仲間と一緒に
三章終わりです。
ロベルトが拠点に来て数日、部屋割りやディクトの教官業のことやハヤテとの確執で相当もめたが、どうにか落ち着いた。
ユニも女の子であるという認識が全員に行き渡って、スバルと楽しそうに仕事をしている。
仲間たちの大半は彼女を娘のように微笑ましく見ているようで、特に問題はなかった。
「女の子同士でわちゃわちゃしてるの見てると癒やされるよなあ」
ターロイの隣で、少女二人を見ながらディクトが頬を緩めている。普通におっさんらしい発言だ。
それに、後ろにいた男たちが普通でない反応をした。
「癒やしならディクトの方が上だぞ」
「俺も、ディクトさんを見てる方が癒やされます!」
何で呼んでもいないのにロベルトとハヤテがいるんだ。あとこんなとこで変な主張をするな、こっちが戸惑うわ。
「……お前ら、こんなとこにいないで仕事に行け。終わったら修練してろ。俺はディクトと話があるんだよ」
しっしっと追い払う。
一応二人ともターロイをリーダーとは認めてくれているようで、従ってはくれるのだ。不服そうにしつつも素直に散っていった。
「……あいつらって、教団にいた頃からあんな感じ?」
「そうだな。つうか、第二小隊全員あんな感じだった。何か懐かしいなあ」
のほほんと言っているが、それはかなりヤバい集団じゃないのか。
そう突っ込もうかと思ったけれど、俺はこの話題には関わらないと決めたのだった。やめておこう。
「ところで、俺に話って?」
「ああ、また少し拠点を留守にすることになったんだ。今朝ミシガルからモネの調査が終わったという話が来てな」
「次はモネ? 転移方陣あるんだから、どうせすぐ帰ってくんだろ?」
「どうだろうな、未知の場所だし、手こずるかも。とりあえずまた留守番頼む。今日明日で支度をして、明後日には出るつもりだ」
引き続きディクトがここを守っていてくれれば安心だ。
先日のモネでサージが起こした事件のほとぼりが冷めるまで、おそらく教団は動かないだろうし、王都はどんどん王宮の法によって整備されつつある。
しばらくは大きな問題はないだろう。
だからこそ、今のうちにできる能力封印の解除はしてしまいたかった。
「今回は誰を連れて行くんだ?」
「まだ決めていない。罠があることを考えると、それを打破する知識や能力が欲しいところだけどな。ハヤテあたりは元隠密だから罠慣れしてそうだが、まだ戦力として数えられないからなあ」
「罠? それならおたくがインザークで罠売ってる奴がいるって話、してなかったっけ? 専門家なら知識は十分だろ」
罠の専門家。ディクトに指摘されて、いまさらその存在を思い出す。
そうか、ティムがいた。
しかし、彼も戦力にならない一般市民だ。無理に連れて行って危険に晒すわけにもいかない。
「……でもまあ、考える余地はあるか。考えてみたらユニだって戦力というわけじゃないしな……。」
一応、候補にだけは入れておく。どうせティムの元には指弾の弾を発注しにこれから行かなくてはならないのだ。そこで話だけでもしてみよう。
「とりあえず、今日は指弾の弾の注文と文献解読の結果を聞きにインザークに行ってくる」
「はいよ、いってらっしゃい」
ターロイはディクトにそう言い置いて、転移方陣に向かった。
インザークに着くと、運良くグレイもティムも家にいた。
事前にアポを取っていないと、二人とも昼間は留守にしていることが多い。グレイは付近の村の調査に、ティムは作った罠に獲物が掛かってないか見に、それぞれ自由に動き回っているのだ。
それでも今日たまたま在宅したのは、インザークの天気が悪く、雨が降りそうだったせいかもしれない。
ターロイは指弾の注文を早々に済ませると、ティムに遺跡同行を打診する前にグレイに話を振った。
「……あのさ、明後日、次の封印を解きに行こうと思ってるんだけど」
「次はモネでしたっけ? 脳みそ絞って頑張ってきて下さい」
「それは当然、分かってる。……それで相談なんだけど、前時代の遺跡での罠の解除に、ティムを連れて行くのは無謀かな?」
「……ティムを?」
目を瞠ったグレイの横で、その言葉を聞いたティムがみるみる瞳を輝かせる。
「え!? 前時代の遺跡の罠? 見たい行きたい! 可動している罠を食らってみたい!」
「いや、食らうのはやめてくれ。死んだら困る」
思わず突っ込んだターロイに、グレイはため息を零した。
「……やれやれ、彼の前でその話を出したら、相談になりませんよ。この罠オタクは、私の言うことなんか聞きませんから。……でもまあ、いいんじゃないですか、連れて行けば。こう言ってはなんですが、ティムは罠を看破する能力は天才的です。もちろん知識に裏打ちされた能力ですが」
「任せてよ! 俺、前時代の罠も研究してるんだ。古文書は読めないけど、グレイさんが解読した文献で知識だけはある。ああ~実際見てみたかったんだよねえ、前時代の罠! 今の時代よりも高度で複雑な罠が多くてさ、わくわくする!」
何だかこっちが引くぐらいやる気だ。
「やる気なのはありがたいけど、ティムを危険な目に遭わせちゃうかもしれない。それが一番心配なんだ。ティムは何か護身に使える武器とかあるか?」
「武器? 罠かな」
「……罠って、武器か?」
「ティムの携帯できる罠は攻撃補助にはそこそこ有用です。ただ、防御に関してはあてになりませんね……。もし可能なら、ディクトを同行させてティムを守らせるといいですよ」
グレイの助言に、ターロイは首を傾げた。
「ディクトを?」
盾になってもらうならがっしりとした体格のロベルトの方がずっと向いている。実際、サージとの戦いの中でも彼の守りの安定感はさすがだった。
反して、ディクトはターロイより少し上背はあるが、中肉中背で盾にするにはかなり心許ない。その彼を、わざわざ同行させろとは。
「ディクトじゃ弱くない?」
「普通に戦ったら当然、ロベルトやターロイの方が遙かに上です。一対一ならですがね。しかしチームで行くならディクトの方が強いんです。あの男は戦場を個ではなく全体で見る。誰をどこに配置すれば有利か、どこに逃げれば安全か、最適解を出すのが早い。おかげで彼が教団にいた頃は、第二小隊と行動を共にした下位部隊は生還率が抜群に高かったんです」
「……なるほど、強ければ相応の、弱ければ弱いなりに、一番適した采配をするわけか。拠点の防衛でもそんなこと言ってたな」
「これまでのあなたは自分が前に出て全てを引き受けるというワンマンな戦闘スタイルだったのでディクトの持ち腐れでしたが、最近仲間を頼れるようになってきたようですし、彼の助力を仰ぐのもいいと思いますよ」
「助力か……」
グレイの言う通り、ターロイはこれまで自分がどうにかしないといけないと思って戦ってきた。
仲間を認めることも仲間に頼ることも怖かったのだ。
しかし、今はすんなりと認められる。
誰にも頼らず一人で戦うことは強さでもなんでもなかった。
仲間と支え合えるほうがずっと強い。
狂戦病の怖さも、ひよたんの存在もあってかすんでいる。そもそも、仲間が強いなら発作が出る余地もない。
仲間がいると、気持ちが軽い。
「……じゃあ、ディクトに同行を頼んでみるかな。ティムも、明後日迎えにくるから、準備を頼む」
「任せて! 楽しみだなあ!」
ターロイが内心の揺らぎを悟られないように平静を装って告げる。
それに明るく返したティムの横で、こちらの心情を読み取ったらしいグレイが小さく笑った。




