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カズミの幽霊製作 後編

わたしは幼い頃からお姉ちゃんのことを尊敬していた。

知らないことは何もないと思っていたし、分からないことは何でも教えてくれた。

幽霊は死にも生にも分類されない。

これはお姉ちゃんが言っていたことだ。

するとこれは厳密に言うと死んだとは言えないんじゃないのかな。


まぁ、死んだとか、霊体になったとかは今となってはどうでもいい。

わたしが幽霊を作ろうと思ったのはお姉ちゃんのためでもあるんだから。

だからわたしが死んだとしてもお姉ちゃんは生きなきゃいけない気がする。


だからわたしはここで死ぬわけにはいかない。

詳しく言うと消滅するわけにはいかない…かな?

この世から消えてしまうわけにはいかないんだ。何をしても。


「…さぁ…、この手を掴んで…。すぐに…楽になれるよ…、もっとも着いた先は…どうなるか…分からないけどね。」



「…うん。そうだね、どうしようもないよ。」

もちろん嘘だ。

わたしは最後まで諦めない。

わたしは諦めた振りをしてレイコに近づいていく。

ヒントはもらった。ここからは出来る限りやってみよう。

どうせ失敗しても既に人間ではないのだ。後悔することはない。


レイコの手の届く範囲に入ったあたりで、わたしは走り出す。

もちろんレイコに向かって。ジャンプしてレイコに体当りする。


思った通り、わたしの体は通り抜けることなくレイコの体に衝撃を伝わる。


霊体は物に触ることはできない。スコップを引き抜こうとして確かめた。

だがそこからさらに“霊体は霊体に触ることができる”とわたしは推理した。


スコップがレイコに効かないという事は、レイコも”霊体”であることを告白していた様なものだったんだ。

そこからは賭けで、霊体が霊体に触れるというのは根拠もなく思ったことだった。

まぁ、あるとすればわたしが霊体になった後、攻撃をするのは“効かない”でなく、“無駄”といったところかな。


この方法しか思い浮かばなかったので、できなければもう諦めていただろう。


レイコは驚いた様子で、バランスを崩し後ろ向きに倒れる。

わたしは馬乗りになるが、このままでは体格的に押さえられておしまいだろう。

もしくは霊に精通しているレイコに霊的能力で消されてしまうか。


そもそも、レイコを倒す、もしくはレイコから逃げる、ことまでできるとは最初から思っていなかった。油断させて、押し倒すくらいが精一杯だ。


だからここからはわたしの本能に従う。頭の中の指示に従って動くだけ。


首筋に顔を近づける。レイコはようやく事態を把握したようで、驚きの表情をした。

なぜそんなことを知っている…というような。

だけどもうレイコにもどうしようもないだろう。

何かするにも遅すぎる。わたしの方が速い。


これからわたしにも彼女にもどうなるのか分からないが、どうにかなる…そんな予感がしていた。


彼女の首を軽く噛んで“結合する”とイメージする。


二つの粘土をひとつにするような感覚。


学校での粘土工作が懐かしい。

とそんな状況でもないのに思ってしまう。


こねる。混ぜる。

少し抵抗するような感覚がする。


力を込めてなくては。

こねる。混ぜる。



どのくらい時間がたったのだろう。

一つになったような感覚。

自分の中に“何か”がいる感覚。

そして、幽霊になるということがどういうことなのか分かった気がした。


そっと目を開けて、まず自分の体がどうなったか確かめる。

あまり変わったとは思えない。小学校4年生の体だ。霊体なのに。

自分の辺りを見渡すても思ったより変化はなかった、レイコが消えていること以外は。

あたりまえだ。レイコはわたしの体の中で生きているんだから。霊体だけど。



そう言っても、レイコも消滅させるなんて脅しをしなければ何もしなかったのに。

非道なことをしたとは思う。でもさほど罪悪感は感じない。本当、ダメなだなぁ自分は。


レイコを体の中に取り込んでから、なんだか身軽になった気がする。

おまけに気分もいいし、頭もよくなった気がする。

わたしはレイコの魂を探ってみる。

…ふむ。さっきのレイコを取り込んだのは“魂喰い”というらしい。

一つの霊体に複数の魂を持つことで驚くほど重罪なんだとか。

なんでそのやり方を私が知っていたんだろう?


「おや…?」

わたしの中のレイコが意識を取り戻したようだ。

やはり困惑している。大丈夫。しばらくすれば完全に同化するから。



 これから何をするつもりなのかって?

わたしにもそんなこと分からないよ。

とりあえず、レイコの仲間が来るだろうから、逃げなきゃね。

またこんな風に勝てるとは限らないんだから。


でも、漠然とまだわたしは消滅しないだろうな、と感じていた。



だから次の瞬間、9人から声を掛けられてもわたしはそんなに驚くことなく対応できた。

その9人はいつの間にかわたしを囲むようにして立っていた。


…多すぎだよ!。小学生の女の子一人消すのに10人もいらないだろ!

というツッコミは今回はしない。


距離は5mほどかな。今度はさっきみたいな不意打ちは通じないんだろうな。

するとその9人は尋ねてもいないのに名乗り始めた。


「“消滅”のゴーストだ。お前を消す。跡形もなく。」


「“消滅”のスピリット。容赦なく、一瞬で、完全に、この世に塵一つ残さず、消す。」


「“消滅”のファントムだよ。消す。消す。消す。消す。消す。消す。消す。消す。」


「“消滅”のモンスター。こいつがターゲットね。消滅。消滅っと。」


「“消滅”のコウイチです。フルパワーでいきます。消えてください。」


「“消滅”のカケル。お前を消せば、みんなが幸せになれんだよ、消えてくれ。」


「“消滅”のユウコよ。………………………………………消す。」


「“消滅”のマサルといいます。君はやってはいけないことをした。消えてください。」


「“消滅”のユイ。あなたは消えた方がこの世界のためになる。」



この空気に何か返した方が良いのかなぁ。

大人数の前で喋るのは好きじゃないんだけど。

しかもいちいち名乗らないといけないのかなぁ。

…あっ。レイコによると名乗らないと能力が使えないらしい。


面倒な連中だなぁ。


「わたしの名前は円堂カズミです。みなさん、わたしに喰われてください。」


戦闘が始まる。






…あれ?生きてる?

霊体なのにこの疑問は変だけど、この際それはべつにいい。

わたしは消滅していない。自覚して、まだ存在している。

服はあちこち破れているが、まだこの世だ。


ふぅ、疲れた。一息つくためにその場に座り込む。

もう私を狙う人間はいないんだ、そう思うと気分が晴れてくる。

よく分からない戦いに巻き込まれるのはもう嫌だ。

僕は昔から争うのは嫌いだった。

だから、俺は“全員喰って”やった。

現在わたしの中には計11人の魂がある。



 ふぅー、喰った喰った!といいたいところだが俺が腹いっぱいになるにはまだたらねー。

 悪いけど、もう少しだけ喰わせて貰うぜ。ぼくの中にある魂の誰かが霊の捜索が可能のようだ。このおかげで食事には困らないだろーな。こっちも生きるためなんで、喰わないと死んじゃうんで、すいません、いただきます!


もはや罪悪感など感じることもなくわたしは霊を喰い続ける。




「君を探していたんだよ、円堂カズミちゃん。」

僕が幽霊になってからたぶん数日だろう。食事の途中に変な女と出会った。

生身、つまり生きている人間なのにわたしを認識し、声を掛けてきたのだ。

私の体より大きいからおそらく、中学生ってところだろーな。

優しそうな顔しやがって、さぞかし幸せな人生を送っているのでしょうね。


「ごめんね、用があるのはカズミちゃんなんだ。二人で話させてもらえるかな。」

何を言っているんだろう?わたしは常にひとりだよ。

魂は複数あるからねけど。


「なんでわたしが見えるのか分からないけど、何の用?」

とりあえず聞いてみる。


「やっとカズミちゃんになったね。はじめまして、私は角斑サオリです。ちょっと話したい事があって来たんだ。」


「君は猫の死体を掘り出そうとしたよね。そこから、私は君の名前を知ったんだけど。その時点で注意できればよかったんだけど、ごめんね。間に合わなかったよ。」


「あなたのせいじゃないですよ。それはわたしが幽霊を作ろうとしたから…」


「いいや。“君の姉が死んだ”時点で私はそれに気付くべきだったんだよ。姉の死、そしてそれを心配した友達を誤解し、さらに悪い事態になってしまったんだから。」


「……!…」

 それはわたしが忘れたかったこと。

忘れられなかったこと。

そういえば、お姉ちゃんと会うために幽霊を作ろうと思ったんだった。


「そしてここからは幽霊の話だよ。動物の死体で幽霊を作るなんて馬鹿なこと、誰が教えたかわからないけど、問題は作るどころか君自身が幽霊になってしまったことなんだ。」


心なしかサオリさんの口調が変わった気がする。

今更ながら自分がなんてことをしてしまったか自覚する。


「そして、幽霊だけで済むならまだしも他の人の魂を食べるなんてことをしてしまったことなんだよ。」


「言ってしまえば、もう私にはどうしようもない。」


「もう戻れないよ、君は。その食欲は永遠に尽きることはないだろう。幽霊とはもはや呼べないだろうね。怪物、化物といった方が近いだろう。」


「私たち生きているものには害はないだろう。しかし、幽霊となったものには君は今どう写るんだろうね?

もう一回謝ろう。ごめんなさい、間に合わなかった。君はもう地球上のすべての魂を喰い尽くすまで止まらない。」


「……なにをいっているのか分からないわ。」


わたしはそこから走り出す。一刻も早くこのことを忘れたい。

わたしはわたしだ。決して化物になんてならない。

お姉ちゃんを探すまでは消えることはできないんだ。


食欲が増す。喰うことはできない、喰いたくない。

でもわたしの中の魂は驚くべきスピードで大きくなっていく。



もはや、息を吸えば勝手に魂が入ってくる。喰う。喰う。喰う。喰う。喰う。喰う。



どうやら自分は怪物になってしまったらしい。


後編・完

疲れた。

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