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「……」

「……」



洞窟生活、2日目。

今日も今日とて、王女の溜息から一日は始まる。






ずぶぬれにはなったものの、辛うじて浅瀬に流れ着いた僕たちはほどなく目を覚ました。

当たりはすでに真っ暗。

マッピングは川に流されたせいで台無し。

現在地不明のまま僕にできる事と言えば、野宿できそうな場所を探すことと、火を起こして暖を取る事だった。


幸いというかなんというか、洞窟がすぐ近くにあったのでまずそこに入り、魔法で火をつけてもらって暖は取れた。

もともと暖かい時期に訓練に出るぬるげーなので、水もそんなに冷たくはなかったのが幸いした。

僕は魔力がないけれど、王女は辛うじて火種くらいなら出せる。

乾いた木々を集めればたき火は作れたし、流されたとはいえ基本火を怖がるような小さな魔物しかいない浅い場所なはずだから危険もなく、僕らはそのまま動かずに救助を待った。


走り回ったところで仕方ないし、レスはある程度まで近くに来ればステータスがあがるから僕がいるのをわかるしね。

パッシブをオンにしながら救助を待つのが正しいと思ったのだ。

定期的にステータスを覗いてレスが近くに来るのを確認していると、王女がさきにねをあげた。


「どうしてこうなるのよ……」

「そりゃあ……」


指揮官がパニックになるようなPTとか、ダメすぎるに決まってる。

それを含めての安全な場所での訓練だというのに、なんか虎種とかに遭遇してるし。

運も悪すぎるんじゃないだろうか。


ちなみに虎種、襲っては来るけど滅多に致命傷になることはないんだ。

なんていうか獲物と遊ぶような習性が高くて、動かなければそれ以上は襲ってこないんだよね。

パニックになって忘れてたけど。

それでも危険性は高いし、遊ばれるだけで鋭い爪で切られれば死ぬことだってある。

落ち着いて対処すれば、レスと僕だけなら何とかなったろうと思うだけに実は少し悔しい。


「何よ。言葉を切らないで頂戴」

「……言っても仕方ないですし」


王女が聞く耳持ちそうにないの、分かってるしなぁ。

溜息をつきつつそう答えれば、王女の目が吊りあがった。


「仕方ないってなによ!?」

「言葉通りですけど」

「言わなきゃわからないでしょ!? 仕方ない!? そんな言葉で私を否定しないで!」


何故か激昂する王女に、僕は戸惑う。

今度は僕が地雷踏んだのか?

何故か仕方ない、という言葉に泣きそうになりながら噛みついてくる王女。

でもなぁ。わかってなかったじゃん貴方。


「言ってもわからなかったじゃないですか」

「何の話よ!」

「だから、組む意味なんて全くないから嫌だってレスは言ったでしょ」

「!」


ちなみに僕と違い、レスは最後まで王女と組むのは嫌がっていた。

それは僕のこともあるけど、この王女自身がレスを見ていなかったからということに他ならない。

そう思うのに、王女は納得しなかった。


「相性なんて、組んでみなければわからないじゃない……!」

「確認するでもなく最悪です」

「なんなのよ貴方!! そもそも貴方がいなければ解決することじゃない!」


……いや、だからさぁ。

その考え方がそもそも間違いなんだって。


「僕がいなかったらもっと声高に言われたと思いますけどね。あんたと組むなんて嫌だと」

「なっ……!」

「大体さぁ。僕とレスはPTで、あんたPT外。なんでPTメンバーを攻撃する相手と組むのを喜ぶと思ってるのかそれがまず疑問」


いい加減だるくなってきて敬語を端折るが、激昂する王女は気付かなかったようだ。


「だって、だって…!」

「だって?」

「レステリオ君は騎士でしょ! 騎士は王族を守るものじゃないの!?」

「それが主と思ってればね。ちなみにあんたの印象は超最悪。大体さ、僕はレスにとって家族のようなもんなんだよね。あんたさ、自分の妹とか弟に『役立たずだからどっかいけ』とか言う人と親しくなれる? むしろ慕える?」

「え……っ」

「前から疑問だったんだよね。僕とレスは、同じ村でずっと一緒に育ってきたんだよ。その相手がいくら戦闘面で戦力にならないからと言って、何もしていないわけでもないのに文句言ってくる相手とか印象最悪に決まってるよね。なんでそこに気づかないの?」


唐突に黙り込む王女に、僕の方こそ困惑である。

ぶっちゃけ疑問というか、親しいと気づいてからは同級生はそれなりに僕に配慮してくれたんだよね。

嫉妬交じりに陰口は叩かれることはあるけど、それはもう仕方がないことだと僕は割り切れる。

なのに王族とか、直接話したことがない外野ばっかり僕をDisるのはちょっと納得いかなかったんだ。


「だ、だって貴方は……」

「?」

「レステリオ君を利用してるだけなんでしょ!?」

「はぁ? アンタの目節穴?」


どうみてもレスが僕を大好きすぎるだけだろうが。

どこをどう見たらそうなるんだよ。


「だ、だって、じゃあ貴方なんで機関に来たのよ!?」

「来たの強制で望んだとか一切ないから。僕、一応レア職だから」

「そ、そんなの知らない……!」

「ついでにレスも強制で来てるからね。騎士だから王族に仕えるものだ、とか王族に仕えるのは喜ぶだろう、とかそういう先入観捨てたら? レスは11歳の、ただの我儘な子供なんだよ。好きな友だちが攻撃されれば守るし、悪口言えば嫌がる。見たまんまなのになんで刺激するかなぁ。僕を嫌いなら嫌いでいいから、それをレスに押し付けるの止めてあげてくれないかな」


話の通じない相手は疲れる。

やれやれ、とため息をつけば王女はまだ納得いかないのかブツブツと呟いている。


「そんなの……そんなの、知らないわよ……」

「見ればわかる事でしょ」


レスが僕のことをどう言っていたか、それに気づけばわかることなのだ。

レスはいつも僕にありがとうという。

マッピング一つ、誰が疲れているか、誰が見張りに適任か、料理を作るのは誰か。

レスが考えるのを面倒だと思っていることを率先してやっている僕は、レスにとっては参謀みたいなものだ。

僕のいう事を信じすぎる面があるから時々怒ってやるけど、レスの返事はいつだって同じ。


『コタが俺を騙すわけないじゃん』


その信頼がくすぐったい反面、こいつ僕がいなくなったらどうするんだと思うことがある。

でも、その距離感で僕らはこの一年、ずっとやってきたのだ。

嫉妬というどうしようもない負の面を別の視覚で覗いたあの時から、僕らはいつも親友として傍にいた。


「知らないわよ……」


知れてよかったですね、と言おうかと思ってやめた。

なんだか王女の様子がおかしい。

眦に涙をためると、王女は耐えきれないというように叫ぶ。


「知らないわよ…! 私の周りはいつだって、妹の味方しかいないんだもの!」

「え」

「できそこないの王女! 回復しか使えない駄目王女! 誰もかれもがそう言って、私を責めるの! そのくせその顔なら媚を売れるだの、好き勝手言って! なんなの!? ちょっと甘いことを言えばついてくる、そうアイツらが馬鹿にしてたことだって知ってるもの……! だったら私は私で、自分の騎士を探すしかないじゃない! あのこはまだ10歳で此処には来れないんだから……今のうちに騎士が私に仕えてくれたらって……そう夢見たっていいでしょ!? どうせできないと思われてるんだったら、やってやるわよ!」


いや、僕もそんなこと知らないよ……。

なんだか想像以上の王家の育成の駄目さ加減を言われても、あ、そうですかとしか僕は言えない。


「……君さぁ」

「何よ!」

「誰よりも王女って枠で押し付けられることを嫌ってるのに、どうしてレスを騎士って立場だけで望みを押し付けたの?」

「え?」


これ、13歳には理解させるの難しいかなぁと思いつつ僕は思案する。

だってこの子、自分がやられて嫌な事相手にやってるじゃん?

何で気づかないのかな。


「夢見るのは勝手だけど、やり方があり得ないよね」

「……」

「レスが君を嫌いなの、騎士だからとしか見てないからだよ。レスはね、僕と仲良くしている自分をそのまま受け入れてくれる子なら多分、話すぐらいはするよ。それ、わかってる?」

「わ、わたし……」


ヒロインは愛されて育ったがゆえに、その傲慢さで最初は孤独なレスを傷つける。

でも王としてふさわしいだけの度量と、恋愛感情ゆえに、レスを孤独から救うんだ。

だから僕はこの悪役王女様にレスを攻略できる一言なんて教えてやる必要なんてないんだけど、なんだかなぁと思って口に出してしまった。

だってこの子、なんか可哀想なんだよな。

最初は媚びてるとか、良くないことを僕も思ったけどさ。

結局はまだ13歳で、背伸びはするけど心的には悪い子じゃないっぽいんだもの。

僕を微妙な扱いはしたけど、別に攻撃しようという意図があったわけじゃないっぽいしなぁこれ。


「まあ、叫ぶと体力消耗するし。携帯食料、今日まではあるから食べようか」


黙り込んでしまった王女に、僕は何事もなかったように喋りかける。

王女はしばらく考え込んでいた様子だったが、疲れたのか食料を食べるとそのまま眠ってしまった。




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