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ティムの考察

『初頭効果』と言えば。


「ああ、出会って数秒で受けた第一印象が後々まで強く影響する心理効果だろ?」


「そう、それ。彼女はその第一印象で、あの見た目と邪香油の魅了効果を利用して自分への好意を得て、疑念を退ける。魅了効果は徐々に抜けていくけど、そこで下手なことをしなければ印象はそう変わらないからね。……グランルークの伝説上だと彼女ってクレイジーなイメージで書かれてるけど、研究文献を見ると実際はかなりの謀略家なんだよ」


「……それは分かるな。さっきの守護者たちとの戦いも、彼女には必要だったのかもしれないが、本来は要らない戦いだ。なのに、共闘に持ち込んで、とどめを刺せる自分を頼りにさせて、一緒に勝利することでみんなとの仲間意識を醸成してしまった。ただの狂人にはできないことだ」


 共に死地を乗り越えることは、かなりの団結を生む。その勝利の根幹を担っていたのがルアーナなのだから、自然とそこには信頼感が芽生えてしまう。うまいやり方だ。


 そしてまんまと、向こうの三人は彼女の術中にはまっている。

 ほぼ魅了の効果が切れかけている今では、状態異常を解除したところで意味は無い。魅了による最初の印象が本来の感情と紐付けられてしまったからだ。

 その点でもルアーナはかなりの知謀家と言えた。


「でも逆に考えれば、これだけの下地作りをしてるってことは、しばらく俺たちの味方として振る舞うつもりなんだと思うよ。さっきの戦いで使えないと判断してたら、この時点で見切りを付けてるだろうし」


「どうかな。この天空の島から出るのに必要なだけかもしれないし、グランルークの情報が欲しいだけかもしれない」


「だったら、それこそ完全に俺たちを魅了して使役しちゃった方が早いよ。それをしてないんだから、しばらくは安心じゃない?」


 安心、なのか? 別の不安要素もあるけれど。


「……この後、ルアーナはロベルトを引き抜いて行くつもりにも見えるんだが。ロベルトにだけあからさまに色仕掛けしてるよな?」


 振り向いて見ると、未だにルアーナはロベルトに何かを語りかけていた。

 ティムもつられてそちらを見て、すぐに視線をこちらに戻す。


「……あれさ、多分ロベルト狙ってるわけじゃないよ。彼のディクトへの忠犬っぷりを見て、魅了を掛けて平気な相手だと判断したんだと思う」


「……どういうことだ?」


「うーん、どう説明しようかな。……君、恋愛とかしたことある? ないよね? 俺もないんだけどさ」


 こちらに訊ねておきながら、何か勝手に結論を出している。

 ……まあ、ないけど。ティムにないのも分かるけど。


「魅了状態は恋愛と同じような症状になる。ドーパミン濃度が濃くなって、彼女がいると冷静な判断ができなくなるんだ。程度は違えど混乱状態だと言えばいいかな。つまり魅了に掛かってると、判断力が鈍るって事だよ」


「あ、そうか。ルアーナが俺たちに軽微な魅了しか掛けなかったのは、戦闘時の判断力をあまり阻害しないためでもあったんだな。……それなのに、何で今ロベルトにだけ魅了の重ね掛けをしてんだろう」


「ディクトがいる時のロベルトは、自分の判断でなくディクトの判断で動くからだよ。ロベルト自身の判断力が多少鈍っても問題ないってことだろうね」


 そう言えばルアーナは、ロベルトがディクトの判断を仰ぐことを確認していた。あれはそういうことだったのか。


「あー……なるほど、納得。でもそうなると、やっぱりロベルトを魅了で引き抜いて行きそうだけど」


「そう? さっきも言ったけど、ロベルト狙いじゃないと思うよ。……彼女も俺と同じ考えだと思うんだけど、罠使いとして誰か欲しいとしたらターロイかディクトだ」


「俺かディクト?」


 唐突に自分の名前が上がったことに目を丸くする。


「ターロイの破壊と再生の能力は罠と合わせるといくらでも応用が利くし、ディクトの状況把握とリソースフル活用できる思考も罠と連携させられればかなり有用だもの。ロベルトとイリウは強いけど、応用があまり利かないんだよね」


「そういうもんなのか……?」


「君はロベルトの心配してるけどさ、俺に言わせれば一番気を付けるべきはターロイだと思うよ。だって、君さえ落とせばディクトもロベルトも付いてくるんだもの」


 そうか、俺を狙えば手間が減る。ルアーナが俺に全然構わないから思いも寄らなかった。


「彼女が今ターロイに構わないのは、君にちゃんと魅了が掛かっていないとわかってるからだと思う。後は油断をさそってるのかもね。……おそらく一番危険なのは次の戦闘終了後だ。気を付けてね」






「……グランルークの話をロベルトから聞いた?」


 ティムとの形だけの探索を終えてみんなの元に戻ったターロイは、ここでようやくルアーナがロベルトを魅了していた理由を知った。

 今のうちに彼からグランルークの情報を仕入れるためだったのだ。


 ロベルトがグランルーク教団の教皇の孫であることを知ってのことだったのかは不明だが、彼からグランルークの情報を取るのは理に適っていると言えた。

 何故ならロベルトは教団員が噂程度でしか知らない、王都の塔にいるというグランルーク本体の居場所を知っているだろうからだ。


 ……それにしても、寡黙で用心深いロベルトが、今日会ったばかりの彼女にそれを話してしまうとは。

 ルアーナの魅了は軽いものでもやっぱり侮れない。


「うふ、後で封印解除の手伝いをした報酬にターロイに聞くつもりだったんだけど、彼が知ってるって言うから。あ、もちろん、ガイナードの封印を解くのには力を貸すわよ?」


 何故次の戦闘後まで待たず、今グランルークの情報を聞いておきたかったのか。ティムが言ったように、ガイナードの試練が終わったら、何かを仕掛けてくるつもりかもしれない。

 ターロイは気を引き締めた。


 でも正直なところ、ルアーナがターロイに魅了を掛けてグランルークの話を聞き出そうとしなかったのは助かった。

 ターロイはカムイの中に、グランルークの人格であるルークがいることを知っている。これはカムイとウェルラント、そしてターロイの三人しか知らないことだ。


 これをルアーナに知られるなんて、とんでもないことが起こる気しかしない。おいそれと言うわけにはいかなかった。


 とりあえず無事に戻ったら、ウェルラントにルアーナのことを報告し、カムイの中にいるというルークに伝えてもらおう。




「ここのガイナードの封印はどこにあるんだ?」


 休憩を終えて部屋の一番奥まで進み、扉の前に来る。さっきティムと話をしていたところだ。

 開けてみようとしたがドアノブが無く、押してもびくともしなかった。


「あら、そこじゃないわ。ターロイ、部屋の隅にあるあの石碑を再生して」


 ルアーナがそこから右にあった崩れた石塊を指差す。石碑、と言われないと分からないような瓦礫だ。


「これか?」


 土台らしきものに手をかざせば、確かに破壊された石碑だと分かる。その情報を読み込み、再構成。特に問題ない。

 ものの数十秒でターロイがそれを直すと、そこにはやはり魂言が書かれていた。


「えーと、なになに、『気を付けろ!』……え!? うわあ!」


 その言葉を読み上げた途端、突然足元に大きな穴が開いて、全員がその中に落下した。


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