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善でも悪でもない

 仲間の身体に破壊点を見ないようにしていたターロイだが、もはやルアーナはその範疇から外れた。

 集中して彼女の破壊点を探る。


 ……やはり、見えないか。


 罠や兵器、不死の術の研究に携わっていたという話だったけれど、ルアーナはその研究員だったわけではなく、実験の被検体だったのだ。

 先程の研究記録の表題を見ればそれは明白だった。


 そもそも赤い髪と赤い瞳を持つコネクターは、その希少性から見付かるとすぐに研究機関に送られていたという。おそらくそのまま実験にも流用されていたということだろう。ルアーナがキメラ・ベースでもあったとしたら、なんら不思議はない。


 つまり元々は人間であろうが、今の彼女の身体はすでに魔法生物と同等の存在なわけだ。


「……お前は、不死なのか?」


 だとしたら、最悪だ。地上に降りたら何をしでかすか分からない上に、手の施しようがない。まさか街の真ん中で毒を振りまいたりするまいな。


 しかし彼女はこちらの懸念を余所に、軽い調子で首を振った。


「不死だったら、この時代まであんなところで延命のために眠っていないわ。コネクターは普通の人間より寿命が短いの。……だから、ね? こんなところで無駄な時間を過ごしているわけにはいかないのよ?」


 剣を構えながらも笑顔で素直に答えるルアーナ。

 ターロイを敵だとは見なしていないのだ。それどころか好意的にすら見える。本当に、いたずらっ子にお仕置きをするような感覚なのだろう。


 そうか、彼女は悪人ではなく、そもそも善悪の区別がない人間なのだ。それはそれでかなり厄介ではあるが。


「さあ、早く終わらせて地上に戻りましょう」


 ルアーナがそう言った途端、黒い剣の刀身が伸びてぐにゃりとしなった。彼女がそれを振るうと、地面に当たってぴしゃりと大きな音がした。


 剣が鞭に形状変化したのだ。

 これはますますお仕置きっぽい。

 女王様の折檻とかそんな趣味はないし、全然嬉しくないからこれ以上の相手は御免被る。


 ターロイはポーチの中から探し当てた細い棒を握りしめた。

 テレポートポインターの子の方だ。

 親の方はアルディアの地表、地下入り口のところに刺してある。ルアーナ以外は一度仲間として一緒に転移したことがあるから、おそらくみんなテレポートできるはずだ。


 問題は、親を回収するまえに子を使ってルアーナが後を追ってくる可能性があること。

 できれば少しだけ、時間を稼ぎたい。


 今あるリソースで出来得ることを考える。全く、試練を終えてからも脳みそを絞る羽目になるとは思いも寄らなかった。

 ディクトならどうするだろう?

 残るアイテム、自身の能力、状況を頭の中でさらってみる。


 そこで、ベルト部分に一本の矢を引っかけていたのを思い出した。

 ディクトが油のカプセルを括り付けた、イリウの火矢だ。スライム本体を攻撃するために二本用意していたが、結局一本しか使っていなかった。

 それをイリウの矢筒に入れるのは危ないからと預かっていたのだ。


 弓矢を持たないターロイがこれに火をつけてルアーナに投げつけたところで、もちろん鞭でたたき落とされるのが関の山。

 しかしこれをテレポートポインターと一緒に地面に刺して、燃え上がらせたらどうだろう。


 似たような棒状だからテレポートポインターがあることを一瞬ごまかせるし、炎をまとっていれば触れることに躊躇うはずだ。ほんの数秒でいい、彼女が怯んでくれれば十分。


「坊や、お仕置きの時間よ」


「悪いが、お前の酔狂につきあうつもりはない」


 じりと彼女が距離を詰めたと同時に、ターロイは火矢を火打ち金で擦り、時限破壊を掛けてテレポートポインターと一緒に地面に突き刺した。




 瞬き一つをする間に、がらりと周囲の景色が変わっていた。

 アルディアの宮殿地下入り口だ。


 初めてこの浮遊島に飛ばされてきた時と違い、仲間全員近くに転移されて来た。

 それを確認して、ターロイは慌ててテレポートポインターの親を回収した。即座に子の方も回収されて手元に転移してくる。


「熱っ!」


 飛んできたテレポートポインターはさすがに熱い。おかげでルアーナもすぐには触れなかったのだろう。これでどうにか逃げおおせたようだ。

 念のため事前にテレポートポインターを設置していって良かった。


「さて、これからどうするかな……」


 ようやく落ち着いてその場に座り込む。

 地上への降り方を知るのはルアーナのみだ。

 その彼女を振り切って来てしまったからには、この後は自分たちでどうにかするしかない。


「うーん……」


 ターロイが考え込んでいると、最初に目を覚ましたのはティムだった。

 ターロイ同様、ルアーナを警戒していたおかげで他の三人より毒を吸わなかったのだろう。彼は大きくあくびをすると、猫のような伸びをした。


「あ~……おはよ、ターロイ。清々しい朝だね」


「……朝じゃないけどな。ティム、起きて早々に悪いが、この三人に睡眠解除の解毒剤飲ませてくれないか?」


「あ、はいはい、了解~」


 ティムがみんなに解毒剤を飲ませる。

 ほどなくして、三人とも同時に目を覚ました。


「にが……あ、あれ? ここは……?」


「……何で俺たちは眠っていたんだ?」


「ルアーナはどうした?」


 呆けるみんなにここまでのいきさつを説明する。

 最初の魅了の段階の話からだ。そうしないと、ルアーナに悪い印象を持っていない三人が納得しないだろう。


「はあ~、最初から女を武器にしてると言ってたけど、俺たちはまさにそれに引っかかってたわけか……。まあ、あのおっぱいと太腿にはやられるよな」


「同感だ」


 ディクトとイリウがやたらと頷き合って納得している。そのとなりでロベルトが渋い顔をしていた。


「魅了に掛かって余計な話をしてしまった……。ディクトを狙うような奴に……」


 おっぱいと太腿に負けてグランルークの情報を漏らしてしまったことに自己嫌悪を感じているらしい。


「んー、こう言ってはおかしな話だが、ルアーナは敵じゃない。もちろん味方でもないけどな。ロベルトのグランルーク情報は渡しても問題なかったと思う」


「でも、次また会った時にディクトを狙うかもしれないし……そしたらやはり敵だろう」


 ターロイの言葉にロベルトが眉を顰める。

 しかしターロイは首を振った。


「俺はそれはないと思ってる。彼女はグランルーク以外には執着しない女だ。今回はたまたま道ばたでいいもの見付けて、気まぐれに手に入れてみようとした程度だと思うぞ。今頃『まあいいか』って地上に転移してるよ」


 ルアーナにはグランルークという明確な優先事項がある。我々は彼女にとって、あると便利なだけの使い捨てアイテムみたいなものなのだ。

 今回のディクトは、ちょっと興味を引く能力アップアイテムだったんだろう。


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