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遺跡の外の異変

 生成術式を消すにはいくつかの段階を踏む必要があった。


 一つの記述を消すと、それを補うためのサブ術式が発動し、文言同士が欠損を補い合うようになっている。

 下手にメインの術式を消したりすると、他のサブ術式が一度に起動して、手の付けられない状態になったりするのだ。


 強引に再生の能力で初期化もできるかもしれないが、そうするには術式をねじ伏せる相応の精神力を要する。今のターロイでは難しい。

 だったら外堀の記述から慎重に消していくしかない。


 幸い、ユニのブーストのおかげでガイナードの核の処理能力が大きく上がっていて、影響の少ない不要な文言からどんどん消していける。まるで解法の見付かったパズルのようだ。


 そうしてゴーレムの術式を消しながら、ふと頭の片隅で考える。


 もし今回、仲間の同行を嫌がって、かたくなにスバルとユニを連れてこなかったらどうなっていたのだろう。


 ゴーレムをこうして再生でアダマンタイトの状態まで戻すことなんて考えついただろうか。

 もし気付いたとして、こんなにあっさりとその頭上を取り、術式を探ることができただろうか。


 できたとしてもきっとボロボロ、最悪死んでいたに違いない。

 そして彼女たちの気持ちを酷く傷付けることになっただろう。


 そう考えて、今更のように今後どうしていいか分からなくなる。


 次の遺跡に行くとして、絶対またこんなふうに罠がある。そこに仲間がいれば心強い。しかしやはり、仲間を死の危険に晒すのは怖いのだ。


 狂戦病の発作が怖いのはもちろんのこと。

 其の実、ターロイが本当に怖いのは、理由に関係なく仲間を失うことだった。


 親しかった人が目の前からいなくなる。幼い頃から何度も経験したその悲しみは、心の根深いところで大きな傷を作っていた。

 だからターロイは、狂戦病を言い訳にして仲間を作ることをやめたのだ。最初から親しい者を作らなければ、失うこともない。


 そうやって自分の心を納得させて、他人に深く関わらず生きてきたつもりだったのに。





 ユニの歌が終わり、そこでターロイはブーストによるフォローがなくなった作業に思考を集中させた。そうだ、余計なことを考えている場合じゃないのだ。


 しかし、すでにほぼ術式の記述は消えている。そこから五分ほどで、ゴーレムは魔法による接合が崩れ、ただのアダマンタイトの塊に戻った。


「よし、これでゴーレムの存在は消えた。……ええと、頭部のガイナードの核の欠片は……」


 崩れたゴーレムの頭は目だけが赤く光っている。これは欠片がゴーレム生成術式によるものではなく、ターロイのガイナードの核本体に反応している証拠だ。


 目を保護するガラス部分の、接合が外れているところを取り除く。そこから手を突っ込んで欠片に触れると、『時限破壊』の能力が核に流れ込んできた。これで目的達成、一段落だ。


 この能力があれば、これからの戦い方の幅がぐっと広がる。


「ターロイ、終わったですか?」


「ああ、これで完了だ。二人とも、ありがとな」


 ターロイは崩れたゴーレムを足場にして穴から出た。いつの間にやらひよたんは黄色いふわふわに戻ってユニの肩に乗っている。


「ボク、少しは役に立てたかな?」


「少しどころか、すごく助かったよ」


 首を傾げて訊ねるユニの頭を撫でてやると、彼女はくすぐったそうに笑った。


「でも、まだ遺跡の扉が開いていないようですよ? まだ何かする必要があるですかね?」


 その隣でスバルが階段の方に視線を向ける。

 さっきの変身のせいか服を着ていないが、まあ、毛皮でちゃんと隠れてるからいいか。


「階段までが魔法の檻の範囲に入ってるから、おそらくこの燭台の火を全部消せば開くと思うよ」


「ああ、入ってきたときと逆なのですね」


「とりあえず出る前に、持ち出すものをまとめよう。出たら他の者が入れないように鍵をかけ直すからな」


 ターロイはそう言って、奥の作業台にある文献をまず回収した。それから自分の上鋼のハンマーを背負い直す。一応アダマンタイトのハンマーもこのままもらっていこう。


「ユニ、その辺にたいまつを放り投げてあるから拾っておいてくれ。燭台から炎を移して。ここの火を消していくと真っ暗になるから」


「うん、わかった」


「スバル、そっち回りに燭台の火を消していってくれ。俺はこっちから消していく」


「了解です」


 外周の燭台の灯火を消していき、最後に中央の炎を消す。

 そこからたいまつの明かりで足元を照らしながら、穴に落ちないように階段へ向かった。


「……静かですね。スバルは耳がいいので外の音が聞こえないという状況がなんだか心許ないです」


「ああ、魔法の檻は外からの干渉を完全に遮断するからな」


 階段の明かりも消しながら上っていく。

 その途中でスバルがぽつりと呟いた。まもなく出口だが、いつもは察知できる外の様子が分からないのが、彼女には不安なのかもしれない。


「この火を消せば、多分外の様子が分かるよ」


 一番出入り口に近い、最後の燭台。それを前に小さく笑って、ターロイは息を吹きかけた。


 途端に出口の前に下りていた魔法の鉄格子が、ガシャンと音を立てて開く。

 今回は特に変な解除条件がなかったことにほっとして、外に出ようと扉に手を掛けた、ところで。


「ちょっと待つです、ターロイ!」


 唐突にスバルに手を抑えられた。


「どうした、スバル?」


「外で誰かが戦ってるです」


「……戦ってる?」


 遺跡の扉が分厚いせいか、それらしい喧噪は聞こえない。扉に耳を付けて外の音を伺うと、ほんのわずかに剣が交わる金属音らしきものが聞こえた。


「また金目のもの目当ての冒険者か何かか……? 間違いなくロベルトが戦ってるんだろうけど、今は自我がないだろうし、加勢するわけにもいかないな」


 ロベルトに近付けば、こちらも危ない。この戦闘が終わり、彼が再び動きを止めるまでは出ない方が良さそうだ。


 どうせロベルトは充魂武器持ちで相当の手練れだし、こんなところに来る雑魚相手に後れを取ることはないだろう。

 しかし。


「……あの男……もしかして……」


 耳をそばだてながら、スバルが眉根を寄せた。


「どうした?」


「向かってくる人間だけじゃなく、逃げる人間も追いかけて殺しているです。やはり、あいつのスキルはカウンターだけではないです……」


「カウンターだけではないって……もしかして複合スキル?」


「おそらくは」


 基本的に、アイテムには一つのスキルしか付かないが、極まれに偶然の術式の掛け合わせで二つ以上のスキル……複合スキルを持つアイテムができることがある。

 あの頭箍がそれだということか。


 では、カウンター以外のもう一つのスキルとは?


 スバルが眉を顰めているのが気になって、少しだけ扉を開けて外を盗み見る。

 すると、途端に遺跡の中に吹き込んできた血の臭いと悲鳴に身構えた。


 何だこの凶悪な気配は。


 一瞬でターロイの全身に鳥肌が立った。

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