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立ち入り禁止のその奥

 宿屋の主人に話を聞いた後、仲間が戻ってこなかったという採掘業の男の何人かから酒場で話を聞いた。


 洞窟の奥に一人の男がいるという噂は、あの辺りを採掘する人間の間では有名らしい。

 どこまで本当か分からないが、その男はオリハルコン、ミスリルの他、いくつかの高価な宝石のアイテムを身につけているとか。


 その噂のせいで、欲に目が眩んだ腕に自信のある盗掘者や冒険者が洞窟に入っていき、帰ってこなくなる事案が現在も続いているらしい。

 おそらくロベルトの守る洞窟の奥にはもっとすごいお宝が眠っているに違いないと考える者も多いのだろう。


 しかし、その奥にあるのはガイナードの能力封印の遺跡だ。


 ロベルトはそこを守っているわけではない。多分、教団が立ち入り禁止にしているおかげで人に見付かりづらく、雨風がしのげる程度からの理由だと思う。


 彼の使役者がグレイの言うように死んでいるなら、頭箍の影響を受けている間は完全に動けない。頭箍が壊れているせいでいくらか自我が戻ることもあるようだが、無防備で人前で停止するリスクを考えたら、彼の選択は理解できるものだった。


 本来なら、誰か事情を知るものに匿ってもらうのが一番安心なのだろう。しかし、教団には当然戻りたくないようだし、王国軍側に保護してもらえる立場でもない。そして手当たり次第に人を殺してしまう状況にいるのなら、おそらくそうするしかなかったのだ。


 ロベルトは今、わずかでも自我が戻っている間、何を考えながらそこにいるのだろう。

 自身の装具を狙う盗人しか相手にせず、孤独に塗れて。


 以前ガントに来たのも、人恋しくなったからなのだろうか。





 翌日の朝、支度をするとスバルとユニを伴って、ガントの東の山の中腹にある、教団の立ち入り禁止区域にやってきた。

 ロベルトの対策は何も考えていない。とりあえずどんな状況なのか見当もつかないからだ。


 洞窟の入り口までは大丈夫という話だから、まずはそこまで行ってみよう。



「ターロイ、そのミートパイは何ですか? おやつ?」


 リュックの中に忍ばせてきたそれに、スバルはすぐに匂いで気付いた。これは今朝、街の市場の屋台で買ってきたものだ。


「この先にロベルトって男がいるはずなんだ。ディクトに聞いたらそいつがミートパイが好物だって言うから」


 昨晩のうちにディクトと連絡をとって、ロベルトの特徴を聞いていた。見た目や性格、それから好物。

 長いこと人里離れていた男相手なら、このミートパイだって十分な交渉アイテムになる。きっと力で対するよりずっと有効だ。


 そうして森の中をしばらく歩くと、正面に洞窟の入り口が見えた。

 暗いかと思ったその中は照明のようにヒカリゴケが生えていて、用意してきたたいまつは必要なさそうだった。


 その一番奥は、かなり遠いが入り口からも視認できるほど明るい。

 これは洞窟ではなく、トンネルになっているのかもしれない。


「スバル、ユニ、俺から少し離れて後ろを歩いてくれ。ここから先は何が起こるか分からない」


「わかった。ターロイも気をつけてね」


「背中はスバルに任せるですよ」


 ターロイから離れてユニがついてきて、そのすぐ後ろを守るようにスバルがついてくる。

 三人の足音だけが響いて、他に怪しい反響音は無かった。

 罠は特に無いようだ。まあ、それなりの人数が侵入しているようだし、元々あったとしてももう残っていないだろう。


 まっすぐの一本道のトンネル。出口が近づくにつれ、がれきが多くなってくる。

 戦った跡か? 爆発物によって崩れたような壁まである。侵入者が使用したのだろうか。


 トンネルの向こう側、明るい景色がしだいに大きくなり、石造りの建物の入り口が見えた。おそらくあれが封印の遺跡だろう。

 そして同時に、その手前、入り口の石段に男が座っているのに気がついた。


 その男の様子にスバルが立ち止まり、ターロイに声を掛ける。


「待つです、ターロイ。あの男、何かおかしい。人間なのに、人間の気配がしないです」


「ああ、俺にも分かる。人間というよりは、魔道具の波動みたいだな」


 ターロイもそこで立ち止まった。

 男は全く動かない。今は魔道具である頭箍と一体化しているのだ。

 ここで不用意に近付くと、問答無用で殺される可能性が高い。できれば自我が目を覚ますまで様子を見たいところだ。


「この人がロベルトっていう人?」


 ユニの問いかけに頷く。


「ああ、おそらくな」


 ディクトに聞いていた特徴と合致する。


 背が高く、肩幅ががっしりとした偉丈夫。長めの黒髪を後ろで束ねている。凜々しく雄々しい、見るからに位が高く屈強そうな男。

 噂のような宝石をごろごろ着けてはいないが、装備品は全て上質な物のようだった。


 特に腕の中に抱いている充魂武器は、装飾も見事な剣だ。

 これは他の充魂武器と比べても呪術的な能力が高く、操るには相当の技術と精神力がいる。これを使っているとなると、かなりの手練れなのだろう。


 彼の実力を一目で測れなかった人間は、その高そうな剣に目が眩んで近付いて、即座に切り捨てられるに違いない。触れるのは確実にアウト。頭箍の干渉範囲に入るのも危ない。


 ターロイはゆっくりとロベルトとの間合いを計り、できるだけ近くで頭箍を観察した。

 外側からは破損しているようには見えない。

 やはりグレイが言うように、術式だけが壊れているのだろう。


「術式は内側に彫られてるのかな……」


 表面は何も書かれていなかった。多分肌に接触する部分に術式が彫られているのだ。人間の依頼でドワーフが作ったものなら、魂言で書かれているはず。見えれば術の内容は分かるのだけれど。


 そうしてしばらく頭箍を眺めながら考えていると、不意に後ろでスバルが声を上げた。


「ターロイ、そいつの気配が変わるです……! 人間の気配に……」


 彼女がそう言った時。

 目の前でロベルトのまぶたが上がった。

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