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戦闘スキルが発生したことを、教師に伝える義務はあるので僕は伝えに行った。
レア職業なので、研究もかねて僕にも担当の先生はついている。
そしてその先生は、コマンダーが非戦闘職であることも考え、僕に自分にいう前に決して他の生徒に情報を口外するなと口止めしていた。
うん。
まあ、そうだよね。
僕の特殊スキルが有用だったらレスと一緒にされるんだけど、騎士と違って僕は自分を守る術がない。
騎士は王族専用という認識があるけれど、僕はその限りではないので自衛のためである事は言い聞かせられていた。
もちろん、僕が狙われる原因であるレスは基本的に僕から離れないので危ない目にあうことはほとんどないんだけどね。
中には権力を用いて、レスではなく僕を罠にはめようという輩がいなくもないので、教師的にも頭の痛い案件として、高位貴族の教師が僕たちにはついていた。
そして彼は、目の前で頭を抱えている。
「また厄介な能力だったねー……」
「やっぱりそう思いますよねー……?」
「うん」
特殊スキルに関して洗いざらい吐くと、ルータス先生は速攻でこう言った。
予想以上に、やばい、と。
「まずね、レステリオ君に能力補正がかかる。これは、今は特に問題はないんだ。上がる分には、彼が能力に振り回されることもないだろうし、騎士の特性上君が危ない時に一番発揮されるわけだから、むしろ無双だよね。これは良い」
「はい」
「問題は3つあるね。まず忠義について。騎士の忠義が、王族じゃなくて一介の平民にマックスとか、それどう考えても駄目でしょ」
「ですよねー!!」
はい、僕もわかってました。
忠義って、騎士の忠義先って、王族だろ?
王族守るために強くなくちゃだめだろ?
何故僕にマックスになってるのこの幼馴染は! って話ですよね知ってる。
「別に能力的に問題があるわけじゃないけど、王族と君がいて、危険にさらされたら間違いなく君から助けるだろうねっていう……酷い話が」
「……」
「君を囮にされたらアウトなんだよね。まぁ、これはある程度君も守られる立場になれば軽減はされそうだから、少し置いておいて」
「はい」
「二つ目。忠義の範囲で能力変わっちゃうって、また微妙な。命令によって下に部下っぽいのを付けることは出来るけど、命令で忠義なんて発生するわけないし……そもそもコルネスタ君、戦闘能力、皆無だよね?」
「ありません」
「終わった……」
がっくりする先生に、僕が逆にがっくりしたい。
そうなんだよね、僕は孔子でもなんでもない、一般人の10歳なんですよ。
どうやって忠義をもたれろというんだろうねー。
大体、この国強い人が正義的なところがあるんだよ?
文官として大成すれば別かもしれないけど、現状忠義を持ってもらう術が考え付かないのも困る。
「ところで3つ目は?」
「三つ目は王族への対応かなぁ。単純に君を取り入れるよりもレステリオ君だけ、ってなった時が一番困りそうだなって思うんだよ」
「とは?」
「彼、君が近くにいないってなったら、王族の護衛に就かずに帰っちゃうでしょたぶん」
「それは、まぁ」
僕がいなくなったらやる気失くす可能性はまぁ、否定できない。
だけど、騎士自体には憧れていたし、途中放棄はないんじゃないだろうか?
そう思い言ってみるけれど、そうは問屋が卸さなかった。
「その場合、君を放置すること自体、王族が納得するわけないと思うんだ。一番最初に言ったけど。だからといって君だけを故郷に帰したとしても、彼の近くから君を排除した人間に忠誠とか、彼絶対に誓わないでしょ」
「あ”~……」
確かに……。
それはないな……。
なんでコタが一緒じゃダメなの!? って食って掛かる様子が目に見えるようだ……。
「困ったね~」
「そうですね~」
のほほん、と呟く教師に僕も間延びした声を出す。
ちなみにルータス先生のこの緊張感のなさは、いつも通りである。
よほどのことがあれば別だが、この人の頭の回転はものすごくよい。
だから喋りながらも解決策は考えてるんだろうなと思っていれば、ルータス先生はしかたないねぇと呟きながら一冊の本を出してきた。
「? なんですか?」
「解決法、だよ」
「……」
表に書いてある文字は、兵法。
魔物との戦い方や、一般的な戦闘技術、兵の活かし方まで。
僕が今読んでいるものより数段は難しそうなそれは、重さを伴って僕の前に差し出された。
「……つまり僕に、軍師になれと?」
「もしくは文官ってところだね。コマンダーって職業に向いてるのは、どうも戦闘支援みたいだしね。君、頭は悪くないんだし今からでも文官目指せば何とかなると思うよ」
「さよですか……」
「王族付きの補佐官辺りがねらい目かな。それならレス君も守る範囲だし、君の上司が王族なら王族も守ると思うよ」
「それ、命令してるの僕のような?」
「結果が伴えば良くない?」
まぁ僕も、職業はその方向なのかなとは考えていたんだ。
直接の能力がないなら、頭で戦うしかないのはわかっていたこと。
今までだって、レスの凶悪なまでに早い彼オンリーの戦闘で終わる時に、嫌がらせがなかったわけではない。
どう動けばレスが一番守りやすいか僕は知っているし、ただ立っているだけで何もしなかったわけでは決してないのだ。
「ただ、文官コースに乗るとそもそも学校が違っちゃってレステリオ君が君を守れなくなる可能性が高い」
「……」
「現状維持しつつ、一人で学ぶことになるよ。出来るかい?」
ルータス先生が、真剣な顔をして僕を見て来る。
逃げるなら、きっと今なのだろう。
戦闘もろくに出来ないのだから、僕はいつだって故郷に帰ることが出来た。
大したことのないレア職業、そのレッテルがもう張られている現状なら、レステリオのことを考えなければ僕はいつだって帰れたのだ。
けれど、帰らなかったのは。
「今更ですよ、先生」
「そう?」
「僕が帰れば、僕自身はきっとそのまま平和に暮らせます。でも、僕に置いて行かれたレステリオは、きっとそうじゃない」
子供は順応性が高いから、そんなのは杞憂だってきっと大人は言う。
だからお前は邪魔だから、帰れってあっさりというんだろう。
でも、僕は知っているんだ。
僕を失ったことですべてに絶望し、一人で突き進み、間違った道を進んでいく親友を。
助けてくれる王女に出会うまで、どれだけ孤独に生きていくのかを。
死に分かれじゃないから、そんな未来はもうないのかもしれない。
けれど、ないかもしれないで放り出すには、僕はレステリオといる時間が長すぎたんだ。
「あいつがひとり立ちするまでは、傍にいてやります」
「……」
「アイツが僕を親友と思っていてくれるように、僕もアイツを親友だと思っているから」
守られているけど、アイツの心を僕が守っている自信はある。
何故、こんなにも好かれているのかは今でも謎だけど。
でも、あいつが僕のことを好きなのは、絶対に嘘ではないから。
「離れた方が、彼も成長するかもしれないよ?」
「そうなのかもしれない。でも、今僕はそう思えません。そう思えたら、僕、帰りますから安心してください」
「……そっか。覚悟、決めてるんだね?」
「はい」
彼が僕をいらないというなら僕は帰る。
独り立ちして、王女とラブロマンスをするならむしろ僕は応援しつつフェイドアウトするだろう。
大体、傍にいる理由も、いま離れたら僕の良心が痛むっていう理由が一番大きいしね。
ちょっとだけ小説通りー! とか喜ぶくらいは許してもらおう。
「せんせー。コター。終わったー?」
がらり、とドアを開けて用を済ませてきたらしき親友が入って来る。
「うん、終わったよ」
「おー。じゃ帰ろうぜー」
難しい話は嫌いですぐどこかに行く親友は、僕の返事を聞くとさっさと帰り支度を始めたのだった。