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何が出来る? と聞かれれば僕は何もできないと答える。
僕自身は何もできない。
それは、なんとなく気づいていたことだったけれど。
「……」
「コター? なんでそんな難しい顔してんの? スキル発生したんだろ?」
「……まあ、したけど」
これはないわー、と僕は自分のスキルに関する表示を見て、頭を抱える。
予想外というか、ある意味予想通りだけどこれはないだろ、というスキルが僕の前には表示されていた。
『コマンダー特殊スキルLv1』
-戦闘経験数累積100件によりlv1解放
-戦闘力付与―パッシブ(OFF可能)・条件付き・範囲:自分以外・1㎞平方
戦闘力付与、って。
僕自身には戦闘能力はないのは確かだけど、範囲に物申したい。
自分以外かよ!!! と。
「どんなのー?」
「自分のステータス見ればわかるんじゃないかな……」
「は? 俺? ~~んん? プラスの数値がおかしいかも」
「どのくらいプラスされてる?」
「えーと……なんかいっぱい? 筋力がなんか3桁になってるんだけどなにこれ」
ちなみに騎士育成機関で最初に覚える魔法は、魔力使用0のステータス表示の魔法。
それにより自分のスキルを知り、鍛え、強くなっていく。
その仕様は別にいいんだけど、僕のコマンダーという職業は予想以上に特殊だったみたいで、頭を抱えるしか出来ない。
条件付き、を詳しく見てみればやっぱりと思える表示。
『条件付き
-コマンダーに忠誠を誓っている者
-レベルにより上昇、忠義心の度合いにより距離・強度変化
-騎士・レステリオに能力発動中(忠義100(MAX)) 1割増・範囲3km平方』
何この色々ツッコミどころある説明文……。
後、忠義マックスってお前。
レスお前どんだけ僕が好きなの……。
「戦闘力付与って書いてあるけど、プラスになってるのは筋力だけ?」
「いんや? ステータス軒並みっぽいけど」
「……マジか」
軒並み1割増加はステータス強化魔法より多分強い。
いや、でも考えてみれば騎士は全身で戦う職業だ。
魔力0の僕と違い、ステータス強化も魔法でするし、全部が戦闘能力と言えば戦闘能力なんだろうな。
Int低くても魔法使うんだしコイツ。
「ちなみにその状態でステータス強化かけると?」
「かけんの? えーと……<<筋力増加>>。お、さらに増えた」
「競合しないのか……」
「騎士のパッシブとも競合しないっぽいー」
重ねがけ可能なら確かに有益かもしれない。
というかそれ、お前のステータスえらいことになってるのは気のせいか?
ただし:コイツに限る、だけど。
「常時発生型みたいだから、とりあえず今は切っておくね?」
「え? なんで?」
「常にプラスとか修行にならないからね?」
「おお!」
おーなるほど、と軽く言っているがこれ結構大変な事なんだけど気づいて……気づいてるわけないよなぁレスじゃ。
この世界ではステータスを補強するものは魔法と装備しかない。
魔法は元のステータスに依存するが、装備に至っては雀の涙レベル。
近くにいるだけでステータス強化、となるとその有用性は恐らく計り知れないだろう。
しかもレベル1で1割強化。元々のステータス補強があっても重ねられるとなれば、レベルが上がれば有益どころでは済まない可能性がある。
ただし:コイツに限る。
「これ……言えるわけ、ないよなぁ……」
「あん?」
「レス、とりあえず僕のスキルのことはちょっと黙っててもらってもいいかな?」
「なんで?」
「これ、ほぼレス専用スキルだから他の人に言う必要性がないんだよ。言う時には自分で言うから黙っといて」
「俺専用なん? よくわかんねーけどわかったー」
ここ半年を振り返り、僕は嘆息する。
思えばこの半年も、酷かったな、と。
☆
鳴り物入り……ではないが、全世界の憧れ職業騎士のレスに対する対応は、はっきり言ってものすごくよかった。
大体の希望は常に通り、部屋だって広い部屋を用意する好待遇っぷり(ひとりじゃやだというレスのために僕は同室である。おまけ万歳)。
なにより騎士のスキルはまさに防御うってつけのスキルだから、今後は王族に関わることも多いだろうと教師の信頼も厚い。
さらに言えばガキ大将気質のレスは愛想も決して悪くなく、礼儀作法は甘いけれど10歳ということでほほえましく見守られた。
そんな状況下でいる、職業すらよくわからない得体のしれない親友の僕。
うん、嫉妬の嵐どころの騒ぎじゃないよねー……。
最初こそレア職業ということで様子見をしていた人たちも、僕の戦闘能力の皆無さに次第に馬鹿にするようになった。
そんな相手にぶちきれたのは、まぁ予想通りというか僕の親友。
『俺の親友をないがしろにするお前らなんて嫌い』
そう宣言したレスは、一言でも僕を馬鹿にした奴とは二度と話さないという大人げない手法に出た。
どうでもいいことはすぐ忘れるくせに、どうしてそう無駄な記憶力を変なところに使うかな。
覚えていないだろうと僕に媚を売ってきた人間は全部一刀両断し、なんだかもう僕守られている姫状態である。
そりゃ、騎士のスキルは『守る相手がいれば全ステータスに補正がかかる』だよ?
それにしたっていきすぎだっつーの、おかげで遠巻きにする同級生の目が痛くて仕方ないよ……。
さすがに教え子である僕に対して教師は大体普通に接してくれる。
だから教師に対しては問題行動はしない親友であったが、僕を攻撃してくる有象無象には全く容赦がなかったため、僕らはやっぱりというかなんというか……二人で浮くことになった。
おかげでペア戦闘などはレス一人で相手をぶち倒すような毎日。
僕はほぼ突っ立っているだけ。非常にいたたまれない……。
僕としては落ちこぼれとして離れることもやぶさかではなかったのだけど、レスは雛鳥のように僕についてくる。
俺を見捨てるの? 見捨てるの? という目で見られてしまえば、見捨てた後の状況が小説と酷似して酷いことになりそうだと知っている僕は離れることも出来なくなってしまった。
そもそも、元の小説内でもこいつ結構粘着質だったんだよ。
好きなモノに対しては情熱を傾けすぎるというか、なんというか。
一度王女への恋心を認めた後は、もうあまーーーい!!! って叫びたいほどに愛を語るんだコイツ。少女小説というのを垣間見た一幕だった。
つまるところ、コイツの辞書に『ほどほど』の文字はまったくない。
仲間や友達に関しても0か100なんだから、本当にどうしようもない奴だ。
前世を思い出した当初こそぎくしゃくとしていた僕だが、この騎士育成機関に通いだして認識が変わりつつある。
レステリオという人間は、早い話が……見た目そのままに、10歳の子供だった。
出来ることは大人顔負けで、ステータスも職業も素晴らしいのに、心の成長はまだ伴っていない。
だからこそ、僕はどんなことがあろうとも彼の傍にいようと決めた。
……いや、ほら、そのね?
僕が死ななかったことで、大恋愛のフラグを叩き折ったかもしれないし?
未来の英雄を、あえて変な方向に捻じ曲げる様な事はしたくないし……。
離れるから放置しようと考えていたのはもう忘れる。
こいつにはこのまま、ちゃんとまっすぐに育ってほしいんだ。
あの小説の中にいたレスは確かに魅力的だったけれど、僕は今の子供のレスの方が好きだから。
素直に笑い、そして遊ぶ、それが出来るレスを、僕の我儘だけで地獄のような思いをする未来に突き落としたくないと思ってしまったから。
幸いというかなんというか、この国は小説の話の通りになったとしても、酷い未来が待っているわけではない。
戦闘はあるけれど、それは魔物との戦いで今もある通りだし、戦争に関してもレスが完全に大人になった後のまだまだ遠い未来の話だ。
本来レステリオが1人で過ごしたという5年間、それを騎士育成機関での成長に変えてしまうことは、戦闘力に関して不安が残るのは事実だ。
でも、ここでの成長だって悪いことではきっとないだろうし(と信じたいし)、今は僕が傍にいる。
だから、このまま僕も一緒に成長しようと――そう考え、特殊スキルがいいものだといいなぁと僕は半年、レスに戦闘を任せつつも頑張ってきた。
体力本当にないんだけど。
辛うじて予想通り、衛生兵的な能力はあって、怪我の手当てとかはとてもうまくなったけど。
あとマッピングとか、地図に関する記憶能力とか、戦術に関する記憶とか、そのあたりは職業関連なのか、補佐的なスキルはかなりそろったけど。
なかなか出ない特殊スキルに落ち込みつつ、ようやく……ようやく出たらこれでした。
ぬか喜びはすまいと自制し、部屋に戻ってきて確認できたのが、つい先ほどの話である。
コマンダーは、命令する職業でやっぱり戦闘能力のある職業ではありませんでした!
知ってた!!!
知ってたよ!!!!
でも、指揮官って実は能力あるとかありそうじゃん?
忠義があれば強くなるとかだったらいいなとか、ちょっと思ってたのにこの仕打ちだったよーー!!!
完全にレス頼りの能力だったよ、うん。辛い。
神様。
貴方は本当に何を僕に求めてこの職業にしたんでしょうか……。
先生に明日伝えるのが、つらくて仕方ないです……。