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一段落

「この三つの項目に、モネの復興を合わせる」


 イリウは三項目の横に「モネの復興」と書いて、そこから矢印を引っ張って最初に引いた矢印にぶつけ、さらに下に結論を誘導する。

 そこに、「モネで新たな事業を興す」と書き込んだ。


「新たな事業?」


「まだざっくりとしか考えてない。住民のみんなとも話し合わないといけないからな。ただ、あの宿駅のアイデアをモネ復興とくっつけることでさらに幅が広がる。……ま、これ以上はお前に語る話じゃないか」


 そう言って、イリウは別の紙に「復興手順」と書いた。


「復興は、まず今のモネの街を調査するところからだな。これはウェルラントに頼もう。現状確認してもらうことにもなるしな。ターロイには事業の前段階、モネの土台の復興を手伝ってもらいたい。お前、破壊もできるんだろ?」


「ああ」


「復興には妨げになる建物を一旦片付けないといけない。燃え残った建物や石の土台なんかを処理しやすく崩して欲しい」


 イリウは「街の調査」→「瓦礫の解体」とフローを書いていく。


「崩すのはいいけど、それを片付けるのは住民でやるのか? それとも、王国軍を頼るのか?」


「住民に自分の焼け落ちた家の始末をさせるのは酷だろう。これは王国軍に頼んで、人海戦術で一気にやってもらう。更地になったところで、またお前の力を借りたい。今度は再生の方だ」


 フローは「瓦礫の撤去」→「街の修繕」と続く。


「城壁と宿屋の修繕か」


「できれば他にも頼みたいことがある。モネの真ん中を走る、西門と東門をつなぐ大通りの修繕だ。しばらくはその通りだけをメインに事業を進めていくつもりだからな」


「それくらいなら構わないよ。……ただ、宿屋の修繕だけは今の俺の能力では無理だ」


 ターロイがイリウの手元の紙を眺めながら言うと、「街の修繕」に丸を付けたイリウはそこから横に矢印を引っ張った。


「さっきも能力を解放しないととか言ってたな。それはどうすればできるんだ?」


「前時代の未開の遺跡に行かなくちゃいけないんだ。一歩間違えば死ぬような試練を受けてくる」


「うお、なんだそれ、超ヒーローの修行っぽい!」


 何だか感奮したイリウが矢印の先に「要・修行によるターロイのパワーアップ」と書いた。何か軽いな。


「そんで、遺跡の場所はわかってるのか?」


「場所は……確か次は、モネの近くだったような」


 ターロイは鞄の中から、ガイナードの能力の封印場所を書き込んだ地図を取り出した。次の目的地はやはりモネになっている。


「近くって言うより、モネじゃね?」


「……そうだな。でも街中にそんなの無かったし、普通の人間にあばけるものでもないし……ということは、地下か」


 可能性があるのはそこだけだ。先日は地下墓地の全てを見て回る余裕なんて無かったから、わからなかったけれど。

 教団がその入り口を管理し、隠していた本当の理由はこれか。


「地下墓地か。あそこ、出入り口めちゃくちゃにしちまったけど、入って行けんのか?」


「平気だ。再生で元通りにできる。……しかし、どのタイミングでモネに行くだかな。ウェルラントが街の内部調査をした後がいいか。どうせ崩落してて地下墓地の中まで調査できないだろうし」


 別に調査が始まる前に行ってもいいのだが、しばらく拠点を留守にしていたから、いろいろ雑事がたまっているだろう。それを解消したいし、何より少し気も抜きたい。


 地下墓地に関しては先にウェルラントに報告しておけば、万が一調査で遺跡が見付かっても問題ないはずだ。


「じゃあ、ターロイのパワーアップは街の調査の後だな」


 イリウはその項目から矢印を引っ張って、「街の調査」の下に引いた矢印にぶつけた。


「この話は俺からウェルラントにしておくよ。どうせこれからあいつに調査依頼と王国軍の動員を打診しないといけないからな。街の調査が終わったらお前に連絡を入れるようにする」


「ああ、頼む」


「……さて、ここから先のフローは街のみんなと話し合って決めないとな。……じゃあターロイ、今回は色々世話になった。まあ、これからも世話になるけど」


 紙を畳んだイリウは、苦笑しつつ立ち上がった。それから丁寧に頭を下げる。


「俺たちを助けてくれて本当にありがとな。もし何か俺の助力が欲しかったら力になるから、そんときは遠慮無く言ってくれ」


「そんな、気にしなくていいのに。随分律儀だな」


「グレイに聞いてるだろ。俺は貸し借りに厳しいのよ。借りた恩はしっかり返すから」


 ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる彼が、実は貸した恩はほぼ回収していないと、今は分かる。もちろん物理的な金銭はがっちり回収するけれど、形のないものでそれ以上の恩恵を与えていた。


 そのくせ、借りた恩はきっちり返そうとする律儀さもある。

 だからこそ、イリウはみんなに慕われているのだろう。




 ウェルラントの執務室に再び入っていったイリウと別れて、ターロイはスバルたちの元に戻った。

 するとすぐにひよたんが、ユニの肩からこちらの肩に飛び乗ってきた。


「何か、ひよたんがさっきから凜々しい顔してるの。ターロイ、何かあった?」


「凜々しい……?」


 ユニの言葉にひよたんを見たけれど、その違いが全く分からない。

 しかしさっきからということは、もしかしたらイリウからの感謝の念に反応しているのかもしれない。


 グレイが、ひよたんとは離れていてもつながっていると言っていたし、きっとそうなんだろう。感謝を受けて、こいつは成長しているのだろうか。


「まあ、ひよたんは置いておいて。とりあえずこれで今回の旅は一段落だ。拠点に戻るぞ」


「ターロイ、ユニの格好はどうするです? 男の子に戻すですか? こんなに可愛いのにすごーーーーーーくもったいないと思うですけど」


「ああ、そうか……。ユニとしてはどうしたい?」


 拠点に戻れば男の子に見える幻惑魔法がみんなに掛かっている。この格好のまま戻っては女装だと思われてしまう。……まあ、ユニは男の子としても可愛いので、似合って見えるのかもしれないが。


 しかし、今はスバルもいるし、毎日のように騎士団が拠点にいるので悪さを働くものもいない。ターロイとしては本人さえ良ければもう魔法を解いてもいいのではないかと思う。


 どうせみんなにはユニが男だとわざわざ言ったこともない。よく見たら女の子だった、で通してもいいだろう。


「……ターロイは、どっちがボクに似合うと思う?」


 彼女の返事を待っていると、逆に小首を傾げて訊ね返された。

 そもそもユニが女の子だと分かっている自分には愚問なんだが。


「女の子の格好の方が似合ってて可愛いよ」


「じゃあ、ボクもう男の子の魔法やめる!」


 途端にユニが頬を上気させて高らかに宣言した。

 そして何故かそれ以上にスバルが興奮し始める。


「ならばターロイ! 拠点に戻る前に、ユニにかわゆい普段着を買うのです! あともこもこパジャマと、ニーハイソックスを!」


「何でお前の方が興奮してんだ。……まあ、でも確かに服は必要だし少し街で買い物していくか。じゃあ行くぞ」


 とりあえずウェルラントから今回の件で報酬が出ていた。このくらいの出費なら問題ない。


「……あ、皆さん!」


 ターロイが少女二人と、一言も発しないロベルトを引き連れて部屋を出ようとする。

 すると、モネの住民がこちらを呼び止め、立ち止まった一行にみんなでそれぞれにお辞儀をした。


「このたびはあんな窮地から我々を助けていただき、なんとお礼を言ったらよいか……。本当にありがとうございました」


「モネを復興したあかつきには、お礼がしたいので是非お立ち寄り下さい!」


 口々に感謝の言葉を浴びせられる。嬉しいけれど、こう連続だと慣れなくてなんだか面映ゆい。


「……皆さんも復興頑張って下さい」


 どうにかそれだけ返したターロイの肩で、ひよたんが元気に羽をばたつかせた。


「……何かひよたんがすっごい男前な顔してる」


 ユニがまたそう指摘したけれど、やはりターロイにはその表情の変化は分からなかった。


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