守護者とは
「モネが燃えてる……! 教団の仕業か!?」
「待て、今戻ったら危ない!」
イリウが慌ててさっき出てきたばかりの城壁の穴に戻ろうとするのを引き留める。
モネへの愛着は分かるが、今この中には敵しかいない。守護者もいつ崩落した瓦礫の下から這い出てくるかも分からないし、死にに行くようなものだった。
「命あっての物種だろ、とりあえずみんなとの合流が先だ」
「くそっ、あいつら……!」
イリウは悔しそうに歯噛みするが、今は堪えてもらうしかない。もしモネを復興することになったら、彼は資金面でも精神面でも住民の支えになる男だ。こんなところで死んでもらっては困る。
「おそらく略奪の証拠を残さぬために、街を全焼させる気なのだろう。俺は参加したことはないが、以前は略奪して村を焼き、賊のせいにしていたこともあると聞く」
「……それって、神の託宣の時の?」
「そうだ。と言っても、本来は神託と略奪はイコールではないのだがな。……ともかく、こいつらはきっとその前例をなぞっているのだろうが……まあ、そう上手くはいくまいな」
ロベルトがそう言った時、街の中から瓦礫が散らばる音と咆哮が聞こえた。守護者が崩落した地下墓地から這い出して来たのだ。
途端に街中が一気に騒がしくなる。
「……何だ? 悲鳴が……」
城壁の外まで聞こえてくるのは、男どもの悲鳴だった。
もう中には住民はいないのだから、当然教団の僧兵のものに違いないが。
「始まったか。こうなってはもう、街中にいる人間を皆殺しにするまで守護者は止まらない」
「ちょっと待て、守護者は教団員を襲わないんじゃないのか? 神託による村の殲滅の時、守護者が暴れてても教団の奴ら普通に街中歩いてたけど」
「さっきも言ったが、守護者はコントロールできない。……ただ、神託の時は選抜部隊の者にだけ、守護者に狙われなくなるアイテムが教団から支給されていた、らしい。今回はもちろんそんなアイテムがあるわけもないから、全員殺されるだろう」
そういえば、ヤライの時も敵の司祭たちは狙われなかったのに、同じ教団員のグレイは狙われていたっけ。
あれは選抜部隊としてアイテムを持っているかいないかの違いだったのか。
「……なあ、守護者って、この後どうなんの? ずっとモネにあの状態で居座るわけじゃないよな?」
二人の話を聞いていたイリウが困惑気味に訊ねてくる。彼の心配ももっともだ。
それにターロイは思案しながら口を開いた。
「おそらく、日付が変わると同時にあのサーヴァレットはサージのものに戻る。守護者は普通に考えればその時点で動けなくなるはずだ」
「モネの焼け跡にあんな物騒なやつが残られても困るんだが……。あいつってどうにかできないのか?」
「そう言ってもな……」
守護者は不死身だ。今までのように教会の地下にでも閉じ込めて、サーヴァレットから隠しておくしか手立てがない。
「本来は、殺してやれる方がいいんだがな。……今でこそ守護者なんて呼ばれて教団に利用されているが、そもそもあいつらは前時代に不死の術を受けた、世界の理から外れた死に損ないだ」
前時代では大戦の時に使うため、人工的な不死者を作る術を研究する機関があった。この守護者というやつらは、みんなこの時に不死の術を受けた人間なのだ。
ただ、何故彼らが自我を失っているのか、サーヴァレットに支配されているのかは、ガイナードの知識の中にはない。ガイナードが存命の頃は、不死者たちはみんな自身の意思で動いていたからだ。
彼らはどうしてこうなったのか? それが分かれば、もしかすると突破口が見えるのかもしれないけれど。
「グレイが今、遺跡から見付かった前時代の研究資料を解読している。不死の術に関する資料があれば、あいつらをどうにかできるかもしれない」
「……あるかどうかは不確定……すぐにどうこうできる話ではないってことか。まあ、モネ自体もすぐに復興できやしないが……」
イリウが大きくため息を吐く。街の炎は全体に広がり、黒煙が空を覆っていた。守護者のせいなのか火事のせいなのか、崩れる瓦礫が音を立てている。
「しばらくモネに戻ることは難しいだろうな。これからどうする?」
「とりあえずみんなと話してみないと。さすがにこれだけ壊滅させられれば、ここに残りたいなんて言う奴はいないだろうけどな。まあ、ミシガルを頼るしかないかね」
確かに、ミシガルならきっとウェルラントが融通を利かせてくれるし、何より教団がない。今のモネの住民たちは、教団管轄の街に行くことをよしとしないだろうからな。
「俺たちの拠点はミシガルの近くにある。ちょうど戻るところだったから、ミシガルまでなら同行するぞ」
「ああ、それは助かるよ。みんなを山賊から守るのは俺だけじゃ無理だし」
本当は転移方陣で帰るつもりだったが、ここまできたらミシガルまで面倒見よう。
彼らは水も食べ物も持っていないのだ。
しかしスバルがいれば水場を探すことは容易だし、ユニのグロウがあれば、果物や山菜を人数分確保することもできる。




