Variant
不幸な事故は誰にでもあるものだ。
どれだけ気をつけて生きていても、避けられない運命ってものはあると思うんだ。
いつも通りの朝が来て、その日も寝ぼけ眼で歩きながら登校していた。
最近は時事ネタなどのニュースを、テレビや新聞だけじゃなくて携帯で見たり読んだりする事が増えていて、その日もそいつを見ながら歩いていた。
今有名な歌手とハーフタレントの浮気などでネットが荒れていたり、元プロ野球選手が麻薬で捕まったりと、下らないニュースばかり最近流れてくるな。
ながらスマホをやってはいけないと、分かってはいるんだが、どーにも止められない。
タバコや麻薬もこんなもんなのか?
自分の中で下らない事を考えるのも趣味の1つみたいなもので、暇な時は自然と頭がそーゆー方向へ話をもっていく。だからよく友達や両親から言われていた。
(お前しっかりしないと危ないぞ)
(ぼーっとしてるんじゃないわよ!)
別にぼーっとしてる訳ではない。
確かにながらスマホをしている時、自然と視線は下に向いているが、それでも意識は前にして、人に当たったり、信号無視しない様にしている。だから、今まで人にぶつかった事や、信号無視などした事は一度もない。
だからなのか、周りの‘‘気をつけろ”という声に耳を傾けていなかったかもしれない。
いや、傾けていなかったんだ。
そして、右腕が消えた。
実際には、車に轢かれた。その時に右腕をクルマに踏まれて使い物にならなくなってしまった。
このまま放置して腐ってくるのはよろしくないので、右腕を落とす事になった。
目が覚めて見れば病院のベッドで寝ていた。
両親や友達達は、俺が目覚めた事に凄く喜んでくれた。
それと同時に、俺の右腕を見て悲痛な顔をした。
正直驚いた。
事故の時の事をあまり覚えていない。
俺はしっかりと青信号で渡っていて、車の方が赤信号だと気づかずに突っ込んで来たのだとか…
運転手は俺を轢いた時、しっかりと警察に連絡し、なぜ起きたのか事細かに状況を説明したらしい。
これは因果なのか何なのか。運転手はながらスマホをしていて、
信号を見てはいなかったらしい。
そんな話を聞いて、何だか運転手を責められなくなってしまった。
自分も周りからやめろやめろと言われていたのに、やめられなかった。もし、車を運転する様になってもまだしていたら、俺も誰かを轢いていたかもしれない。そう思ったら怖くなった。
目覚めてから数日が経ち、ある日の夜。
右腕の切り取られた部分が痒くて目が覚めた。
何だよいったいと思いながら、痒みが治まるのを待ってから寝た。
リハビリの為、散歩をよくする様になった。
腕を片方失うだけで、自然とバランスが悪くなるんだ。
しかし、医師からはバランスは良いと言われた。
右腕があった頃と変わりはないと。
そのはずだ。だって俺には右腕が生えているから。
異変が起きたのは、痒みが襲ってきた翌朝だ。
朝起き上がる時に、自然と右腕で身体を支えながら起きた。
そして、疑問に思ったんだ。あれ?と
そして、目をやると。
そこには異形な形をした右腕が生えていた。
思わず声を上げた。
頭が真っ白になった。何だこれは!?
右腕に力を入れると拳を握ることが出来た。
どうやら神経は繋がっているらしい。
その右腕は、空色とオレンジ色が交互に重なる様な色合いで、
不思議と怖さが薄れていった。
しかし、こんなものを人に見せる訳にはいかないと思った。
絶対に気持ち悪がられる。
どうしようか悩んでいると、不意に扉が開いて、ナースが入ってきた。右腕を隠す暇もなく、完璧に見られた。
何て言われるのかビクビクしていると、何事もなかったかの様に
身の回りの事をして検査して出て行った。
あれ?どーゆーことだ?
右腕が見えていなかった様だった。
なぜ何も反応しない?
まさかこれは俺が知らないだけで、普通の事なのか?
嫌々そんな訳あるか。
これは、実験してみよう。
そう思い、見舞いに来た友達に腕が新しく生えるマジックと言って
右腕を見せた。
しかし友達は、悲痛な顔をした。
それから色んな実験をしたが、誰にも見えていない事が分かった。
見えてはいないが、新しい右腕は物にも触れる。そして、意識すれば物を貫通することもできた。
それに加え力も凄く強かった。木の棒何かも楽に折れる。
ここ数日色々したが、まだまだ謎に包まれていた。
俺は、新しいオモチャを見つけた子供の様に楽しかった。
ある日の夜。見知らぬ老人が入って来た。
そして、真っ直ぐに俺の所に来ると、
「便利な右腕を持っているね」
と言った。
俺は焦った。
「みえるのか!?」
すると老人は頷きながら
「見えるとも」
と言った。
「これは珍しいな。空色が入っているね。実にレアな色だよ。空色が入っているやつは強いと昔から言われていてね。」
そう言いながら、老人は片目にした眼帯を外した。
するとその中には、‘‘宝石”の様に輝く眼があった。
空色と綺麗な緑が混じっている目をしている。
「君はこれからゲームに巻き込まれる。生きるか死ぬかの。
君のおじいさんは強かったよ。有名なプレイヤーだった。
君もあの人の様に強いと期待しておくよ。」
そう言いながら、老人はゆっくりと帰ろうとする。
「待ってくれ!どーゆーことだかサッパリだ!
ゲームとは何だ?教えてくれ!」
俺の叫び声を聞いて、老人はつぶやく。
「その右腕は隠して歩きなさい。自らの武器を晒す事ほど愚かな事は無いからね。」
そして、老人は帰った。
よく分からなかったが、俺と似た境遇の様だった。
俺以外にも、異形な形をした物を持つものがいて、そいつ達がゲームをしているのか?生きるか死ぬかの?
馬鹿馬鹿しい。
そうは思いながらも、額から汗が流れ落ちる。
老人と出会ってから半年が経った。
あの人の言った通りゲームに巻き込まれ、そこでまだ生き延びている。俺は自らのコミュニティを作り、半年にして五本の指に入るプレイヤーになった。
このいつまで続くか分からない殺し合いを終わらせるために、俺は闘う。
長い長い、ゲームの始まりだった…