表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

プロローグ

思い付きで書いてしまった最弱主人公もの。

主人公は弱いです。本人のチートはありません。別意味のチートは存在します。

大好きな小説があった。

主人公はのちに英雄になる少年。

物語は少年の親友が、彼を妬みそして自殺してしまうところから始まる。

自殺というか、少年に襲い掛かり、そして自分で足を滑らせて谷底に落ちてしまうという、どうしようもない死に方。

しかし親友の殺意に気づいていなかった主人公は、誰よりも大切だった親友をそんなカタチで失くしたことで心を閉ざしてしまう。

心を閉ざし、嫉妬されるほどの強さを煩わしく思った彼は1人村を飛び出し、死地に赴く。

死のうとすら考えていた彼だが、生来の強さと命への渇望から死地をも乗り切り、やがて王都へたどり着く。

そこで出会う、のちの女王であるヒロイン。

ヒロインは主人公の孤独に触れ、その心に寄り添おうと奮闘する。

しかし彼女は王位継承者であり、主人公はその争いにも巻き込まれ、やがて心はすれ違い……と。

まあそんな感じで、大団円になるまで波乱万丈に続く恋愛小説だった。


恋愛小説だったんだ、うん。

少女小説と呼ぶには大半が戦闘とかいう、すごい内容だったから男の僕でも全然読めたけど。

むしろ心の苦悩がすごい共感を呼び、大ベストセラーだった。


で、まぁ。

何でこんな話をしたかって言うと、うん。

転生しました。

小説の中の世界に。


ちなみに神様に会ったとか、何か頼まれたとかそういう事は全くなかった。

普通に産まれて、普通に生活して、普通に遊んで。

そんな中で現れた感情に振り回されるうち、天啓のように僕は前世を思い出したのだった。


うん。

親友への嫉妬が膨大過ぎて、抱えきれなくなった時にね!!!



「まじなのー……」



泣きそうになるくらい辛かった気持ちが、一気に別意味で辛くなったよ。

僕これから主人公殺しかけて死ぬ役なの!?

マジで!?

どこに転生してるのよ僕ううううう!!!



「コタ? どした?」

「あー……」


思わず天を仰ぎ、空を見上げた。

崖っぷち、呼び出された状況、こちらに背を向け顔だけ振り返った親友。

揃いすぎるほどに揃いすぎた状況に泣きたくなってくる。


思い出すならもっと早く思い出してほしい。

辛うじて背を押してはいないが、あと数秒遅かったらうっかりその背を押して、抵抗された親友に突き落とされているところだったよ。

マジ危なかった。

いや、今でも混乱しすぎててうっかり手を滑らせそうだけどさー。


「? 調子悪いのか?」

「あー、昨日から少し頭痛くてねー……」


きょとん、とした顔でこちらに近づいてくる親友の顔に陰りはない。

とりあえず崖っぷちにいられるのはこちらの精神的に辛いので、ちょいちょいと手招きすると、親友は僕がそれ以上動かないことを悟ったのか崖には乗り出さず、のんびりと戻ってきた。

それを見てから、僕は自分が動けないようにその場に座り込む。


「!? そんなに痛いのか!?」

「やー、休めば大丈夫大丈夫」


痛いのは頭だが、別に身体的に痛いわけではない。

だが、何かのはずみで知っている展開にならないとは限らないので念のため座り込んだのだ。

これなら強引に落とそうとしたところで崖まで押す力はないので二人とも安全である。

地べたに座り込む僕に一つ頷くと、親友も同じようにべったりと隣に座った。


「ところで話って何? 明日の儀式のために今日は早く寝ろって言われてたろ?」

「あー……そうなんだけどさ。眠れそうになくってさぁ」

「興奮しすぎだろ……」

「コタは興奮しなさすぎだって! 明日になったら俺たち、何のために生まれてきたかわかるんだぜ!?」


明日は村の子供たちの10歳の誕生祭だ。

この世界では10歳になると、職業(クラスを神から授けられるとされている。

そのため、10歳のお祝いだけは別口で、この村から一番近い神殿まで移動するのだ。

主人公である彼は小さな集落に住んでおり、10歳の儀式の前日、呼び出した親友に襲い掛かられ、失意のまま儀式を受けずに村を出奔する。

だから彼は次登場する15歳まで無職で森の中をさまよい、様々な苦難を乗り越えるのだ。


……ってあれ?

もしかして僕、ここで死亡フラグ折るとコイツの人生丸ごと変わっちゃう?

しかももしかして、すごく悪い方向に折れちゃうんじゃ?


「何になれるのかなぁ。戦士かなぁ。剣士かなぁ。もしかしたら、騎士とかにもなれるかもしれないよな!」

「全部前衛だし……」

「なんだよ男だろ!? 男ならやっぱ、こう、前に出てだなぁ!」


ガキ大将のように笑いながら、夢を語る親友。

その姿はとても楽しそうで、心の奥底で何かが痛む音がする。


―――――だって君はいつも楽しそうで。

―――――僕はいつだって君に追いつけなくて。

―――――だから、僕は。


「レスと違って僕は戦闘向きじゃないからね。僕はきっと衛生兵メディックあたりじゃないかな」

「えいせ? 何?」

「あー……えっと、怪我を治す人だよ」

「ヒーラーか!?」

「いや、魔力ないからね? 薬とかで手当てする人だよ」


衛生兵は一般的にみられる職業である。

名前があれだな、と思うけど元が日本の小説だもんなぁ。

謎の職業はいっぱいあって、名前だけではどんなものか見当もつかないものもいっぱいある。

今の僕なら多分わかるけどね。生前も読書だけは好きで、良くわからない単語ならいっぱい覚えたわけだし。


「えー。それだと一般人じゃん」

「だからそう言ってるんだけどね? 僕は一般人で十分だよ」


ちなみに主人公であるレス――レステリオは、魔力も、戦闘技術も神に愛された人間だった。

15歳の時、神殿でもらった職業は騎士。

親友一人を守れない俺が騎士なんて、とそのまま王城へ勤めようとはせずまた出奔しようとする。

それを止め、専属の騎士へ任命するのがヒロインである第二王女なのだ。


ってことは、明日そのまま受けるとこいつは騎士の職業を得て王都に送られるんだろうか。

本来なら5年後に起こる王都のイベントが、そのまま5年前倒しになるかそれとも力不足で王女と出会う事がなくなるのか……。

どうなんだろう?


「……」

「何? 僕の顔に何かついてる?」


少し考え込んでいたせいか、気づけばレスはじいーっとこちらを見ていた。

何かを考え込むようなその仕草に、少年らしい脳筋野郎が考え事ってのも変だな、と思い言葉を返す。

するとレスは、やっぱり不思議そうに首を傾げた。


「いや、なんか、大丈夫か、って思って」

「は?」

「なんかコタ、ここんとこ元気なかったし。明日のことで緊張してるのかなって思ってたから呼び出したんだけど」

「……ああ」


本来なら、ここで嫉妬が爆発して突き落とすぐらいだ。

どうみても人の心にまだまだ疎そうな少年であるレスでも、僕のおかしさには気づいていたのだろう。

親友だから。

そして親友だからこそ、僕は彼を許せなかったのだ。

その、無神経さと、こんな僕までをも気遣えてしまうやさしさが。


「ちょっとナーバスになってただけだよ。僕はレスと違って、人を守れるような力はないからね。どんな職業になれるのかなって」


言葉にすると、すとんと腑に落ちる感覚がした。

前世を思い出す前の僕は、この親友に敵わないことを知っていながらそれでもあがいていたのだ。

相手は神に愛された、正真正銘の英雄候補であるというのに。

それを知らなかった僕は、同じように育ってきたのにあまりにも違う彼に嫉妬し、でも近すぎる距離によって目をそらすことも出来ずに、結果排除しようとしてしまった。


なまじ頭が良かったのが不幸だったのだ。

このくらいの年頃なら頭が良い子より、力の強い方が好かれるし、性格もガキ大将で情に厚いレスの方が好かれやすい。

同じ歳でありながらあまりにも違う二人は、いつだって比べられていた。

子供は残酷だというけれど、分かっていないだろうと陰口をたたく大人も残酷だ。

大したことない子――そう、実の親に言われることが、どれだけ子供心に傷を負わせたか、きっと彼らは知らない。

お前なんてと、衝動的に親友に襲い掛かってしまうほどの悲しみを、僕は先ほどまで抱えていたのだから。


話が逸れたな。


「うーん。よくわっかんね」

「……興奮して寝れないのに、不安に思う方はわからないの?」

「うん! だってもう職業は決まってんだしな!」


僕の言葉に帰ろうと思い立ったのか、よっこいしょー、とレスが立ち上がる。


「ほらよ、捕まれ」

「……うん」


同い年なのに、僕よりも大きな手。

誰よりも守りに特化した、そんな騎士の手。

捕まって立ち上がった僕に、レスはにっと笑う。


「俺はお前がどんな職業だって、戦えないなら守ってやるからさ!」


まぶしいほどの笑顔に覚えたのは、やっぱり嫉妬だったけれど。

僕は曖昧に笑うと、帰ろうかと声をかけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ