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宮殿の地下へ

 講堂の中を覗くと、無人だと思っていたそこには多くの人影があり、何かを囲んで儀式をしている様子だった。


 大きな魔方陣のようなものの中央には、卵らしき白い大きな物体が置いてある。その周囲をぐるりと囲むように羽根を持つ人影が跪いていた。天人族だ。


 馬鹿な、まだこんなに天人族が生き残っていたなんて。


 ターロイは思わず目を瞠った。

 しかしやはりそこに生者の気配がないのを不思議に思って目をこらすと、うなだれていると思った彼らが実は首を失っていることに気が付いた。


「ちょっ……! あ、あいつら、みんな頭がないんだけど……。え? 天人族ってああいうもんなの?」


 一瞬大きな声を上げそうになったディクトが、慌てて口を抑えて、小声で狼狽える。それにターロイは小さく首を振った。


「そんなわけがないだろ。天人族は羽根があるだけで、姿は人間族と変わらない。……いや、色素の薄い美形が多い分エルフ寄りかな? とにかく、この状況は異常だ」


「真ん中にある大きな卵らしきものは何なのだ?」


 ロベルトの問いに、今度はルアーナが答えた。


「あれはドラゴン……竜人族の卵よ。うふふ、私が眠っていた一千年の間に、ちょっと変わっているわね」


「……あいつら、全員死んでるのか?」


「どうかな……。心臓や身体が動いていれば生きているというなら生きているかもしれないが、思考や感情、魂を失っていても生きていると言えるのか」


「それって、守護者と同じような状況じゃないか。死んでいるのに死んでない、こいつらも不死者か……」


 イリウが彼らを守護者と重ねて眉を顰める。

 そうしてターロイたちが天人族と卵の存在に気を取られている中、ティムだけが窓に張り付いて違うものに注目していた。

 ぶつぶつと何かを呟いている。


「……ルアーナさん、あの魔方陣の文様って、もしかして……」


「あら……うふふ、駄目よ、不確かな情報を軽々しく口にしては」


 ティムがルアーナに何かを確認しようとして、それをやんわりと口止めされる。いつもの彼ならそこで空気を読まずに口を開くだろうけれど、彼女に魅了されたせいか、そのまま受け入れて言葉を飲み込んでしまった。


 それを横目で見て、ターロイはあの魔方陣らしきものが罠の類いなのだと理解する。

 そうでなければティムがそれを知るわけがない。そして、ルアーナに確認したということは、彼女に何かしら関わりのある罠だということだ。


 それを口止めしたのには、何か意味があるのだろうか。


 もちろん、今ここでそれを確かめるわけにはいかないが、後でティムの魅了が解けたら訊ねることにしよう。


「……ルアーナ、何故これを俺たちに見せようと?」


 代わりに別の疑問を投げかける。

 すると彼女は変わらぬ様子で微笑んだ。


「あなたたち、と言うか、あなたに見せたのよ。ガイナードの能力を継ぐ者。……うふ、今は忘れていいの。でもきっとそのうち、この光景を思い出すわ。……生きていれば、だけど」


「……この講堂のことは、今回のガイナードの封印の試練とは関係ないのか」


「そうね、今回は。……ついでに、私は『あいつ』が嫌いだから一つ教えてあげる。この宮殿の中に入っては駄目。この中は『違う世界』なの。入ったら、この世界に戻って来れなくなる覚悟がいるわ」


「違う世界……?」


 ルアーナの話に理解が追いつかず、ターロイは首を捻る。『あいつ』とは誰だ?『違う世界』だという宮殿、入ったら戻って来れなくなると言うが、さっき入っていった竜人族はどうしている?


 しかし彼女はこれ以上何かを語るつもりはないようで、そこから少し先にある、宮殿の地下に繋がっているらしい格子戸を指差した。


「ガイナードの試練があるのはあの先よ。さあ、そろそろ行きましょう」


「……宮殿の地下に向かうようだが、入って平気なのか?」


「うふ、大丈夫。『違う世界』が適用されているのは地上だけだから」


 ……ルアーナの言を信用していいものだろうか。しかしここで疑念を向ければ魅了されていないことがバレて、別の手段に出られかねない。

 ターロイは注意深く格子戸を確認した。


 付いている鍵はまた施錠された状態で、機関を壊されている。

 このパターンも、壊れ方も、鍵の材質もこれまでの封印を踏襲しているようだ。

 再生の能力が無ければ開けられない、これはガイナードの能力を封印した場所で間違いないだろう。


「よし……じゃあ、開けるぞ」


 覚悟を決めて鍵に手をかざし、再生を始める。


 ルアーナの棺の時のような罠がないか警戒していたが、特に問題も無く破損の修復はすぐに終わった。最後に、格子に引っかけられていた陶製の鍵を鍵穴に差し込んで解錠を試みる。


「あ」


 すると、シリンダーの固さに鍵が負けて、少し回しただけでぽきりと簡単に折れてしまった。なんだこれ、もろすぎる。


「おいおい、ちょっと、折れてんじゃん」


「鍵がもろすぎるんだよ。まあ、すぐに直るけど」


 ディクトの指摘に反論しつつ、鍵を元通りに直す。けれど、これではもう一度差し込んでみても、また同じように壊れるだけだ。


「俺の部屋に戻れれば、鍵の型を取って、溶鉱炉使って鉄製のができるんだけど」


「そんな時間掛けてられるか。……大丈夫だ、いける」


 ティムの提案を却下して、少し思案したターロイは鍵をこつりと指先で叩き、もう一度鍵穴に差し込んだ。


 そのまま力を入れて一気に回す。


 すると今度は鍵がガチャリと解錠して、次の瞬間バキンとシリンダーごと壊れた。


「よし、開いた」


「え? 何したの、今。何で鍵が開いた後に壊れたの」


 簡単なことだ、一つ前に手に入れた能力を使った。

 ガイナードの封印が順番通りに解除しなくてはいけないのは、試練に挑むのに前段階の能力が必要だからだ。そう考えれば、ここで使うのは時限破壊。破壊の時間をずらす能力だ。


 特筆すべきは、この能力で壊すものは破壊点を打突してから設定した破壊までの数秒の間、何があっても壊れなくなること。それを利用して、壊れる前に鍵を開けたのだ。


「なるほど、おたくの能力にはそんな使い道もあるのか。面白いな」


 説明するとディクトは興味深そうに頷いた。


「うふふ、さすがだわ、ターロイ。さあ、行きましょう」


 そしてルアーナが率先して扉を開け、中に入っていく。それを見れば、とりあえずその先が『違う世界』とやらではないのだろうと安堵できた。しかし、さらにその先が安全とは限らない。


 彼女に素直に従って他の仲間が地下に入っていくのを見ながら、ターロイはこっそりとその外の目立たぬところにテレポートポインターの親を刺した。


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