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ターロイとウェルラント

 教団を潰す。


 ターロイの言葉を聞いたウェルラントは特に驚いた様子もなく、ただちらりとジュリアを見た。


「王女の前で随分と大それたことを言うな。しかし教団で働く者が、そんな戯れ言を言うものではない」

「……ああ、すみません。おふざけが過ぎました」


 領主にたしなめられて、青年は笑顔で肩を竦める。その笑顔のまま、少女にも頭を下げた。


「ジュリア様も驚かせてしまいましたね。変な冗談を言ってすみません」

「……冗談? 良かった。ターロイ、危険なことをしちゃダメよ」


 ターロイの宣言に目を丸くしていた彼女は、すぐに撤回された言葉にほっとしたようだった。

 ジュリアにとっては教団を潰すことよりも、味方が無事であることの方が大事らしい。ウェルラントはそれを察して、ターロイをたしなめたのだ。


 しかし、あの様子からして、領主にはさっきの言葉は伝わっている。

 ならば今はそれでよしとして、この話はそこで終わった。



「さて、そろそろ夕食の時間だ。……ターロイ、君はこの後どうする予定だ? 良かったらジュリア様と一緒に食事をしていけ」


 ウェルラントが立ち上がり外を見る。

 つられて窓の外に目をやると、もう空は暗くなっていた。しかし街中は商店や酒場の光が漏れて随分と明るい。

 王都よりは規模は小さいが、その賑わいがミシガルの繁栄を物語っている。


 実際、教団不在の街のため通行料や関税が安く、ミシガルは行商人に人気があるのだ。宿屋や酒場はいつも人でいっぱいだと聞いていた。

 となれば、ターロイも早めに宿を確保する必要があった。


「いや折角ですが、俺はこれから宿も探さないといけないので、街に出ます」

「ああ、だったら部屋も提供しよう。王女を救ってくれた礼には安いくらいだ。……それに、君とはもう少し話をしたい」


 しかし、いとまを告げたら引き留められた。ウェルラントにも何か思惑があるようだ。

 もちろんターロイにとってもありがたい申し出、断る理由がない。

 青年は笑顔で頷いた。


「そういうことでしたら、ありがたく……」

「ターロイと一緒ならわたくしも嬉しい! お部屋も、わたくしと一緒でいいわよ? 今日も二人で一つのベッドに寝ましょう」


 ……話を受けようとしたら、立ち上がって横から飛びついてきたジュリアに恐ろしいフォロー(?)を入れられた。


 やめてくれ、そういう誤解を招く言い方は。


 途端にウェルラントの顔が鬼のように険しくなる。


「……今日『も』? ……ターロイ、もしや貴様、ジュリア様が幼いのを良いことに、不埒な真似を……」

「いやいやいや、誤解ですから! ジュリア様がどうしてもと仰るので一緒に寝ただけで……!」

「そうよ。わたくしはターロイに一晩中腕枕してもらっただけよ」

「……今度、サイ様にもご報告をしておく。追って沙汰を待て」


 どうしてそうなる。

 ターロイが大仰にため息を吐くと、爆弾を落とした自覚のないジュリアがぱちくりと目を瞬いた。







 夜、ターロイに与えられた部屋はもちろん一人部屋で、ジュリアの部屋から一番遠いところになった。

 それで特に問題ないが、ちょっとだけもやっとするのは仕方がないと思う。


 ただ、部屋自体はとても良かった。

 シンプルで質の良いベッド、テーブルとランプ、クローゼット。そして部屋の一角に武器鎧用の棚と、手入れ用のオイルや使い捨てのウエスが置いてある。


 元騎士団長が領主だけあって、こういうゲストルームを使うのも騎士が多いのかもしれない。


 普通にこのランクの部屋を街で借りようと思ったら金貨が何枚必要だろう。おそらく食事もせずに素泊まりでも、ターロイの所持金がゼロになるに違いない。


 そんなことを考えながらハンマーの手入れをしていると、部屋の扉がノックされた。

 入ってきたのはウェルラントだ。


「失礼する。今、邪魔をして平気か?」

「はい、大丈夫です」


 武器を片付けて対応しようと立ち上がる。しかし彼はそれを制して、テーブルの横の椅子に勝手に腰掛けた。


「作業をしながらで構わん。これは正式な訪問ではないからな」

「そうですか……。でも、領主様を相手にでは失礼をしている気分になります」


 一応は申し訳なさそうに余所行きの笑顔を作る。

 それにウェルラントは鼻で笑った。


「その作り笑いと敬語も、私の前ではしまっておけ。嘘くさくて首の後ろがぞわぞわする」


 おっと、やはり見抜かれている。


「お前の存在は以前から知っていた。最近はグレイに同行して、見張り台の王国軍を説得して退去させていたと聞いている」

「……王国軍がこれ以上減ると、俺が困るんだよ」

「教団をぶっ潰すのに、か」

「そういうこと」


 この男には言葉も態度も飾る必要がないようだ。武器を磨きながら端的に返す。

 するとウェルラントは、椅子の背もたれに身体を預け、足と腕を組んで、中空を見上げた。


「たしかにこれ以上王国側の人間が減るのは問題だ。教団は肥大化する一方……。時間の猶予はないが、事を起こすには資源が圧倒的に足りない」


 独り言のような彼の言葉を聞いて視線を向ける。

 この領主、今明らかに教団を潰す話に同調していた。

 ジュリアがここに来た事といい、王宮と教団の間で何かが起こっているのは間違いない。


 やはりミシガルは利用できそうだ。


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