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明かりの下

 やばい、と思った瞬間には、もうスイッチを押し込んでしまっていた。

 仕掛けはきっと壁にあると考えていたせいで、油断したのだ。


 周囲で機関が動く音がして、ガチン、と掴まっていた格子戸に何かの衝撃があった。どうやら格子戸全体が動いているようだ。


「ターロイ、何があった!?」


「分からない、何かのスイッチを入れてしまったようなんだけど、一体何が……」


 ロベルトの声に答えるターロイの目の前で、突然ぽわと明かりが点く。

 それは連鎖をするように周りに広がっていき、暗闇に馴らされてしまっていた我々の目を眩ませた。


「うわ、眩し……いてっ!」


 下の方でディクトが声を上げる。同様にターロイ以外のみんながどさりと落ちる音と共に痛みを訴えた。


「あいたぁ……何なの、突然地面に叩き付けられた!」


「っつ……、いつのまに足場が……?」


 地面? 足場? ティムとイリウの声に薄く目を開けると、少し光に順応した視界に、みんなが倒れ込んでいるのが見えた。

 本当に地面がある。下からの風も完全に遮られて、風圧もなくなっていた。


 しかしそれよりも驚いたのは、周りの壁だった。


 魔法障壁の中に、無数のスライムが閉じ込められている。


「落下の罠の解明は小手調べだったって事か……? このスイッチを入れてからが本番かよ……」


 ターロイはげんなりした。

 ここまでの暗闇での終わりの見えない落下と試行錯誤で、みんなかなり精神的にも消耗している。その前に一旦休憩したとはいえ、守護者と戦ったことも考えれば当然だ。


 しかし、これをクリアしないことにはどうしようもない。

 僅かずつ降下している格子戸から手を放して、ターロイはみんなのいる地面に下りた。

 はあ、ようやく足下が安定する。他の面々も立ち上がって足下を確認した。


「やっと着地できたのは良かったが……このスライム群と戦うのか? こいつら、閉じ込められているようだが」


 ロベルトが周囲を見回して訊ねる。それにティムが答えた。


「これは前時代に使われていた罠だよ。文献で見たことある。ほら、今天井が下りて来てるでしょ。あれが多分充魂できる魔法鉱石でできてて、魔法障壁と接触するとその魔力を吸い上げて無効化しちゃうんだ」


 その説明に、以前アカツキの祠でグレイと一緒に解いたタブレットゴーレムの魔法障壁の件を思い出す。

 あの時も確か障壁の魔力を他へ移すことで無効化したっけ。なるほど、あの知識がここで役立つことになっていたのだ。


「俺、スライムとか戦ったことないんだけど。詳しい情報くんない?」


 天井を見上げる俺たちにディクトが情報を要求する。

 まあ、スライムと戦ったことのある人間の方が稀だろう。現時代ではほぼ絶滅、時々沼などで見付かることがあるが、すぐに焼き殺されてしまう。

 合体と分裂をされると少し厄介な敵ではあるが、炎があればそれほど怖くはない。


「物理攻撃でいった時に分裂されたり、目を離した隙に合体されたり、ちょっと面倒な奴だ。でも攻撃力はたいしたことないし、炎で殺せる程度だよ」


「……そんな弱いのが、わざわざここに用意されるか? 何か特殊な奴だったりしない?」


 疑うディクトに、確かにそうだとターロイも首を捻った。

 特殊という点で言えば、ガイナードの欠損再生の能力が封じられた欠片を持っているかもしれないということくらいだが。


「……残念ながら、このスライムたちは沼にいるようなカワイイ野良スライムとは違うわ」


 すると、黙って壁を眺めていたルアーナが、不意に肩を竦めて言った。


「これは前時代に、研究施設で人為的に作られたスライムよ。外側のどろどろとした身体の部分は強い酸で、普通の武器ではすぐに腐食してしまうから太刀打ちできないの。当然、取り込まれたら骨も残さず溶かされるわ。透けて見える核の部分は魔法金属で、術式が彫り込まれている」


 人工スライム? 初めて聞いた。ガイナードの知識にはない。


「……強い酸……となると、ディクトとティムとイリウは戦えないな」


「俺は矢を使い捨てにする気でいけば戦えるぞ」


「いや、スライムの核が魔法金属だとすると、どちらにしろ普通の矢ではダメージを与えられない。俺とロベルトとルアーナで何とかするしか」


「あら、私も武器がないわよ?」


 三人でどうにかしなくてはと考えていたら、ルアーナがあっさりと一抜けした。


「……いや、さっきの剣、どう見ても魔法剣の類いでしょ。呼び出して戦ってくれよ」


「残念ながら、あの剣は魂のあるものにしか効果がないの」


「魂の?」


「うふ、あれはアストラル界と繋がる剣だもの」


 よく分からないけれど、あの剣をあてにはできないということらしい。

 しかしこの数のスライムをロベルトと二人だけで対処するのは無理だ。どうにかしないと。


 急がなければ、格子戸と魔法障壁が接触するのはもうすぐだ。


「……ルアーナ、もう少しスライムの情報をくれ」


 とりあえずアダマンタイトのハンマーを構えたターロイの後ろで、ディクトがルアーナにさらなる情報を要求した。


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