キセイホンノウ
生き物には帰巣本能がある。
人間で言い表すなら帰省本能とでも言えばいいのだろうか?
住んでいる場所から離れても再びもどってくる能力だ。
人間の場合だと、もっとも落ち着く空間――大抵は家だろう――に帰ってこようとする。
働き蜂が蜜を集めて巣に戻ってくるように、人間も仕事を終えて戻ってくるのだ。
「あー、疲れた」
一人暮らしをすると独り言が増える。寂しさを紛らわすそれは逆に寂しさを強調すると分かっていてもやめられない。だが、今の俺にはそんなものは存在しない!
なぜなら!俺には!彼女が出来たのだ!!
「おかえりなさい」
たった一言がこんなに心に響くことはあっただろうか?いやない。(反語)
俺の人生はバラ色だった。
彼女にたくさんプレゼントを送った。友人から女は贈り物をしないと文句を言うとか聞いていたからだ。
デートにもたくさん行った。毎日デートプランを考えるのは大変だったがそれも楽しいと思えた。
そうして今、俺の家に彼女がいる。
ここが俺の帰るところ、帰省する場所だ!
寄生虫という生き物がいる。
ほかの生き物に寄り添い生きる生物だ。
寄り代が死なず、栄養を分けてもらう生き物。
「おかえりなさい」
たった一言で一喜一憂する彼。
稼いだお金で私にプレゼントを贈る彼。
収入のない私を養う彼。
なんて素晴らしい。
なんて男は単純なんだろう。
ここが私の生きるところ、寄生する場所です。