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停滞

「どうだろうな、まだ分からないことが多すぎる。……とりあえず、あの本体スライムに本当にガイナードの欠片の能力がないのか、試してみよう。イリウ、さっきの矢を一本放ってみてくれ」


 ディクトが少し前に作っていた油のカプセルを括り付けた矢をイリウに渡した。


「でもこのまま撃っても核に届く前に酸で溶かされるぞ」


「分かってる。だからターロイ、この矢にも時限破壊を掛けてくれ。このカプセルが先端から順番に壊れるようにして、この火矢は最後に」


 なるほど、スライムの身体を貫き、体内で順次油に引火させていくつもりか。核にダメージを与えることはできないが、外側のゾル部分はこれで焼き払える。


 あの本体スライムに欠損再生能力がなければ、そのまま核だけが残ることになるはずだ。


「そうか、この矢は本体を攻撃するために作ってたんだな」


「うーん、まあ、ゾル部分は同一個体で本当の核も一つしか無いとふんでたから。ガイナードの欠片を持ったスライムを見付けたらこれで攻撃して能力を見極めようと思ってたんだけどな。結局欠片がどこにあるか分からないからさ」


 ディクトはそう言って肩を竦めるが、この本体スライムを攻撃することだって無駄だとは思わない。一つの瀬踏みは一つの事実を明らかにする。

 万が一効果がなかったとしても、効果がないと知ることができたのなら前進だ。


「イリウ、火矢をつがえてくれ。時限破壊を掛けるぞ」


「よし、頼む。手前のでっかいスライムは邪魔だが、本体自体は動かないから余裕でいける」


 ターロイが時限破壊を掛けると、すぐにイリウが火矢を放った。

 それは液体状のスライムの身体を貫き、先端を核に当てて止まる。そしてその場で油のカプセルが割れ、火矢から引火して燃え上がった。

「やった! ゾル部分が燃えてるぞ!」


 油のせいはもちろんだが、炎に弱いだけあってその身体も燃えやすいようだ。あっという間に蒸発するようにゾルは消えてしまった。


 それと同時に、ロベルトが対峙していた二体の大きなスライムの中から、核が消える。投影していた映像がなくなったのだ。

 スライムはただの透明な流動体になっていた。


「やはりこのスライムはあの核を、ゾルを通じて投影してただけなんだな。……燃えたゾルの再生もされないようだ」


 焼け残った魔法鉱石の核だけが地面に残っている。

 スライムも特にそれを取り込みに行かないのは、核の方に融合するだけの魔力がないからか。


「……核の投影をしなくなった途端、スライムの攻撃の意思がなくなったみたいだな」


 こちらを挟んでいた二体の大きなスライムが、我々の存在を忘れたように徘徊を始める。それにロベルトは肩の力を抜いて、剣を収めた。

 ガイナードの核の欠片も見付からず、ここを脱出する術もないが、とりあえずはゆっくり思案することができそうだ。


 ターロイはスライムの間をすり抜けて、魔法鉱石でできた核に近付く。

 スライムの核には遠目には分からなかったが、びっしりと魂言が書かれていた。

 スライムの能力の増幅、魔力による制御、ゾルの使役、その他諸々。


「……そうか、この流動体はこれだけで一つの魔法生物なんだ。これを魔法鉱石の核を使って、術式でスライムとして使役していたわけだな。直接核から命令を受けてたゾルを焼き払ったから、今は核とゾルが完全に独立した状態になっているのか」


 核の周囲にあったゾルが動かなかったのは、その最低限の命令をするための魔力を、核から吸い取られていたためのようだ。


「この核、壊しておくべきかな……。でもそうすると、スライムがここにいた意味が分からないままなんだよなあ。このガイナードの試練を作った奴が、適当に配置したとは思えないし」


 今までの封印の遺跡では全ての事象に意味があった。今回、それがないとはどうしたって考えづらい。

 その思惑をどうにか読み解かなければ。


「うわ、でっかくなっちゃった!」


 そうして考え込んでいると、不意にティムが声を上げた。見れば、さっきまでうろうろしていた核を持たないスライムが、合体してとうとう一体になってしまっていた。


 しかし攻撃を仕掛けてくるでもない、ただでかくて邪魔なだけで、特に問題はなさそうだ。


「こんな中途半端な状態で問題がなくなっちゃうっていうのが問題だねえ。危機は凌ぎきれば活路が見いだせるものだけど、こういう時の停滞って一番まずいんだよね」


 ティムはそう言ってこの空間のあちこちを歩き始めた。新たな罠を探しているのかもしれない。

 イリウとロベルトは脱出のヒントを発見すべく、周囲を見回している。

 ルアーナはぬるぬると動き回るスライムを見ていた。


 そしてディクトは目を閉じてこめかみに指を当て、考えをまとめているようだった。


「ルアーナ、スライムに気になることでも?」


 その中でルアーナに声を掛けたのは、この中で一番人工スライムのことを知っているからだ。もう敵意の見えないスライムを目で追っているということは、何か思うところがあるのだろう。


 訊ねたターロイに、彼女は小さく首を傾げて見せた。


「あのスライムの、液体に映像を映し出す能力……私のいた時代よりさらに古代の技術なんだけど、それをあんな見せかけの投影をするだけのために使うかしら? もしかしてもっと引き出すべき情報があるんじゃないかと、私は思っているの」


「引き出すべき情報が……?」


 確かに、それがあるならスライムがここにいる意義がある。


「と言っても、スライムはただの表示媒体で、その情報は他のものが魔力の信号を送ることで映像として映し出されるわけだけど。さっきの核のようにね」


「魔力の信号か……。ここにあるものでそれが送れそうなのは……」


 現在ここで魔力があるのは、魔法障壁のエネルギーを吸い取った天井の格子戸。それからどこにあるか分からないガイナードの欠片。

 しかし天井に魔力の信号を送る機構があるとは思えないし、ガイナードの欠片自体にもそんな細工はできるまい。


 だとすると、あと考えられるのはこのスライムの核。魔力を失っているものの、さっき映像を送っていたのだから、その機構があるのは間違いない。

 これに魔力を注ぎ込めば、何か新たな映像が起動するのかもしれない。


 だが、その核を取り込まれるようなことがあれば、スライムに強力な能力増幅効果も出てしまう。もしかすると映像自体ない可能性もある中、これはなかなかリスキーな賭けだった。


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