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「僕も行きたい!」

「ファル……遊びじゃないんだから」

「知ってるさ! でもね、僕の腕だって捨てたもんじゃないし、まだまだちっさいコタだけだとろくな助けにならないからね! ついていくよ!」


転機は唐突にやってきた。

この村に流れ着いて4年。

僕が人間の街に連れていくよとファルが言いだしたのを必死で留めて2年。

ついに、その人間はエルフの隠里に現れた。

偶然にも、本編が始まるだろう時期とほぼ同時期の今に。


「まあ……怪我しちまったんは俺の落ち度だし、アルハ村の子って事ならって思ったけど、エルフの兄ちゃんがついてくるのは想定外なんだが?」

「すみません、この人言いだすときかないんですけど、腕だけは確かなんです」

「腕だけはとか酷い評価すぎない!? コタ!」

「まー、足でまといにならないって言うなら俺はいいけどさあ」


目の前にいるのは、かなり昔に見たことがある冒険者。

というか、うん。

普通に父親の知り合いだったので覚えがあり、向こうもあれちっこい友人(の顔した何かが)がいる……的な感じで近寄ってきて、事情を話すと普通に連れて行ってくれるという話になったのだ。

そこまでは想定通りで問題なかったんだけど、駄々をこねたのが1人いた。


言わずと知れた、自称(?)親友のファルストである。


燦然と輝く、並んだ忠義100の数値。

はい、ファルは普通にカンストしました。

どことなく残念な感じがするけど、多分僕を心配してるのは確かなんだと思うんだ。

半分以上人間の世界に行ってみたい的な好奇心だと思うけど。


で、本来ならここでファルはエルフの里と決別して人間の街へ行く。

人間の街へ行く同族なんて同族じゃない、ってなるはずなんだ。

ほら、ここ人間嫌いが集まる隠里だし。


しかし、少しだけ未来は変わっていた。


「そうさなぁ。コタだけじゃあ、心配じゃからのう」

「街と連絡が取れるようにコイツを持っていくといいぞ」

「ファル、コタを頼んだぞー」

「連絡はこまめにねー!!!」

「任せといて!!!」


なんでか僕の周りには自称保護者が増えており、そしてファルは何故か僕のお目付け役として里を出ることになったという……。

嬉々として鳩を受け取りつつ、僕にどや顔してくるのはやめてくれないかなファル。

生暖かい目で見守らないでくれないかな冒険者さん!!


どうしてこうなった……?


僕があまりにも成長しないせいか(成長期まだなの? 食べてる割に声変わりまでまだなんだけど)、いつ死んでしまうのかと気が気でないエルフの年寄りが増えていたのは知ってるけど……。

なんなのこの過保護な人たち。

人間嫌いはどこに行っちゃったの?


「愛されてるよねえ、コタは」

「まあ、4年も一緒にいたから、なぁ……」


さみしいと泣き崩れる婆ちゃんをなだめつつ、僕は僕でレスが心配なままなことは変わらない。

ここにいるのは意外に楽しかったけれど、それでも人間の街には僕の親がいて、親友のレスがいる。

帰りたいと言い続けていた僕を知っているこそ、ここのエルフたちは暖かく見守ってくれているのだ。


なんだかもらい泣きしそうな雰囲気の中、僕は何とか泣かずに出立した。

男の子だし!

アルハ村はそんなに大げさに言うほどは遠くない(注:一人で行けるとは言っていない)はずなので、僕はいつかは此処に帰って来ようと思った。


「じゃあ、お世話になりました!!」

「コタのことはお任せあれ~。お嫁さん見つけたら帰るから~!」


何故かファルの目的が嫁探しになりつつ、僕らはアルハ村に向けて歩き出したのだった。






「……あれ?」

「どうしたの、コタ」


エルフの村を出立して5日ほど。

王都は大分遠いけど、エルフの隠里はアルハ村からはそう遠くないので、見覚えのある道にようやくついたなと一息ついた時、僕は違和感を感じて首を傾げた。


「んー……と、近くに知り合いがいるか、も……」

「アルハ村まではまだあるぞ?」

「でも、この辺までは来たことあるんですよね」


違和感を感じるまま、そろりとステータス魔法を発動。

実は4年の間にコマンダーの特殊スキル、増えてましてですね。

範囲外でも、10km四方ぐらいなら相手の位置を特定できたりするんだよねー。

で、この違和感は多分僕の索敵圏内に、能力が発動できる相手が入ったという事。

ということはアルハ村の近くには、きっと奴がいる。

時期的にも機関の年一度の休暇の時期だしきっとそうだ。


「そういえば聞き忘れてたんですけど、オットーさん」

「なんだ?」

「もしかして、アルハ村でレスに会ってたりしました?」

「ほぁ?」


冒険者であるオットーさんが迷い込んできたのは10日ほど前のことだ。

僕のことを知っているオットーさんならレスのことも知っているはず、そう思い聞いてみればオットーさんの目が丸くなる。


「レス……騎士様のことか?」

「オットーさんがレスのことを様付けすると違和感しかないですけど、たぶんその騎士様です」


ステータスから詳細を選びぽちっとな。


『騎士レステリオ―現在地 10km遠』


うん、やっぱレスがいる。

パッシブスキルの範囲内に入っていないからレス自身は気付いてないと思うけれど、アルハ村の周辺にはいるみたい、だな。

村はもうちょっとだけ距離があるはずだ。


「会うって言うか―……」


何故か言いよどむオットーさんに、僕は首を傾げる。

我が家はレスの家にほど近いし、父親には会ったと言っていただけにその反応は変だ。


「……急に成長した様に近寄りがたくてな。話しちゃいない」

「レス、里帰りもしかして初めて……?」

「ああ、そうだな。そういや、コタは4年ほどあそこにいたって話だったが、アイツそんなこと言ってなかったぞ? 王都に行ったままで薄情な息子だとは言っていたが」

「えっ!!」


一体僕は、どういう扱いになったままなの?

困惑する僕の前で、オットーさんがため息をつきながら事情を話してくれる。


「騎士様が帰ってきたのだって、15歳のクラスチェンジのためだって話だったぞ。基本クラスの変更は、最初に神託を受けた神殿で、ってなってるのは知ってるな?」

「あ」


すっかり忘れてた……。

小説内でレスは地元の神殿で神託を受けないから、王都でしか神殿に行かないんだよ。

でも今のレスは、勿論地元に帰ってクラスチェンジを受けるのだ。

まあ、まだ15才だし他の上位職になったりはしないと思うんだけどね。

というか、レスが行くって事は僕も神殿に行かなきゃいけないってことだよね。すっかり忘れてた。


「それが無ければ地元には帰ってこなかったのかなぁとは思ったね」

「え? え? なんでですか?」

「さあてな。いったい何があった……んだ、か……」


何故か言葉の途中で僕をまじまじと見るオットーさん。

首を傾げる僕。

我関せずに歩いているファル。


「……コタは騎士様と、年齢が近いんだったか?」

「レスとは近いというか同い年ですけど」

「……」

「あれ? レス君ってコタの親友君じゃなかったっけ? 僕が親友になろうって言った時に、『もう間に合ってます』とか言ってた子だよねー?」


空気を読まないファルの茶々に、否定することでもないので軽く頷く。

するとしばらく黙り込んでいたオットーさんは、何故か納得した様に一つ頷いた。


「なるほど」

「?」

「いや、うん、なんでもないさ」


何でもないと言いつつ、微妙に視線がまた生暖かいのは気のせいだろうか。

まあ、今はファルのステータス的な問題でパッシブオンにはしていないからあっちから気づかれることはないだろうし、レスとはどうせ神殿で会うだろうけど、後々がきっとめんどくさいだろうからこっちから探そうかな。

アイツが僕の心配をしていないなんてことは絶対にないだろうし。


「……一波乱あるかもな」


そんな風にぼんやりしていたもんだから僕の横で、オットーさんがそう呟いていたのを僕は聞き逃した。

ぶっちゃけ聞き逃すべきじゃなかったと後から思ったんだけどね……。




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