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修羅

 遺跡の外では一方的な戦いが繰り広げられていた。


 こそりと扉の隙間から覗いただけでも十人以上死んでいる。もちろん全て、金目の物を狙ってきた盗人たちだ。随分人数を用意してきたと見える。


 ロベルトはというと、少し先でトンネルに逃げた人間をまた一人切り捨てていた。


 その瞳は死んだように光がない。殺気すらも発していない。

 それでも鳥肌が立つこの気配、これは恐怖だろうか。まるで死神が目の前にいるような感覚に陥る。


 おもむろに振り返ったロベルトと目が合いそうになって、ターロイは慌てて扉を閉めた。


「……確かに、あれはカウンターだけじゃないな。どう考えても殲滅系のスキルが付いている。ここにいるのがバレると俺たちも殲滅対象になるぞ」


 返り討ちにできる相手ならいいが、ロベルトの腕は並大抵ではない。ここでするべき選択は、彼が動きを止めるまで待つ、その一択だ。

 転移方陣をここに作れば脱出はできるのだけれど、貴重な一回分をこんな不便な場所に使いたくはない。


 仕方なく扉に寄りかかって待ちの体勢に入る。

 すると、未だに渋い顔をしたスバルが、ぼそりと呟いた。


「……あの男の血の臭いが一段と濃くなってたです。これは好戦的なスキルを持つ者特有の臭い。返り血と自身の血の臭いが体温の異常上昇によって増幅され、周囲を威圧してるです」


 彼女はロベルトのスキルを警戒しているようだ。

 それに応じて、ターロイも彼のスキルに思考を向けた。


「見境ない感じが俺の狂戦病とかぶるんだよな……。しかしいくら教団でも、そんな味方も襲うような危ないスキルを、これから使役しようとする人間に好んで付けるわけがないし。敵陣に単体で突入させてそのまま使い捨てにする人間ならまだしも、相手は教皇の孫だからな」


 殲滅系のスキルは威力がある分、味方まで巻き込んでしまうものが多い。スキルの特有技には、一度に多くの敵を倒すために広範囲攻撃が多く、範囲内にいる味方にもダメージを与えるのだ。


 しかしロベルトを見る限り、一人ずつ確実に仕留めている。

 殲滅系で単体攻撃。

 一見非効率のため、実用化されているスキルの数は限られる。ターロイはその中から、かなりの力量を必要とするあるスキルに目星を付けた。


「ロベルトが持ってるもう一つのスキルは『修羅』かもしれない」


「『修羅』? どんなスキルですか?」


「抜刀してから敵を倒すごとに攻撃力が増していくスキルだ。殲滅に単体攻撃を使う場合は、一人に掛ける時間を極力少なくする必要がある。『修羅』は敵を倒せば倒すほど一人に掛かる時間が減り、最終的に敵の大将と対する頃にはかなりの攻撃力になる、リーダー殺しにうってつけのスキルなんだ」


 ロベルトは教団最強の第一小隊のメンバーを全員倒した男だ。そんな彼にこそ、たとえばウェルラントのような王国軍の強者を排除させようと考えるに違いない。

 だとしたら、ロベルトに付けるスキルはこれしかないだろう。


「敵を倒すごとに攻撃力が上がる……そんなの絶対強いに決まってるじゃないですか、ずるいスキルです」


「強いのは間違いないけど、このスキルを使いこなすにはかなりの力量が必要だ。敵を倒した人数の積み上げはちょっとしたことですぐに解除されてしまうし、解除されると一定時間著しく攻撃力が下がる」


 強力なスキルには、必ず制約が付く。こうしてバランスを取らないと、世界が成り立たなくなるのだと昔グレイが言っていた。

 この話は創世の神話にまでさかのぼるらしいから、ここで語ることではないが。


「『修羅』のスキルを持続させるには、最初の敵を倒してから十秒以内に次の敵を倒さなければならない。その後は七秒以内に次から次へと敵を倒し続けないと攻撃力が上がっていかない」


「七秒!? それは、敵がまばらだと難しいです……」


「そのまま七秒経過するか、一旦剣を鞘に収めると通常の攻撃力に戻る。ただ、そのコンビネーションボーナスの最中に敵に攻撃されて怯んだり、攻撃を弾かれたり、大きく空振りしたりすると反動でがくんと攻撃力が下がるんだ」


「確かに、使いこなすのが難しそうなスキルですね」


「まあな。だけど今は、壊れた頭箍がどれだけスキルに影響を与えてるかの方が問題だ。……スバル、外の様子はどうだ? 戦いはそろそろ終わったか?」


 訊ねると、スバルは再び耳をそばだてた。


「ふむ、あと二人くらいで終わりのようです。……ああ、きっちり七秒以内……あの男、マジ強ですよ」


「『修羅』スキルを発動させてるのか。戦いが終わったらそのまま剣を鞘に収めてくれればいいが」


 攻撃力を蓄積しているロベルトと相対するのは避けたい。そのスキルが変異しているかもしれないとしたら尚更だ。

 ターロイはその動きが止まるのをじっと待つ。


 ロベルトが動かなくなったら、一旦トンネルの向こう側まで戻ろう。いや、その前に死体を片付けるべきか。ユニにあんな死体の山を見せたくない。


 しかし、そんなことを考えていたターロイに、スバルが慌てたように話しかけた。


「あれ、ちょっと、ターロイ! あの男の足音、こっちに向かってくるです!」


「え? またここの入り口の石段に座って休むつもりなのか?」


「そういう感じではないです。足を捌く音がまだ臨戦態勢ですよ」


「いや、ちょっと待てよ。俺たちがここにいること、知ってるわけが…………ああ、そういや、入るところをがっつり見られてたか……」


 ロベルトの目の前で解錠していたことを思い出して、眉間を押さえる。こんなことが仇になるなんて思わなかった。

 くそ、盗人どもさえ現れなければ彼のスキルは発動されずに、ここからあっさりと帰れたはずなのに。

 タイミング悪く、まさか自分たちまで殲滅対象に入るとは。


 本来の修羅スキルは味方を判別できるが、不具合のある彼のスキルが敵味方の区別ができないことは分かっている。

 逃げたところでどこまでも追ってくる仕様だし、下手に途中で他人と遭遇したら、その人間も巻き込む羽目になる。


 戦うしかないのか、これは。


「スバル、ロベルトはどのくらいで来る?」


「最後の敵をトンネルの中まで追っていったから、まだ距離はちょっと離れてるです」


「こんな狭いところで待つよりは、外に出て迎え撃った方がいいか。……ユニ、危ないからお前はここにいろ」


 正直、あまり勝算は高くない。得物の違いも顕著だし、何よりあっちは感情が加味されない分、躊躇いがない。

 ロベルトを殺したくない、できれば仲間にと思っているこちらとは、思い切りが違う。


 それでも彼の動きさえ止めることができれば、さっきゴーレムにそうしたように、ロベルトの頭箍もただのオリハルコンの輪っかに戻すことができるのだ。戦う必要もなくなる。


 ゴーレムのデータですでに使役術式の型は分かっていた。頭箍にアクセスできれば、そこをピンポイントで狙って消去できる。


「スバル、俺が囮になって戦うから、ロベルトの動きを止められないか」


「力ならどうにかなるかもしれんですが……、あの男のカウンターが曲者です。おそらく触れようとしただけで即座に反応されてしまうですよ」


「ああ、そうか、カウンター……」


 カウンターはロベルトがどんなに油断していたところで自動的に発動する。自動だから、太刀筋を読むのも難しい。

 こんなところで、スバルをそんな危険に晒すのは避けたい。


 さて、どうしたものか。



「あの、だったらボクがあの人の動きを止めようか?」



 悩んでいると、不意にユニが思わぬ立候補をしてきた。

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