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疑うティム

 天人族とは、背中に白い羽根を持つ種族だ。


 自分たちを創造神の使いであると豪語し、とても高慢で、他の種族を下等生物だと見下していた。

 天人族が成すことは全て正義という考えが根底にあり、地上の種族を下僕扱いして支配し、様々なものを搾取していたという。


 しかし長い年月で地上の種族が勢力を持ち、搾取に反抗し始めると、天人族は神への反逆だとして地上に攻めてきた。

 これが前時代の大戦の発端だ。


 詳しい話は割愛するが、天人族は大戦時に自らが多くの他種族を滅ぼしたため、結局搾取する物資がなくなって困窮し、自滅したと言われている。


 アルディアは、その天人族の住んでいた天空の島だ。


 彼らはこの浮島を地上を監視・管理するために神から与えられた島と称していたが、その実は隔離されていたのではないかと考えられている。




「何故アルディアにガイナードの封印が……?」


「うふふ、焦らなくてもそのうち分かるわ。さあ、まずは坊やのお友達を探しに行きましょ」


 ルアーナが三人の間を通り抜けて、さっきディクトが指差した方へ軽やかに歩いて行く。

 確かに、今はイリウとティムと合流するのが先だ。

 ターロイも同じ方向に歩き出した。


「……後ろから見ても完璧だな、あの身体。ボン・キュッ・ボンって、彼女のためにある言葉だろ」


「ディクト、デレデレするな。ルアーナはあんたが扱えるタマじゃない」


 一緒に歩き出したディクトに、ロベルトが忠告する。

 それに「そんなことわかってる」と少し拗ねた様子で返した彼は、「でも」とまた続けた。


「眼福にあずかる分にはいいだろ。あの格好をスバルやユニがしてたら「嫁入り前の娘が、やめなさい!」って怒るとこだけど、あれはまんまと俺たち大人の男を釣るためのものなんだから、乗せられていいのよ。目の保養だし、良い匂いするし」


「まあ、ディクトからはもう加齢臭しか出ないしな」


 自己正当化をするディクトにターロイがからかうように告げる。すると彼は気にしていたのか少々狼狽えたようだった。


「いや、待って、おっさんだけど俺まだ出てないよ? ……出てないよな?」


 同意を求められて、ロベルトがディクトに顔を近付けて匂いを嗅いでいる。


「……加齢臭はしない。スルメの匂いがする」


「スルメ……」


「それは、喜んでいいのかどうか、微妙な匂いだな……」


「大丈夫、俺はスルメの匂いは好きだ」


「慰めになってねえよ!」


 ロベルトのフォローにディクトが突っ込んだところで、木立の向こうからこちらを見付けたイリウが声を掛けてきた。


「おい、みんな、こっちだ! ……って、あれ? え、ルアーナ……?」


 一足早くイリウの元にたどり着いたルアーナに、彼は目を丸くする。その反応に、彼女は楽しそうに微笑んだ。


「私のこと、知っているのね。ターロイのお友達は理解が早くて助かるわ。……うふ、私の何をどこまで知っているのかは疑問だけど。あなたのお名前は?」


「……イ、イリウだ」


 間近で見上げられて、イリウがたじろいでいる。まあ、見た目には二十代半ばくらいのルアーナだが、その雰囲気と色気は老練な迫力があるからな。


「イリウ、ティムはいたのか?」


「あ、ああ。そこの木立の奥に。さっきターロイが罠に掛かった時、ティムが持ってたはずの圧力感知板がどこかに飛ばされたらしくて……」


「それを探してるのかよ……」


 全く、どこまでもマイペースな男だ。

 ターロイは呆れたため息を吐きつつ、ティムのいる場所に向かった。



「ティム。圧力板探しは後にしろ。どうせこれからも罠なんていっぱい出てくる」


 すぐに木々の間にティムの背中を見付けて、声を掛ける。

 それに振り向いた彼は、ターロイに向かって口元に人差し指を当て、しぃ、と息を吐いた。


「ちょっと静かにしてくれる? 君たちがそこにまとまってくれたおかげで、外れている微量な魔力を感じ取れそうなんだ」


「微量な魔力って……圧力板の?」


「そうだよ。……ええと、こっちの方に……あ! あった!」


 きょろきょろと見回した後、草むらに飛び込んで行く。

 彼がそこから次に顔を出した時には、頭上に罠の踏み板が掲げられていた。

 ティムは本当に圧力感知板を探し当ててしまったのだ。


「マジか……あんた、何者だよ」


「罠職人だよ! 昔はもちろん、魔力とか分かんなかったんだけどさ、長いこと罠の研究してるうちになんとなく感じるようになったんだよね。職人の肌感覚っていうの? グレイさんのおかげで魔法鉱石に触れる機会も多かったからさ」


「……そんなことで分かるものか? 俺も魔道具とか身近にあったけど、分かんないぞ」


「それは愛ある触れ合いが足りないんだね! こう、魔法鉱石でできた罠とか魔道具ってさ、頬ずりしたりすると皮膚が僅かにピリピリってする感覚があるんだよ。鉱石の種類や込められた魔法によって、出てる波動が違うみたいなんだよね。俺は愛でそれを感知しているんだ!」


「へえ~……」


 すごいことなんだろうが、ただの変人にしか思えないのはティムの人徳のなせるわざか。


「まあ、何でもいいよ。目的のものが見付かったんならみんなのところに戻るぞ」


「あ、ちょっと待って。今のうちに、さっきのターロイが掛かった罠のことで訊きたいことがあるんだけど」


「さっきの罠のこと?」


 急いでいるのに、またティムが話を続けた。何なんだ、一体。


「あの罠に掛かった時さ、どうして俺たちも一緒にここに飛ばされたんだ? ターロイと俺たちに物理的接触はなかっただろ。本来なら君だけ転移するものなのに」


「ああ、そのことか……。あの時、俺がみんなに「武器を構えておけ」って言ったろ。そのせいだ。このアイテムの同調転移と呼ばれる特殊な仕様なんだ」


 ターロイは鞄からテレポートポインターを取り出して見せた。


「このアイテムは遺跡や未知の場所の探索用に作られたもので、部隊やパーティ単位での移動目的に使われていた。基本はリーダーが移動すれば、部下も勝手に転移する。だから、今回の罠は本当なら俺とディクトとロベルトだけが飛ばされるはずだったんだんだが……」


「そっか、分かった! 部下じゃなくてもリーダーの命令に従った者は、同調したことで仲間と認識されたんだね。それで俺とイリウさんも一緒に飛ばされたってことか……。でもさ、元々部隊単位での転移に使われてたのに、何で飛ばされた先でこんなバラバラに散らばるんだろう? いちいち集まるの大変だよね」


「そう言えばそうだな。こんな不便な話聞いたことないが……アイテムに何か不具合があるのか?」


 確かに、こんなふうに転移した先で散らばるのは問題だ。今回はたまたま平和な転移先だったから良かったが、これが戦場だったら大ピンチだろう。原因が分かるまで、このアイテムを使うのは控えるべきかもしれない。


「アイテムの不具合かなあ? これも罠の一部かもよ?」


 しかし、ティムは少しこの事態に懐疑的だった。そして何だかわくわくしている。罠という名が付けば、それだけで興味の対象なのかもしれない。


「罠ったって、結局何の問題もなく全員集まったわけだし、意味ないだろ」


「そこに意味を見出すのが罠研究の面白さなんだよ! まあ、素人さんには分かんないかな、この深淵は」


「特に分かりたくもないけど。……とにかく、もう戻るぞ。一人同行者が増えてるから、まず挨拶しろ」


「同行者?」


「……地下墓地で棺に入っていた女性だ」


 そう告げると、ティムは一瞬目を丸くしてから、何事かを思案したようだった。


「あの女の人って、グランルークの伝説にいたルアーナだって、言ってたよね? ……ターロイに同調転移したわけじゃないだろうし、どうやってここに来たんだろう」


「テレポートポインターは棺の中にあったからな。目を覚ましてから、俺が親ポインターを回収する前にそれを使って飛んできたんだと思うぞ」


「思う……ってことは、その瞬間を見たわけじゃないんだね」


「まあ、転移先がばらけていたから、彼女も別のところに飛ばされてたし」


「ふぅん……」


 この会話で、何か思うところがあったのだろうか。

 ティムは気のない相槌を打つと、そのまま黙り込んでしまった。

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