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最初に再会したら、ごめんねと謝るつもりだった。

僕が悪かったのかというと大分疑問符がつくが、ちゃんと傍にいるはずの約束が守れなかったのは事実だったから。

でも、うん。

本当にこんなことは望んでいなかったから、ちょっと謝るの止めていいかな?


そう思っても仕方ないと思う光景が、僕の前には広がっていた。


「……すごいねアレ、彼の趣味?」


人を土下座させる趣味ってのはさすがに無いと思うから、空気読まない発言するファルは黙ればいいと思います。


「……こた?」


そして頼りなく僕の名前を呼ぶ親友は、とりあえずその無精ひげとかをどうにかしてきた方がいいと思います。




どうしてこうなった。






神殿にたどり着いた時、まだ転職時期ではないとはいえ、準備で忙しい神殿は喧騒に満たされているはずだった。

だけど、僕らの目の前にあるのは水を打ったように静かな空間。

誰もかれもが動きを止める中で、一人の青年が王族の二人の前で仁王立ちしていた。


「……断る」


神殿の中であれば、一般人の目は遮られただろう。

だが、男が動かなかったのか、その茶番劇とも言えそうな一幕は、神殿の、しかも参拝客がいっぱいいる中で行われていた。

王族がそこに立っているのも異例なら、その王族の前で膝もつかずに立ち尽くす男もまたおかしい。

そして僕は、その中心に立つ3人がどれもこれも知っている顔ということに驚愕しつつ、少し手前で足を止めたのだった。


「……まだ、許してはいただけないのですね……」


悲しみにくれた声は、昔とは信じられないくらい王女じみたたたずまいのマウレーネ王女。

っていうかびっち悪役系王女どうしてそうなったの。

めっちゃ王女なんですけど。

清楚、とも言えそうな雰囲気なドレスを着た王女は、小説内とはかけ離れた姿でそこにいた。


「……レステリオ様……」


そしてマウレーネ王女の横にいる彼女は、挿絵でしか見たことがなかった、小説内雰囲気そのままの女性だった。

おそらくクラリーネ王女であろう彼女は、切なそうにレスの名前を呼ぶ。

その雰囲気は明らかに恋愛感情を持っているもので、ドラマを見る様なワンシーンに思わず興奮しそうになった。

対峙するレスの雰囲気が冷たすぎて、興奮もすぐ引っ込んだが。


「……何かお取込み中、みたい?」


こそり、と呟くファルに僕も頷いて彼らを見つめる。

一体何が始まるのか、と思って見つめていれば王女の後ろから何か見知った男が引っ立てられてきた。


「……」


4年ほどたっているが、そのふてぶてしい面相は間違えようもない。

僕を斬りつけ、川に落とした張本人。

貴族であろう彼は拘束さえされていないものの、兵士たちに囲まれてレスの前まで引っ立てられていた。

貴族の子息らしき男がレスの前に差し出される謎の光景に、思わず見つめていればその男はレスの前に出たかと思うとその足元でがばりと土下座した。


「ええっ、何あれ?」


そんなの僕が聞きたい。

なんでアイツ、レスの足元で土下座してんの。

そしてレスは何でそれを当然とばかりに見た上で、無視してんの。

土下座した男がだらだら冷や汗書いてるのが気になって仕方ない。

まじ、これ何の光景?


「……今更謝られたって……コタは」


そのあとが続かないのか、レスはしりつぼみに黙り込む。

いや、僕死んで無いよ?


「わかっております。これは、誠意です」

「誰に対しての誠意? 俺にあやまったって仕方ないけど?」


クラリーネ王女の台詞に、レスが鋭く言葉を返す。

固唾を飲んで見守る周囲の中で、僕とファルは居心地悪く肩を竦めた。

ファルも、僕の名前が出たことで目の前にいる男が親友のレスである事に気づいたらしい。

僕、この中でレスに声かけたり名乗ったりするの?

やめてくんない? なんでこんなハードル高いの?


「……なにコレ……」


思わずぼそり、と殆ど聞き取れない声で僕は呟く。

だけど、次の瞬間後悔した。

レスは何故かいきなり僕の方を勢いよく振り向いたからだ。


「……」


目を見開いたレスは、明らかに僕に気づいていた。

その横でのんびりとファルが、通るような声で阿呆なことをいう。


「……すごいねアレ、彼の趣味?」



……冒頭にもどる。



結論から言うと、僕の名前を呟いた次の瞬間、僕はレスにとびかかられた上にかっさらわれた。

慌ててファルが追いかけてきたけど、レスの本気速度に敵う訳もなく、あっさりと神殿とファルその他は僕の目の前から消えたのであった。




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