その前にこちらでカムイからあの男を剥がしてしまいたいが」
あの男呼ばわりとは、彼は相変わらずルークのことが気に入らないらしい。
そしてルアーナのことも危険人物と認識しているようだ。だったら話は早い。
「とりあえず、ルークにルアーナの話をして欲しいんだ。彼女は何をしでかすか分かんないしさ、少しその行動を読む方法がないかと思って」
「……仕方がないな。私も面倒なことが起こる前に対処できることは手を打ちたい。……ついて来い、詳しい話をあいつに聞かせる」
ウェルラントはそう言うと、億劫そうに立ち上がった。
……え? ルークに会わせてくれるつもり?