教会突入
モネの地下に置かれている守護者。
ヤライの村で見たのとは別、しかし同種のものだと分かる。
前時代の鎧、ボロボロのマント、落ちくぼんで開いているのか閉じているのかも分からない目。
その右半身が棺から見えているが、武器は持っていないようだ。
それにターロイが視線を向けると、逆にぞわぞわする視線は感じられなくなった。
……これは死体ではない。敢えてここに眠らされているのだ。
今まで守護者に潰されてきたのは村だけだったけれど、街にも配置されているということは……ゆくゆくは、街も滅ぼす対象だということなのか。
そうなると、モネだけではない。
他の街にも守護者が隠されている可能性がある。
(滅びの決定は神の託宣だと言っていたな……。ならば勝手に動き出すことはないだろうが、その一方で、神託によっていつどこの守護者が街を滅ぼしてもおかしくないってことか)
まさか教団が街をも消すつもりだとは。
一体目的は何なのだろう。
このままでは前時代の大戦のように、また人類の八割あまりが死んでしまう。
……いや、とりあえず、考えるのは後だ。
気にはなるけれど、まずはモネの住民とイリウを救い出すのが先。
ターロイは横穴を奥まで進むと、そこから部分破壊を駆使して地上に出る穴を開けた。
一応地上に出て、街の外であることと敵の見張りがいないことを確認する。
少し離れたところに森の入り口があるし、これなら問題ないだろう。
ターロイがとって返して戻る頃には、スバルたちはすでに脱出の準備を終えていた。
「スバル、ユニ、彼らを先導して、街の外に脱出してくれ。地上に出たら城壁沿いに森に向かって、中で待機を」
「了解です。ターロイたちはどうするですか?」
「お前たちが脱出したらその穴を埋め直してから、イリウを助けに行く。ロベルトは俺と一緒に来てくれ。サージと鉢合わせた時、充魂武器持ちがいると助かるんだ」
「元よりそのつもりだ」
「……すまないが、サージの元に行くのなら、私も同行させてくれないか」
ターロイが仲間に指示を出していると、不意に横からダーレ司教が声を掛けてきた。
「ダーレ司教……。サージを説得する気なら無駄だと思いますよ。あなたがおっしゃっていたように、サーヴァレットを持ったあいつはどんどん情を失っている。親子の情に訴えても聞き入れることはないかと」
「それでもだ。……我々が歪まされたせいで、教団で生まれた子供たちも皆、生まれながらにして歪んだ価値観を植え付けられてしまった。サージの罪は私の罪も同然。放ってはおけない」
「大きな罪のほとんどはサーヴァレットの力に溺れたサージのせいです。あなたのせいじゃない」
「そういう力を渇望する男に育ててしまった責任も私にある」
彼は存外に真面目な男のようだ。
まあ、親としてこれ以上息子に罪を犯させたくないのだろう。
サージがその気持ちを汲むとは思えないけれど、ターロイは仕方なく頷いた。
「……わかりました、一緒に行きましょう。ただ、説得が無駄だと分かったらすぐに退いて下さい。サージは思った以上に多くの人をサーヴァレットに食わせている。成長するあの剣と適合していくと、情を失う代わりに猜疑心と怒りが増していくんです。父親であるあなたも安全とは限らない」
「ありがとう。大丈夫だ、危険なのは分かっている」
ダーレ司教が住民の一団から抜ける。
それを待って、ターロイはスバルに声を掛けた。
「スバル、じゃあ他のみんなを頼む」
「うむ、出発するです。ユニ、スバルが先導するですから、後ろからみんなの様子を見ながらついてくるです」
「うん、わかった」
スバルが歩き出すと、皆がそれに付いてぞろぞろと進み出した。
年寄りや怪我人がいるから少し歩みは遅いが、他の者が手助けをしているから問題ないだろう。
ターロイはその最後尾に付いて行くと、全員が地上に出たのを確認したところで、その穴を再生の力で埋め戻した。
これで住民がどこから逃げたかはもう分からないはずだ。
「じゃあ、俺たちも行こう。ダーレ司教は後ろからついてきて下さい」
「ああ、先導よろしく頼む」
二人の元に戻ったターロイは、地下墓地の本来の入り口の方に向かって歩き出した。
ここから先は、教団員に見つかろうが何しようが問題はない。
イリウを救い出すことだけが目的だ。
……あとは、サージに遭遇した時が面倒だけれど、ダーレ司教の説得に少しだけ期待しよう。
地下墓地を出ると、三人で教会の表に回った。
さっきは無視して行った見張り二人をあっさりと倒して、扉の中に入る。
その先の礼拝堂に四人の僧兵がいたが、ターロイとロベルトで瞬殺した。
「ダーレ司教、拷問をするような部屋って教会のどこにありますか?」
目星を付けて懺悔室を覗いてみたけれど外れだった。手っ取り早くダーレ司教に訊ねると、彼は短く思案する。
「専用の部屋というものはない。けれど一階は厨房や倉庫などがメインだから、いるとしたら賓客用宿舎や執務室のある二階だろう」
「じゃあ二階を端から見ていくか。……こういう時、スバルのありがたみを感じるな」
スバルがいれば、音で目的の部屋がすぐに分かったに違いない。しかしそれを言ったところで詮無いことで、ターロイは急いで階段に向かった。
僧兵の大部分が街中に略奪に出ているからか、教会の中は人が少ない。ターロイは二階に着くと鍵を壊しながら部屋を一つずつ巡り、中を確認する。
そして大きな扉の手前に来たところで、部屋の中から物音とうめき声が聞こえたのに足を止めた。
「ここか。執務室……司祭の仕事もせずにこんなとこで拷問かよ」
呆れと怒りのない交ぜになった気分で扉の取っ手を引いてみたけれど、やはり鍵が掛かっている。それを簡単に破壊して、ターロイは頓着せずに執務室の扉を蹴り開けた。




