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悪役令嬢、ハーレムを望む!おかわりっ

N5463DQの続きです。読まなくてもテンションで読めます

どうも皆様、ビアンカ=アウローラです。これでも公爵令嬢、そんな中でも長女やってます。顔、成績全て平凡。パッとしないせいで婚約者もいません。ですが私としては一生独身でも何の問題もありません。一応公爵家は私が継ぐことになっていますし(妹は次期王妃の予定です)、恋愛よりももっと大事なことがあります。そう、ハーレム。前世、日本女児に生まれたというのに女性との縁にまるで恵まれなかった記憶のある私には、今世こそ私の周りを素敵な女性で固めるという重要な使命があるのです。

さて、貴族御用達の全寮制の高等部の中庭のベンチで、私は息をついておりました。というのも、意中の方に会えないから落胆していたのです。この世の優しさと可愛らしさと清楚さを体現した少女の妹にも「お姉様、何かおありになって?私、お姉様のためなら何でもするわ」と心配されてしまいました。世界中の人間が感涙する優しさを溢れさせていましたね。そして、最近仲良くさせていただいている記念すべきハーレム要員2人目(もちろん1人目は超絶可愛い我がシスターのマリアです)の夜の女神のような美女である学友ローズ様にも、「貴方がそんな顔をしていると悲しいわ、笑ってくださいな」と励まされました。ええ、我が妹を太陽に愛された青空の中の天使とすると、彼女は月の光に眩く剣のような美しさをもつ強くしなやかな儚き女神。2人ともとっても素敵な女性なんですのよ、本当に。

「ビアンカ嬢、そろそろ冷えて参ります」

「あら。もうそんな時間?」

手渡されたブランケットを羽織り、空を見ると、確かに陽が西に傾いておりました。トリップしていた思考を引き戻した声の持ち主は私の従者のジャック。紅茶色の瞳と髪に、三白眼の青年です。なぜか軽薄そうに見える彼は、容姿はそこそこ整っているのに、幾らかうさんくさい見た目です。しかし彼の淹れる紅茶は絶品ですし、結構優秀な従者なんです。

「はい。もう、かれこれ1時間を経過しております。この数日間夕方は冷えて参りました…どういたします?」

今日は午前のみの授業でした。昼食後、課題を終わらせて暇になってから、ずっとここで過ごしていたようです。彼にはさぞ退屈だったでしょう。

「いいえ、そろそろ戻ろうと思います。ありがとう」

「お気になさらず。私はただ、貴方様の憂いが晴れることを願うのみですから」

「ええ…ごめんなさいね」

彼のうさんくさい見た目をいっそう引き立てる笑みこそが、彼の本当の笑みだったりします。いつもは飄々として一歩引いて私の様子を見ているのに、随分今日は献身的なものだとも思います。…これも、私の憂鬱を慮っているのでしょう。

ここで意中の方を待った日にちは、ついに片手で数えるのを超えてしまいました。一度でも会えれば良い。そこから根気強く、仲良くなっていけばよいのですから。しかし、会えなければ何も始まりません。

「クラスも違い、接点もない。…こんな状況に頼れるものは、情報だけでしたのに」

確かな入手先(天使…ああ妹のことです)から仕入れた情報によると、彼女はよくここで微睡んでいるとのこと。しかし彼女は一向に現れる気配がありません。これでは、私のことを避けているのではないかという考えに及ぶのも仕方ないと言えるでしょう。軽く息を吐き出し、気晴らしに、傘のように日差しを遮る木の枝へと目線を上げました。

すると。

「…え」

がさり、と揺れた枝は、次の瞬間ぽきりと悲鳴をあげて、その上に乗っていた何かを落としました。目にちらりと映ったのは、ストロベリーブロンド。

「っ、ビアンカ嬢!」

すぐそこについていたジャックの言葉をぼんやりと聞きながら、私はゆっくりと手を伸ばし、ベンチに座ったまま落ちてきた少女を受け止めました。前世で伊達に男のような女(あだ名はオスカルでした)をやっていたわけではありません。今は体を鍛えるということはしていませんし、立場が許してはくれませんが、女性を受け止めるくらいの体の動かし方は存じております。少しの衝撃は感じましたが、私には怪我はありません。

「…お怪我はありませんこと?」

私の腕の中にいる少女はくりっとした若草色の目を大きく見開いています。きょとりとしたようなそんな表情。ぷっくりとした小さめの唇は表情を作るに至っていません。肩にかかるくらいで揃えられたストロベリーブロンドは毛先のみがくるりと内巻きにされています。一本一本が西に傾いた赤い光と調和し輝いていました。キョトン顔。最高です。想像を超えての可愛さに手が震えそうです。動揺で。

「ええ、はい…」

「良かったですわ」

貼り付けた淑女スマイルは微塵も動揺を感じさせないはずです。美しくもありませんが、第一印象はいいといったような私の笑顔。それにいくらか肩が抜けた彼女を隣に座らせると、やっと脳内の処理が終わったであろう彼女は驚いたようにはっと息を飲みました。

「申し訳ありません!私が不注意だったばっかりに!貴女様こそお怪我はありませんか!?」

「ええ、私は何もございません。…ですが、枝が折れてしまいましたね」

彼女の謝罪を少々冷えた目で見ていたジャックを視線で窘めつつも、私は上を指差しました。少し太めの枝はぽきりと折れ、皮一枚のみがくっついた状態でぶら下がっております。痛々しい木の姿に、一番悲しげな表情を浮かべたのは、枝を折ったその彼女でした。

自然を愛する、小動物のような可憐で小さめな快活な少女。…私に探していた人物の情報にぴたりと一致する目の前の少女。彼女こそが私の意中の方なのです。

すると。

「リリー=ウェヌス!」

「…っひゃい!」

太く低い声が、ぴしゃりと少女の名を呼びました。まっすぐ飛んでくる足音を聞きながら、目の前の少女、そして私の意中の方でもある彼女、リリー=ウェヌス嬢が動きをぎこちなくします。

「貴様!また施設のものを壊したのか!?」

「ごめんなさい!」

ひゅっと縮こまるウェヌス嬢に怒声を飛ばすのは、同じ学年の証拠である私のリボンと同色のネクタイを付けた男子生徒。白銀の髪に紫色の瞳を持つ彼は、とても見覚えのある顔をしています。ただし、その精悍な体つきは思い浮かべた人とかけ離れてはいますが。彼は更にウェヌス嬢を怒鳴ろうとしたものの、それを押しとどめて私に向き直りました。

「…お見苦しい所をお見せした。もしやこの者が貴方に何かやらかしたのか?」

きりり、と彼は表情を鋭くさせながら言いました。しかし、私はそれには怯みません。ただでさえ私と彼女の最高のファーストコンタクトになると思っていたのにこの方に邪魔されるのはたまったものではありませんし、まあ悪いのはウェヌス嬢ですけれどもうちょっとタイミングを見計らってこいよと言いたくなりましたが。怒りを鎮め彼に最大限の敬意を払いつつ、少し好戦的に笑い、母にもらった扇子をびしりと広げます。

「決めつけなさるのは良くないことですわ。私が戯れに木を折ったのかもしれぬのですよ?」

しかし、私の言葉におろおろとしだしたのはウェヌス嬢でした。自分のせいで私の名に傷がついてはいけないと思ったのでしょうか。なにこの子健気。抱きしめたい可愛さ。いい子。

「見くびらないでいただきたい。枝の太さや折れ方を見れば推察などいくらでもできるのだから」

私の言葉に惑わされることなく、大方、木の上に登ったはいいがうたた寝でもして落ちたのだろう、と彼はリリーをじとりと睨みます。ウェヌス嬢はさらに居心地悪そうに視線をさ迷わせ、その様子は叱られた子猫のよう。快活で奔放な少女もまた、可愛らしいものです。

…ですが、可愛らしくてもあまりこれ以上ウェヌス嬢をあたふたさせるわけにもいきませんから、話題を目の前の彼へと転換させましょうか。

「流石はアテナ家の嫡男でいらっしゃるわ」

アテナ家、というのは私のご友人の美しさが体現した少女、ローズ様の家名です。彼女の家は優秀な軍人を輩出するので有名で、彼女には双子がいると聞いておりました。顔や体の造りは大きく違いますが、その髪や瞳の色は同じで、お二人とも優れた容姿を持つからなのか否か、どことなく雰囲気も似ていらっしゃいます。

「…やはり貴方がビアンカ嬢か。ローズがいつも世話になっています」

彼は形式的な礼をしました。騎士らしい性分なのでしょう。さすが軍の方が家に多いだけあって、こういう挨拶はちゃんとしなくては気が済まないのでしょう。

「…では、俺は彼女を指導室に連れて行きます。報告書を書かなくてはいけませんから」

じとり、という目でウェヌス嬢を見つめる彼に、当の本人は気まずそうに視線を逸らしています。ただ、抵抗はなく、慣れてもいるようなので初めてではないのでしょう。彼らは私の返事を聞かず、足を踏み出しました。彼女たちを見送るためにベンチから立つと、羽織っていたブランケットが肩から滑りました。私はそれを掴んで、自分の手で抱えます。

「ウェヌス嬢」

彼女を呼び止めると、2人の足が止まります。私は持っていたブランケットを彼女の肩にかけ、すっかり板についた淑女スマイルを浮かべ、自分より少し背の低いウェヌス嬢と目線を交わします。

「眠っていらっしゃったのなら、体が冷えていらっしゃるはずだわ。よかったらお使いになって」

「そんな…貴方様はどうなさるの?」

この子まじいい子やん。天使というか妹というかリスというかなにこの守ってあげたくなる可愛さ。こんなの駄目でしょなんで周りの男どもは正気でいられるの?

「私は、すぐに部屋に戻りますわ。ですからご安心なさって?」

「ですが…」

「ふふ、明日もここに来ますから。その時、お話してくださる?」

心は彼女の魅力で満身創痍でしたが、私とて女性の魅力に対する経験は百戦錬磨。取り繕うことは慣れています。辛うじて言った言葉たちは、ウェヌス嬢の表情を明るくしていきました。

「はい、ビアンカ様!必ず!」

そうにっこりと笑って返した彼女を、キラキラとした夕陽の光が照らしていたのでした。


**************


ことり、とわずかに音を立てて私の前にカップが置かれました。体を温める作用があるハーブティーを見つめていると、くすりと前から笑い声が聞こえます。顔を上げると、銀色が眩しい美人が私に微笑みを見せていました。

「うまくいったようですね」

紫の瞳を柔らかくして、彼女は言いました。最近思ったんですが、彼女は母性に満ちていると思うのですよね。厳しめだけど愛情たっぷりのお母さんというか…同い年なのに年上の包容力を感じます。膝枕+頭なでなでされたい。

「最近元気がないのはウェヌス嬢に会えなかったからでしたのね?」

「…あら、ご存知だったの?」

「来る途中でヨハンに会いましたの」

ヨハンというのはローズ様の双子のことです。熱血気味ですが印象はそこそこだったでしょうか。とにかく彼に私と会ったと言われたのでしょう。

「…貴女は友人を得ることが好きですからそうだと思ったのですが」

当たっていたようですね、とつり目がちの瞳を少し伏せて、彼女はハーブティーを口に含みます。しかし少し熱かったようで、人知れず眉を寄せました。猫舌最高。それを隠そうとするローズたんまじかわまじ女神。

「あまり新しい友人ばかり見ていたらマリア様が拗ねますわよ。お姉様が構ってくれない!なんて」

「気をつけなくてはいけませんわ。可愛い妹ですからね」

私もローズ様に続き、ハーブティーを口に含みます。少し冷えた体に染み入るそれは、ジャックがハーブを選んでくれたものです。

「…私も」

ぽつり、と彼女は口にしました。彼女に再び目を向けると、交わった視線の先で彼女は悪戯っぽく笑います。

「私も拗ねてしまいますよ?」

少し斜めに傾げられた首が、まるで可愛さと美しさを共存させる黄金比かのようです。いつも美少女を見慣れている、日々訓練されている私ではありますが、彼女は予想よりも遥かに魅力的な顔で笑ってみせました。

「いつも一緒にいれる訳ではありませんもの。あなたの従者のように」

くすりと笑って続ける彼女の言葉に、ようやく反応できるものを見つけ、動揺を悟られないように言葉を返します。

「ジャックですか?そんなに一緒にいるかしら?確かに昔から使っているけれど」

「いいえ、だって…」

ちらり、と彼女は後ろで立っているジャックを見ました。そして数秒、言葉を止めました。恐らくジャックの様子を見ていたのでしょう。しかし彼女はすぐにそれはおわり、私とまた視線を交えました。

「いえ、私がいうべきことではないですね」

「はあ…」

曖昧に濁すと、彼女はまたにっこりと笑います。ちらりと後ろを伺うと、少し上機嫌なうさんくさいやや美形の従者、ジャックが立っています。美少女に見つめられて上機嫌なのでしょうか。許すまじジャック。私の(友人兼ハーレム要因の)ローズ様に見つめられるなんて羨ましい。心の中で、妹とお父様に言いつけてやると誓いながら、再びハーブティを口に含みます。

…やっぱり美味しいから、やめておいてあげようかしら。そんなことを考えながらも、ハーレムへの道は進められていくのです。


前作PV5000行きそうなので感謝を込めて書きました。ありがたい…。

お読みくださりありがとうございます

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[良い点] 面白かった! 女の子達が可愛くて可愛くてきゅんとしました。ハーレム欲しい 続きが読みたいです
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