表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/186

宿駅~ミシガル

 翌朝、馬車に荷物を積み込み出立の準備をしている中、イリウは宿駅の主人となにやら話し込んでいた。


 おそらく経営アイデア十個出しの件だろう。

 主人の顔が昨日は心許ない様子だったのに、今は随分とすっきりしている。それだけで、彼が考えぬいて出すもの出し切ったのが分かった。もうこの宿駅の心配はなさそうだ。


「ターロイ、みんな準備ができたみたいだよ」


 そうしているうちに、ユニが呼びに来た。

 馬車は宿駅にある二台を借り、年寄りと荷物を十分に乗せることができている。徒歩のものには日差しと寒さ避けのマントを用意できたから、ここからミシガルまでの二日は随分楽だろう。


「突然のことだったのに色々準備して頂いて助かりました」


 宿駅の主人に礼を言うと、彼は大きく首を振った。


「とんでもない。モネの方がよっぽど大変な目に遭われたのに、私の方が救って頂いた心持ちです。あなたがイリウさんを助けて下さったそうで……本当にありがとうございました」


 主人の言葉には心がこもっている。

 その感謝の念を感知したのか、ユニのところにいたひよたんがターロイの肩に乗ってきた。

 おそらく、精霊が上位に進化するためのプラスエネルギーを浴びに来たのだろう。なんとも貪欲なことだ。


 ひよたんのことは一旦無視して、ターロイは微笑む。


「あなたはイリウを随分頼りにしているんですね」


「それはもう。イリウさんの助言と融資がなければ、ここに宿駅を建てることはできませんでしたから。私の他にも、彼に恩を感じている人間は大勢いますよ」


 主人はそう言って、他の住民たちと話をしているイリウを見た。


「イリウさんは年若かろうが無一文の貧乏人だろうが、その人間性と持っているアイデアを認めれば無担保で大金を融資してくれるんですよ。事業が軌道に乗って儲けが出始めるまでは相談に乗ってくれるし返済も待ってくれる。その分利息は高いですが、それを加味しても十分儲けは出ます。何より、今でも集金に来た時にアドバイスをもらえるのがありがたいんです」


 なるほど、イリウの存在は、アイデアはあるけど資金繰りができない人間の救世主という感じなのか。

 その上、経営者として助言をもらいながら育ててもらえるのだ、その指南と育成料と考えれば高い利息くらいどうということもないのだろう。


「じゃあ、貸付金の返済が全て終わった時がイリウの経営者育成コースからの卒業ということですね」


「そうなりますね。……まあ、卒業したくなくて利息だけ払い続けている者もいますが。返済が済んでしまうと、イリウさんとの接点がなくなるのでね」


 つまり、それだけイリウのコンサルティングが確かだということだ。頼りたくなるのも当然か。


 この先、ウチの拠点ももう少しいろんな収入を考えないといけないし、その時はイリウに相談してみよう。

 ……それまでに、俺もアイデアを書き溜めておかないとな。





 宿駅の主人に別れを告げて、我々は一路ミシガルに向かった。

 しっかりと朝食をとれたおかげで、みんなの足取りは軽い。野営地で明かす一夜も厚手の毛布があれば問題なかった。

 馬車があるから当然進みも早く、山賊に一度足止めを食ったにも関わらず、一行は二日目に予定通りミシガルに到着していた。


 ターロイの特別手形で検問をパスして街に入る。


 そこには騎士が控えていて、連れ立ってきた全員が領主の屋敷に案内された。

 どうやらウェルラントは王都から戻ってきているらしい。


「ターロイ様とイリウ様はこちらへ。ウェルラント様が執務室でお待ちしております」


 一度全員で大広間に通された後、二人だけ呼び出される。

 まあ顛末を話してあるとはいえ、直接の報告も必要だろう。教団本部の様子と王国軍のこれからの予定も知りたかった。

 その後のダーレ司教の処遇も気になる。


 ウェルラントの呼び出しに応じ、さっそくターロイはイリウと共に執務室に向かった。




「ご苦労だった。無事で良かったよ、二人とも」


 部屋に入るとウェルラントに労いの言葉を掛けられ、応接用のソファを勧められた。二人でそこに座ると、執務机から立ち上がった彼も向かいのソファに座る。

 いつものように人払いがされて、部屋は三人のみとなった。


「久しぶりだな、イリウ。拷問に遭っていたと聞いたが、思ったより元気そうで何よりだ。ターロイ、結局モネの救出をさせてしまって悪かったな」


「救出したって言っても、少ないけどな……。大部分の住民はサーヴァレットの餌食にされてしまってたから」


「……ふむ。サーヴァレットもそれだけ魂を食えば随分成長したか……」


 ウェルラントはそう独りごちてからこちらを見た。


「ところで、モネが教団の手によって壊滅したという話だったな。詳しいいきさつを話してくれ」


 単刀直入に訊ねてくる。

 ターロイはそれに対して、サージとサーヴァレット、そして守護者のことを説明した。それから、サージをそそのかし、ダーレ司教を連行した『誰か』の話も。


「ウェルラント、ダーレ司教の話は何か入ってきているか?」


「サイ様がモネの略奪のことで教団を問いただしたところ、犯人として名前が上がったようだ。しかし教団側はその身柄を引き渡すつもりはなく、教団内で裁くと言っている」


「やっぱり教団はあの人に罪をかぶせて、人質として拘束しておくつもりか……」


 分かってはいたが、何とももやもやするやり方だ。

 それに、これがどれだけサージに対して効力を発揮するのか分からない。


 サーヴァレットによって親子の情が薄れているのは確かだ。

 しかし、ダーレ司教が捕まったことでサージは自分がそそのかされていたことを知るだろうし、だとしたら彼を盾にして命令を受けることに反発するだろう。


 それでもあいつは権力には屈するのか、それとも父への無体に憤るのか。


 この一件は、教団とサージの関係に少なからず影響する。

 それがどう転ぶのか。ターロイには予想がつかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ