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閑話―親友様の独り言

親友視点。



幼いころから自分は『違う』のだと、俺は知っていた。

母は良くできた子ねとワラウ。

父はそれでこそ俺の子だとワラウ。


俺の周りにはワラウ人間ばかりで、泣いたり怒ったりする人間はいなかった。

それが当然で、それだけの世界だと俺は思っていた。

あの日、コルネスタ――コタと、出会うまでは。


何をやっても、何をやらされても何も感じなかったのは、どうしてだったんだろう。

良くできたとほめながら、その実、実の息子である弟しか可愛がらない母のせいだったろうか。

それでこそ自分の子だと言いながら、その実、その優秀な息子の父である事しか興味がなかった父のせいだろうか。


俺の周りの人間は、誰もかれもが自分が好きな人間ばかりだった。

だから俺はずっとそれに気づかずに、誰かに見られたいと願っていたのかもしれないと今なら思う。


たまたま抜け出した、退屈な退屈な授業。

そこで出会ったのは俺と同じくらいの少年だった。

小さい子供特有の頬にそばかすをちらしたその少年は、とても負けん気の強い少年だった。


誰にも負けないと振りかざす木剣を、俺は受け止めることができた。

誰にも負けないと投げた石を、俺はそれよりはるかに遠くに飛ばすことができた。

そのたびにコタは怒り、そして時には泣きながらもこういう。


『次は負けないから!!!』


それは誰にも言われたことがない言葉だった。

次なんて、俺にはなかったから。

だからその言葉が聞きたいがために、俺はちょくちょく家を抜け出すようになった。


――出来て当然。

――素晴らしいわ。

――次はこれを。


最初こそ抜け出すことに怒られていたものの、次々と課される課題に、困った事なんてなかったからやることがないと言えば許してもらえた。

小さな村だったから、裕福な親だってやれることに限りがある。

段々とやることは減っていき、10歳の職業神託まですることがなくなった俺は、自然と毎日コタの元へ通うようになった。


『お前、また来たの?』


コタは突然自分の世界に割り込んできた俺に優しかった。

口ではやってられないとか言いながらも、決して拒んだりはしない。

ついて回れば人に声を掛けられ、遊びに誘われ、コタは周りから頼られているのだとすぐわかった。

俺はそんなコタを独占したくて、コタの時間がとられそうなことがあるとすぐに俺が出来ることをした。


『お前ね。これは僕の仕事だってば』

『でも俺、コタと遊びたい!』

『……はあ。なんなのこいつ、慣れてる僕がやるより数段早いし……』


コタの時間を俺が取っていたことは知っていたから、少しでも代わりになればいいと――そう思って、俺はコタがやることはなんでもやった。

ついて回る俺にため息をつきながらも、コタは俺を決して追い返そうとはしなかった。

ちゃんとできれば褒めるし、変なことをすれば怒る。

そのうち俺は、コタの横が一番楽しいことに気づいた。


『レス君は本当にコタが好きねえ』


何故楽しいかわからない俺に、そう答えてくれたのはコタのお母さんだった。

俺の母と違い、コタのお母さんは楽しければ笑うし、怒る時は本当に容赦なく怒る。

でも、コタのお母さんに怒られるのは怖かったけど嫌じゃなかった。

なんでなのかわからないけど、コタのお母さんはあったかくて、コタの次に好きだった。

コタのお母さんの一番はコタで、それが羨ましくはあったけど、それでいいんだって気持ちがあった。


いつも一番でいたかったはずなのに、コタの前では一番じゃなくてもよかったのだ、俺は。

だって一番じゃなくてもコタは嫌がらない。

むしろ自分に一番を譲れと怒るコタが、コタが一番だと笑うコタのお母さんとお父さんが、俺は好きだった。


そう、好きだったのだ。


『……レスは、誰にでも好かれるよね』

『はぁ? 何言ってんだよ』


誰にでも好かれるのはコタの方なのに、コタは変なところで自信がない。

時折コタは大人の顔をするから、俺はよく分からない焦りを感じることがあった。

好きであることに変わりはなかったけど。


『レスにはわからないよ』

『コタ?』


職業神託の時期は、不安でいっぱいになるんだとコタのお母さんに言われた。

コタの様子がおかしい、そう思って俺はコタを気にしていたけれど、何故コタがおかしくなったのかわからなくて困った。

でも、コタはやっぱりコタで。

しばらくはおかしかったけど何かがわかったようで、神託の後には落ち着いていつものコタになった。


『騎士だね。良かったね』

『うん! コタは?』

『僕はコマンダーって言う、謎のレア職だったよ。まあ、村に帰るかな』

『じゃあ俺も帰る!』

『何言ってんの? 騎士は機関に行くに決まってるでしょうが』


騎士になれたのは嬉しかったけど、コタと離れるのは嫌だったから機関にはいかないでおこうと思った。

でもコタが一緒に行くって言ってくれたから俺は騎士のための機関へ行くことにした。

呆れながらもやっぱり怒らないコタは俺に優しかった。


騎士になるのは夢だったけど、今は誰の夢だったのか思い出せない。

父が話してくれたからだったろうか。

それとも昔読んだ本の中の騎士が、あまりにも幸せそうだったからだろうか。


多分違う。

騎士にあこがれていたのはコタだったから、コタと同じように騎士に俺はなりたかったんだ。

騎士になれないなら、コタを守れるくらいに強ければ何でもよかった。


『俺はコタが守れればいいよ』

『レスって変なところで欲がないよね』

『そう? 俺、たぶん、ずっごく我儘なんだと思うけど』


機関に最終的に来ることを決めたのも、結局は強くなりたかったからだ。

でも、俺がいることでコタが攻撃されるから俺はイライラしていた。

コタと、コタと一緒にいるコタの家族を守りたいだけなのに、横やりばっかりはいるからすごくめんどくさかった。


そしてあの事故が――事件が、起こったのだ。


『こたああぁああああ!!!!』


俺の目の前で、コタは斬りつけられて。

俺の目の前で、コタは川に流されて。


そして滝壺から、落ちた。


コタを落とした男の言い分は滑稽だった。

マウレーネ王女を襲った? コタが?

ふざけるな。

俺が嫌いなマウレーネ王女を、コタが襲ったりするわけがない。

激昂する俺の横で、王女は唇を噛みしめながら一言も発さなかった。


なんでだよ。

コタがいなかったら、マウレーネ王女も、この馬鹿も、怪我をしていたに違いないのに。

何で助けたコタが斬りつけられて、落とされなければならなかった!

そのうち俺に謝っていた男が、コタの悪口を言い始めた時点で俺はコイツの話を聴く気は失せた。

訓練中? そんなことは知るかと俺はPTから離脱し、川を下ってコタを探し続けた。


途中何度かマウレーネ王女が来て食料をくれたりしたけれど、俺は機関には戻らなかった。

だってあそこにはコタがいない。

コタの傍にいると決めたのに、俺は探すことすらできないのだ。


滝つぼから降りたところから川は数カ所に分かれていて、コタを探すのは困難を極めた。

特に一番太く流れ込んでいるところは森の奥深くに繋がっていて、俺だけでは到底行くことが出来そうにない場所だった。

それでもしらみつぶしに俺は一本一本下って探し続けた。


探し続けて――そして。

倒れて、気づいたら、機関に戻らされていた。


一言も口をきかない俺に、マウレーネ王女は言った。


『――任せて下さい。後悔させてやりますわ』


言葉の意味はわからなかったけど、、前と違って決意を秘めたその表情に、この王女もきっとコタに自分を変えてもらえたんだろうと漠然と思った。

俺が休養している間に何か段取りをつけたらしく、気づけばコタを斬りつけた男は機関から追放されていた。


それからの4年間は、あんまり覚えていない。

コタがいないままアルハ村に帰るわけにもいかず、魔物は倒すが換金するものを殆ど取ってこない俺は、行き詰れば機関に帰るしかなかった。

それでもしばらくすれば、機関にいること自体が辛くなる。

そうしてふらりと森に出かけては、コタの手がかりを探すのは習慣になった。

一度倒れてからは信用されていないらしく、時々マウレーネ王女が勝手についてきた。

そのうちマウレーネ王女の妹やらもついてきて森の奥深くにも行けるようになったが、俺と違って戦闘力のないコタが奥深くで生き残っているかと訊かれると俺は黙り込み他の場所を探すしかなかった。


諦めろと、俺に言って来た奴はいる。

でも諦めなければいけない理由が俺にはわからなかった。


だって俺の傍にはコタしかいなかったのに。

誰のために俺はコタを諦めればいいんだ?

ずっと一人でいれば、周りの気は済むのだろうか?


『クラスチェンジに行ってくる』


気付けば神託を受けて5年たっていた。

この時ばかりはアルハ村に帰らなければいけない、そう気づいた俺はコタの家を訪ねることにした。

怒られるのも覚悟でコタの家を訪ねたが、コタのお母さんは心配そうに俺を抱きしめるだけだった。


『大丈夫、大丈夫よレス君。コタは強い子だからすぐに帰って来るよ』


アルハ村の周辺は探していなかったから、ふらりふらりと周辺を探してから神殿に行った。

神殿に行ったら何故かマウレーネ王女がいて、何かを説明し始めたけど殆ど頭に入ってこなかった。

とりあえず、王女が完全にあの男を支配下に置いていくらでも土下座させられるということが分かっただけだった。


 『……今更謝られたって……コタは』


辛うじて、興味がないことを口に出してみるがそのあとが続けられない。

コタは、生きているはずなんだから。

そう思うのに口が動かなくて、視線をそらした先に見知った髪の色が見えた。


『なにコレ?』


そう呟いた声が、少し低めの、でもどこか聞いた口調で。

俺は思わずつぶやいていた。


『……こた?』


くるくると変わる表情は、ずっと見続けていたものに相違なくて。

俺は消えてしまわないように思わずタックルしていたのだった。






その後はまあ、お察しのとおりである。





とりあえずコタは、やっぱり強くて、すごいんだなと思った。

でも何か親友が増えてたんだけど、どういう事だろう……。

コタの親友は俺だとファルに言ったら、『知ってる! 僕親友2号さんだからよろしくね!』と開き直られた。

コタは呆れたような顔をしていたけれど、やっぱり怒らない優しい親友のままだった。






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