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No.97 夢のディフェンス

 インターハイ予選前半は、朱雀高校部員が予想してた通り城清高校がベスト8を決め、いつもの面子が出揃った。城清は伝統のディフェンスに大蔵、杉山のオフェンス力が加わり去年よりも格段にレベルアップしているように思える。


 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

 そして次の日。

 

 ベスト8からの残り三戦は一週間後となるため、試合の翌日にもかかわらず朱雀高校体育館には選手たちの練習に励む声が響いていた。

 

「石川シューッッット!」

 

 地面を強く蹴り純也が跳ぶ。そしてシュートが放たれた。

 打点が高いには高いのだが、メチャクチャなフォームから繰り出されたボールはリングに当たるどころか、ボードのギリギリ上という、エアボール寸前の場所に当たった。それと同時に試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

ビィィィィ!

 

 選手たちがセンターサークルで向き合いながら礼をした。

 

『ありがとうございました!』

 

 試合形式の練習が終わる。亮が純也に近づき、話しかける。

 

「少しは狙えよ、ヘタクソ」

 

「ああ? テメーよりはマシだ猿助!」

 

 はたから見れば喧嘩に見えるかもしれないが、朱雀高校では見慣れた光景になっていたために、特に誰も止めなかった。

 

「よし、集合だ」

 

『オス!』

 

 純也と亮の口喧嘩をまったく気にもせずに薫は部員たちに集合をかける。試合形式の練習が終わったばかりでまだ肩から息している者もいた。薫は部員たちに座るように指示をしてから語り始める。

 

「昨日の試合を見て気づいてる人もいるだろうが、城清のディフェンスは今までの相手とは違う」

 

 純也や博司を除く、スタメンや我利勉はその言葉に頷いていた。

 

「彼らのディフェンスは『マッチアップゾーン』と呼ばれるものだ」

 

 その瞬間、部員たちがざわめいた。その中で特に表情も変えずに、真顔で薫を見ていた純也が問い詰める。

 

「なんだそりゃ? それって佐川商業のディフェンスとは違うのか?」

 

 純也の言葉に気づいた薫は、その方を振り向いて答えた。

 

「ああ、違うな。マッチアップゾーンは簡単に言えばマンツーマンとゾーンディフェンスを混ぜたディフェンスだ。」

 

 さらに薫が続けた。

 

「ボールマンに対してはディフェンスが常にマンツーでつき、残りの4人でゾーンを作るというものだ」

 

「それって…ボックス・ワンとは…ち、違うんですか?」

 

 博司が大きな体を精一杯縮めて発言する。一応ディフェンスの知識は少しあるらしい。薫は小さくなっている博司を見て軽く微笑みながら答えた。

 

「良い質問だ。ボックス・ワンは常に同じ人が指定された人にマンツーをしかけるよな? しかし、マッチアップゾーンの方は、マッチアップする人がボールマン、オフェンスの位置に対応して常に入れ替わる。メリットと言えば…そうだな…」

 

 薫が純也の方を向き言った。

 

「純也、ゾーンのメリットを言ってみろ」

 

 いきなり話をふられた純也はあせった様子で答えた。

 

「はぁ? そんなんわかるワケねーだろ。我利勉にでも聞いとけっつーの」

 

「じゃあ、お前が佐川のゾーンを相手にしてみてイライラしたところを言ってみろ」

 

 そう言われた純也は少しの間考える。

 

「まずはあれだろ? インサイドに入りづらくてむかつくな。そうなると後はリバウンドもとりにくいってことになるんじゃねーの?」

 

「その通りだ。リバウンドからの速攻も出しやすいよな。次はマンツーの良い所を…亮、あげてみてくれ」

 

 亮は返事をした後にハキハキと話し始めた。

 

「常にオフェンスにプレッシャーを与えます。抜かれた後のカバーリングは大変ですが、その分簡単にシュートも打たれません」

 

「そうだな。アウトサイドからのシュートは打ちにくい。マッチアップゾーンはこの2つのディフェンスの良い所をとったディフェンスだ」

 

『えぇえええ!?』

 

 一部の部員たちから驚きの声が上がる。そして純也が言った。

 

「そんな、都合のいいディフェンスがあってたまるか! もっと現実みよーぜ」

 

 純也の言葉を聞いた薫が部員全員に向かって言った。

 

「まさに夢のようなディフェンスだ。実際にプロでも使っていたりするしな」

 

 再び博司が体を小さくしながら薫に質問した。

 

「あのぉ…そんなすごいディフェンスにどうやって攻めたらいいんでしょうか?」

 

 その博司の質問に、薫はすぐさま答えた。

 

「何事も、相手のやろうとしていることの反対のことをやれば崩れるように出来ていると俺は思ってる。それはバスケだけじゃない」

 

 そう言って更に薫は続けた。

 

「マッチアップゾーンには1つの合言葉みたいなものがあってな。それを『オン・ザ・ライン、アップ・ザ・ライン』と言うんだ。簡単に言えば、ボールを持っていないオフェンスを始めとして、ディフェンダーがボールマンとそれをマークしている人を一直線で結ぶことを言う」

 

 薫は作戦版を動かしながら説明をする。部員たちはそれに必死についていく。

 

「こうなるとボールマンにプレッシャーが掛かり、ミスがおきやすくなると同時にパスコースも限定されてくるんだ」

 

 純也が少しイラっとした様子で薫に向かって言った。

 

「だったら尚更、どうやって攻めりゃあいいんだよ」

 

「簡単な話だよ。相手がこの形を作ろうとしているならそれを作らせなければいい。つまり…」

 

 薫は少し間をおいてから、再び話しはじめた。部員たちは唾をのんで次のセリフを待った。

 

「動き回ることだ。相手よりもずっと。特にドリブルをしているボールマンにはすぐにダブルチームがくる。ポストもな」

 

 部員たちはあまりにも単純な答えが返ってきたため、唖然としていた。

 

「あと弱点と言えば…」

 

 さらに薫は少し考えてから語り始めた。再び部員たちが唾を飲む。

 

「やっぱりいい。これは今言うべきじゃないな」

 

ドカッ!

 

 部員たちが一瞬でコケた。すぐさま純也がツッコミを入れた。

 

「おいおい、もったいぶらねーで言えよな」

 

「いや、これは言っても言わなくてもかわらない。むしろ知らない方がチームにとっては得だと思う。というわけで練習再開するぞ!」

 

『オ、オス!』

 

 そしていつものように夜遅くまで練習が続いたのであった。


 


 


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