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モネ侵入

 モネの転移方陣を街の外に作っていたのは正解だったかもしれない。

 門が閉じられ状況もわからないこの中に、直接四人で飛んで行くのはさすがに危険だ。


 モネの城壁の外に飛んできたターロイたちは、まず塀越しに中の音をうかがった。


「……静かだな。住民はどうしてるんだろう。スバル、何か聞こえるか?」


 人間の耳では音から拾える情報がない。スバルに聞くと、彼女は帽子を外して耳をピンとそばだてた。


「内容は聞き取れないですが、離れたところで話し声がするです。でも人数はそれほど多くない。教団の人間ですかね? 騒いでいる様子はないですから、住民はどこか建物の中に閉じ込められているのかもです」


「モネで住民を一度に収容できるような場所があるか……?」


 正直モネは旅の途中に寄るだけの街、そんな場所があるのか見当もつかない。

 首を傾げていると、隣からロベルトが口を挟んだ。


「住民の収容環境を考えないなら、スペースだけはある。……地下墓地だ」


「地下墓地?」


「教会の敷地内に入り口がある。……前時代に掘られた地下空洞で、その頃の棺がいくつも収まっているらしい。詳しいことはそれ以上知らないが、モネの地下全体に蟻の巣のように張り巡らされているというから、住民を閉じ込めるくらいは十分だと思う」


「……そんなものがあるのか。じゃあ、まずは教会を目指そう。分かっていると思うが人命が最優先だ。住民を逃がすまではできるだけ騒ぎを起こさないように」


「途中で敵に見付かったらどうするです?」


「人命優先に変わりはない。スバルは住民を発見し次第、ユニと一緒に彼らを先導して逃がしてくれ。敵は俺とロベルトで食い止める」


 スバルがいれば、逃げる先に敵がいるかどうか判別できる。住民を誘導してもらうのにうってつけだ。負傷者がいれば一回のみではあるもののユニの力で完全回復ができるし、森に逃げ込めばグロウによる敵の拘束も可能。追撃をこちらで片付ければどうにかなるだろう。


 ロベルトに関してはほぼ心配ない。過去に第一小隊に所属し、後に第二小隊になったとはいえ、実力は当時の教団で一番。その上充魂武器を持っているのだ。何の問題もないだろう。

 そもそもこのサージの思いつきの悪行に、彼以上の実力を持つ人間が駆り出されているわけがない。


 唯一心配なのは、サーヴァレットのみだ。


「みんな、もしサージと遭遇したら、絶対相手にするな。あいつの剣に刺されたら、魂も身体も丸ごと食われるからな」


「……食われるって、どういうこと?」


 ユニが不安そうに首を傾げる。もしかすると頭からバリバリと食われるような想像をしているのかもしれない。


「簡単に言えば、剣に吸い込まれてこの世から消えてしまうってことだ。そうなると助ける術がないから、気を付けろ」


「……しかし名前を聞いても、どんな奴か分からないから警戒のしようがないんだが」


 今度はロベルトが少し困惑気味に言う。

 まあ、それはもっともだ。けれど、おそらくすぐ分かる。


「心配しなくても向こうからべらべら自己紹介してくれるさ。サージは自己顕示欲が強い馬鹿だ。こちらの力を警戒して奇襲をかけるような賢いことはしない。それより自分がいかに教団で偉く、恐れられるほど強いかを誇示せずにはいられないんだ。他人を見下すことでしか優越感を得られない奴だから」


「……劣等感の裏返しか。随分と小人物のようだ」


「肩書きばかりを欲しがって中身が伴わないから、どんどんコンプレックスが強くなってるんだ。何でも簡単に手に入る環境というのは、一見良さそうに見えてもそれで満たされるわけじゃない」


「それは確かに……。俺にも少し耳が痛い話だな。自分の中身はすかすかなのに神輿を担がれて、昔は力量不足を見せないために、回りにわかりやすく示せる力や金品ばかり求めて虚勢を張っていた気がする」


 そう言ったロベルトは、小さく苦笑した。

 それを自覚して認められる彼は、もうその段階にはいないということだ。

 サージとは違う。


「まあとりあえず、そいつに会ったら気を付けるとしよう」


 それ以上ここで語る気はないのだろう。ロベルトは話を回収してこちらに目配せした。それに応じるように頷く。


「そうしてくれ。……それじゃ、そろそろ行くぞ。準備はいいか」


 ターロイはみんなを見回すとハンマーを取り出し、城壁に人が屈んで通れるくらいの穴を開けた。






 閉鎖された街の中は、警戒する必要がないからか、見回る僧兵もいない。


 ただあちこちの店からガタガタと何かをひっくり返すような音がしていた。


「……見回りもせずに善良な民の財産を根こそぎ略奪か。あいつら、ちゃんと神に祈ったり懺悔したりしたことあるのかね」


 塀の陰から伺いつつ呆れたように言うと、ロベルトがそれに答えをくれた。


「基本的に僧兵は教義を暗唱するだけで、祈りの時間も何もない。大体が不信心で金目当てだ。司祭や教団に近い成金の子息がほとんどだしな。下位小隊には信者あがりのまじめな奉仕を目的とした人間もいるが、彼らは危険な任務などでほぼ使い捨てにされる」


「ほんと、腐ってるなあ……」


 全く、ため息しか出ない。


「酷い奴らです……。ターロイ、懲らしめに行かないですか?」


 後ろでスバルがいらだたしげに言うけれど、略奪はあちこちでされているし、今こんなところで姿を見られるわけにはいかないのだ。

 ターロイは首を振った。


「あいつらを倒したところでまた別の奴が来るだけだ。根本を叩かないとな。まだここから金品を運び出してはいないだろうし、最終的に奴らを倒せば丸ごと戻ってくる。今は我慢しとけ」


「くうう、いらいらするです……!」


「その鬱憤は後で晴らせ。教会に向かうぞ」


 スバルをたしなめて、街の奥に向かう。教会は商店の並ぶ大通りから外れて奥の方にあった。家屋の陰に隠れながらの移動は、見回りがいないから余裕だ。


 しかしさすがに教会前には二人の見張りがいた。

 ……ただ、全く緊張感はない。立ち話をして、周囲を警戒する様子が微塵もない。


 上に立つ者がきちんと命令をせず、上司としての仕事もしていないからだ。

 教団のような上意下達の組織では、管理する人間次第で勤勉にも怠惰にもなる。


 そもそもサージは肩書きを与えられてはいるが司祭としての教育なんて受けていないし、人の上に立つ器もない。無能の配下は無能になるのだ。


 たとえ有能な者が下にいたとしても、無能な上司は有能な部下を快く思わない。だから有能な者は去るか、残っても目立たぬよう、無能と同じことしかしない。結局無能だ。


「……酷いな。この統率力の無さ」


 ロベルトもサージの管理能力の低さに眉根を寄せた。

 今の教団がここまで程度が低いことに、落胆しているようにも見える。


 つけいりやすくて助かるが、教皇の孫としては複雑なのかもしれない。



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