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ルアーナの加入

 一瞬、目の前が白く弾けて、眩しくて目が開けられなかった。


 地下から、どうやら野外に放り出されたようだ。

 ターロイは倒れたつもりもなかったのに、いつのまにか草原に大の字になり空を見上げていた。


「……ここは?」


 現状に混乱しかけて、しかしすぐに切り替える。

 罠に掛かったという事実、どこかに飛ばされたという事実、今はそれだけを認識しよう。ここがどこなのかなんて考えるのは後回し。

 こういう時に余計なことに思考を割くのは愚だ。


 できるだけゆっくりと起き上がる。

 急な動きは周囲に敵がいた場合、余計な刺激になるからだ。

 まずは辺りを見回して、状況の把握に努める。


 広い草原、小さいが綺麗な湖。細い小道が緩やかな勾配を上って、ずっと先にある白くて立派な宮殿らしき建物に続いていた。

 昆虫や鳥、草食動物は認められるが、害をなしそうな獣や敵の姿は見当たらない。


 あまりに長閑で美しい景色。

 それがターロイを逆に不安にさせた。


 こんなところ、グラン王国にはない。


 心に引っかかるものがあるが、しかしやはり、その思考を今は脇に置くのが賢明だ。

 とりあえず周囲に特段の脅威がないことを確認して、ターロイは立ち上がった。まずは一緒に飛ばされた仲間を探さなくては。


 歩き出す前に、近くに見付けた棒状のアイテムの回収も忘れない。


 これが今回の転移の原因だ。以前から遺跡で見付かればいいと思っていたアイテムだが、まさか罠として使われているとは思わなかった。


 これはテレポートポインターというアイテムだ。

 親と子の二本の魔法金属棒でできており、別々の場所に刺しておけばその間を転移できるという便利なもの。


 基本の使い方は、親をダンジョンの入り口などに刺しておき、子のポインターだけを持ち歩き、入り口に帰りたい時はその場に子を刺して転移する。

 次に来る時は親から子の方に転移をすれば、そのまま続きを攻略できるのだ。


 もちろん色々制約もあって、まずは地面などに刺さっていないと効果を発揮しなかったりする。誰かに蹴倒されでもしたらもう転移できない。

 それから、子を刺したままで親を持ち歩いても使えない。親を引き抜いた時点で、子は勝手に親元に転移して戻ってしまう。


 実際、今ターロイが親のポインターを引き抜いたことで、子の方が手元に転移してきた。


 ちなみにここで慌てて地下墓地に戻ろうと、親を引き抜かずにもう一度こちらから子の方へ転移していたら、とんでもないことになったはずだ。

 魔法で封じられたルアーナの棺の中にみんなで飛ばされることになる。


 どうにか圧死する前に再び子のポインターでこちらに飛べればいいが、万が一、さっきの再生の影響でルアーナが目を覚まし、ターロイたちと入れ替わりでこちらに転移し、親のポインターを回収されてしまったりしたら。

 ……我々は間違いなく全滅だった。


 そしてターロイは、実際それが杞憂ではなかったことを知る。



 すぐ近くの草原の草むらの陰から、赤い髪の女性が身体を起こしたのだ。


「うふふ、一つ目の罠に掛かっても慌てずに二つ目の罠を回避するなんて、あなた思慮深いのね。そういう男、好きよ」


 さっきまで閉じられていた瞳は、紅玉ような赤だ。カムイよりも深く暗い色をしている。

 その微笑みは妖艶で、胸元に掛かった髪を払う仕草は迫力満点だった。


「ルアーナ……」


「あら、私のことを知っているのね。まあ、ガイナードの能力と記憶を継ぐ者なら当然かしら。坊や、名前は?」


 見た感じ、精神的な危うさは今のところ感じない。彼女に付いているかもしれないと思ったガイナードの核の欠片も、付いていないようだ。


「……俺はターロイだ」


「ターロイね。うふ、この段階まで封印を解いてくるなんて、すごく優秀なのね」


 立ち上がったルアーナがターロイの側に寄ってくる。

 棺に入っている段階でもすでにフェロモンが漏れてる感じだったけれど、こうして動いているとさらに色気が半端ない。

 何なんだ、この良い匂い。


「……あんたは、ガイナードの封印のことを知っているのか?」


「ここのは知ってるわ。私の助力がないとクリアできない試練ですもの」


「ってことは、手を貸してくれるのか?」


「んー、どうしようかしら」


 もったいぶった彼女が腕を組むと、大きな胸がさらに強調されて目のやり場に困った。それに面白そうに目を細めたルアーナは、絶対分かってやっている。

 彼女はその上で、ねだるような表情で首を傾げた。


「代わりに、私に情報をちょうだい?」


「……情報?」


「当然、グランルーク様の情報よ。私はあの方のためにこの時代まで眠ってきたのだもの。……グランルーク様に会えるなら、その手掛かりをくれるなら、何だってしてあげる。……何だって、よ」


 少しだけ、その瞳に狂気が覗いた時、不意にこちらの姿を見付けた仲間に声を掛けられて、彼女の視線が逸れた。


「ターロイ、探したぞ! ここにいたのか! この場所って、一体……」


 駆けつけて来たのはディクトとロベルトだ。

 彼らはある程度近くに来たところで、ターロイの陰にルアーナを認めて目を瞠った。


「え? 胸のでっかいねーちゃん……何でここに?」


「あら、ターロイのお友達? うふふ、これからしばらく一緒に行動させてもらうルアーナよ。よろしくね」


「あっ、はい! どうも! 大歓迎です! 俺はディクト、こっちの大きいのはロベルトです、よろしく!」


 しなをつくって挨拶をする彼女に、ディクトはわかりやすくテンションが上がっている。その後ろでロベルトは不愉快そうに眉根を寄せた。


「……何故そのように胸や腿を無駄に見せるのだ、破廉恥な。女性はもっと貞淑であるべきだ」


「あらあ、お堅いのね。うふ、あなたみたいな人の方が落ちる時は早いのよ?」


 そう言いながら、ルアーナは身体を捩ってスカートのスリットから白い大腿部を覗かせた。

 そこについ目が行ってしまうのは、男の性というものか。


「うふふ、私がこういう格好をしているのは、殿方が喜ぶからよ。すぐに気に入ってもらえるし、あまり警戒されないし、貢いでもらえるし。……そのまま近付いて喉元を掻き切れば、暗殺なんて楽々よ。この身体は私の最大の武器なの」


 微笑みながら、まるで普通のことのように物騒なことを言う。

 その科白に、ルアーナの美脚に鼻の下を伸ばしかけたディクトの表情が引きつり、固まった。まあ、当然か。


 ロベルトは逆に何故か感心したようだった。


「……つまり、その姿は戦略の一部ということか。女性ならではの武器を駆使しているのだな、それは失敬した」


 どうやら彼女の格好に納得する理由が付けば問題ないらしい。ルアーナを女性としてではなく、一人の戦人として受け入れたのだ。

 まあ、毛嫌いされるよりずっといい。


 ターロイはその場が収まったところで、ディクトとロベルトに訊ねた。


「二人とも、ティムとイリウは見かけなかったか? 彼らも近くにいるはずなんだが」


「ああ、イリウはいた。ただ、ティムが見付からなくて。イリウは向こうの方を探してる」


 そう言ってディクトが指差した先は、草原の外れの木立だ。その奥には山も丘も見えず、空が広がっていた。


「ところで今更だが、ここはどこなんだ? あの向こう、空しか見えなかった。すごく低いところに雲があるし……まるで、この場所全体が空に浮かんでいるみたいだ」


「みたい、じゃないわ。空に浮いているのよ、この島」


 ロベルトの問い掛けに、ルアーナが事も無げに答える。

 それを聞いたターロイは、つい驚きの声を上げた。


「空の浮島……まさか、ここは天人族の聖地、アルディア!?」


 その場所は文字としてだけでガイナードの知識の中にあった。実際に見た記憶は存在しない。だからこんなに美しいところだとは知らなかった。


 だってこの島には、血生臭い噂しかなかったのだ。

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