ゆきちゃんとカメのジェームス②
森の中を歩いていると、小鳥たちのさえずりがあちこちから聞こえてきました。道端には色とりどりの花が咲き乱れ、なんとも良いかおりが漂っています。時折、春の爽やかな風が二人の頬を撫でました。
「なんて素晴らしい森なんだ」
ジェームスは初めて見る景色に見とれ、ほう、とため息をもらしました。
「ゆきもこの森、だぁい好き!向こうにゆきが一番お気に入りの場所があるの。ジェームスに教えてあげる!」
「こんな素晴らしい森の中の『一番』なんて、それは楽しみだな。どんなところかわくわくするよ」
二人は時々スキップしながらどんどん森の奥へと進んでいきました。
しばらく歩くと丸く視界が広がり、小さな池の前へと出ました。太陽の光が水面にキラキラと反射しています。
「ひだまり池って言うの。ゆき、この池とっても好きなんだ」
「わぁ、水がキラキラとしていて本当にきれいだ。ゆきちゃん素敵な場所を教えてくれてありがとう。僕も気に入ったよ」
「本当?!」
ゆきちゃんはまるで自分のことをほめてもらえたような気持ちになって、何だか照れくさくなりました。
「また一緒にお散歩に来てくれる?」
「うん、もちろん。毎日でも来よう」
「本当に?!やったぁ!!」
ゆきちゃんは嬉しくてジェームスをギュッと抱きしめました。
「ぐぇっ……苦、じぃ……」
「明日も来よう!約束だからね!」
ゆきちゃんはさらにギューッと抱きしめて言います。
「わがっだ、わがっだ」
ジェームスがブンブンと首をたてに振って答えます。それを見たゆきちゃんは、あっと気づいてようやく腕の力を弱めました。
「ごめんなさいジェームス!」
「ふぅ、やれやれ。甲羅が割れて浦島太郎が出てくるかと思ったよ」
「えぇ!割れたら浦島太郎さんが出てくるの?!」
「たまに……っぶぶ!」
ついに堪えきれずジェームスはケラケラと笑いました。
「もう、ジェームスったら!」
ゆきちゃんもからかわれてちょっとほっぺたをぷぅと膨らませましたが、すぐにジェームスにつられてアハハと笑いました。
それから二人はぽかぽかとした気持ちで池のほとりに腰をおろし、しばらく水面の輝きを眺めていました。
「ゆきちゃーん!」
そんな二人に池の向こう側から声をかけたのは、うさぎのポップです。
「広場にバルーンさんが来てるって!」
「バルーンさんが?私も行きたい!先に行ってて!」
「わかった!広場で待ってるね!」
ポップはそう言うとぴょんぴょんと跳びはねてあっという間に行ってしまいました。
「バルーンさんはくまのおじさんなんだ。時々広場に来て、みんなに風船をくれるの」
「よし、僕たちも行こう」
再び二人は広場に向かう道をどんどん進んでいきます。
ところがおやおや、そんなゆきちゃんとジェームスを草むらからのぞく黒い影が二つ。
「ゆきのやつ、なんだか楽しそうだなぁ。ちょっとイタズラしてやろうぜ」
「そうだなぁ、じゃあ先回りして驚かすってのはどうだ?」
「ははっ!それはいいアイデアだ!乗った!」
二つの影はクスクスと笑うと、まるで風のように素早く広場へと続く道を走って行きました。