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No.95 不気味な集団

 ここは朱雀高校控え室。前半戦を終えたばかりにもかかわらず、選手たちはまだまだ元気そうな様子だった。

 

「後半戦もこの調子だな。気を抜かずに頑張ってくれ」

 

『オス!』

 

 部員たちが返事をした。そして亮が口を開く。

 

「イヤでも気合が入りますよ。あんな高みの見物をされたらね」

 

 この試合を観客席から静かに見つめている2つの集団がいた。1つは黒に赤のラインのユニフォーム、白川第一高校。もう1つは深緑のユニフォームの黒沢高校である。あまりにも有名なユニフォームのため、イヤでも目に付くのであった。

 

「奴らはもうベスト8だからな。随分と余裕そうな感じだったがな…」

 

 永瀬の言葉を聞いた純也は嬉しそうに言った。

 

「まぁカズには決勝まで来てもらわないと困るからな。反対ブロックなのはめんどくせぇけど、最高の舞台じゃねぇか」

 

 一人で盛り上がる純也に、木ノ下薫は周りに聞こえないような声で呟いた。

 

「白川…か」 

 

 そして、そのまま椅子に座った。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

 

 その頃、観客席では例の黒の集団が不気味な様子でコートを見つめていた。そう、白川第一高校である。一般人から見ても、この集団からは何か不思議なオーラが感じられるほどであった。

 

 その中の1人、背番号13をつけた1年生レギュラー佐々木健之助ささきけんのすけがキャプテンの森村一樹に話しかける。彼は、各学年にキャプテンが存在するこの高校で、1年生キャプテンを務めている人物だ。

 

「いやー、木ノ下薫はヤバイっすね。特にスリーが信じられないほどの精度っす」

 

 その言葉にすぐさま双子の弟の佐々木真之介がつっこんだ。

 

「そうだな。お前の10倍すげーよ」

 

「なんだと!? じゃあテメーは11倍だ!」

 

 森村一樹がその様子を軽く笑いながら、静かにうなずいてから答えた。

 

「だな。総合的に見ても、すでに高校生レベルではないと思う。五十嵐と同じくらいか?」

 

 カズが隣に座っていた白川第一のエース五十嵐拓磨いがらしたくまに向かって言った。 その言葉に、五十嵐は少し考える。

 

 やがて、そっと口を開いた。

 

「ヤツとは小学校では敵チームだった。中学校では同じチームになって一緒に全国制覇をした。1対1では俺の方が多く勝ってる。だが、俺がヤツに本気で『勝った』と思った瞬間は1度もない」

 

 その言葉を聞いた部員たちが驚きの声をあげる。

 五十嵐は1年生の時から白川第一高校のエースナンバーの7番を背負ってきた人物だ。これは白川の歴史をみても五十嵐ただ1人だけなのである。もちろん、先輩たちの反感もあった。3年間名門でプレーしてきたのに、入学して間もない五十嵐が7番を取ってしまっては当然のことだっただろう。

 しかし、入学1年目のインターハイで、周りが認めざるをえない事件が起こった。ベスト8を賭けて戦った強豪越前高校との試合で、なんと1人で50得点をたたき出してしまったのである。

 この出来事がきっかけで、今では高校バスケをしている者で、彼の名前を知らないものはいない、というほどまでになっているのだ。

 他にも数々の武勇伝が存在するのだが、これだけでも彼の実力がわかったかと思う。

  そんな彼が先ほどのセリフを言ったのだ。部員たちも驚きを隠せないだろう。

 

  そこへ、6の背番号をつけた御庭慶彦おにわよしひこが五十嵐に向って言った。県内で唯一の2メートル越えの選手である。

 

「嘘つけ。たしか437戦218勝218敗1引き分けって中学のときのインタビュー雑誌で木ノ下が言ってたぞ。引き分けは時間切れ後に五十嵐が得点したんじゃなかったのか?」


「うるせーよ」

 

 五十嵐が笑いながら御庭の頭を軽く叩いた。部員たちからは一斉に笑いが沸き起こる。

 

『ははは』

 

『細けぇなオイ』

 

 御庭は体がでかく、髪型もスキンヘッドでいかにも怖そうな外見をしているが、実は優しい少年なのである。先ほどのセリフの通り、意外と頭もよく、将来は父親が経営する建築家業を継ぐために日々勉強しているのだ。ゲームや漫画も好きで、五十嵐とはゲーム仲間でもあった。

 

 しばらくして、カズが腕を上空に向って突き上げ、背伸びをしながら言った。

 

「ん~……俺も1度は本気で戦ってみてぇ相手だなぁ」

 

 それはおそらく木ノ下薫のことだろう。五十嵐がなにかを思い出したようにカズに向かって話しかけた。

 

「そういやぁ、あの6番って昔っからお前と一緒にバスケしてきたヤツだったっけ?」

 

「ああ。純也って名前なんだ。アイツとは小学校のときからだな。ジャンプ力は昔っから凄くてな。中学1年くらいのときにはすでにリングに手が届いてたと思う」

 

「おもしれーヤツだなぁ。永瀬、お前と同じくらい跳んでるんじゃねぇのか?」

 

 五十嵐は2年生キャプテンの永瀬朋希の方を振り向いてから言った。朋希は朱雀高校の永瀬勇希の実の弟である。

 

「どうでしょう。でも、最高到達点は俺の方が上だと思いますね。身長差が20センチ近くありますから」

 

 彼は全国でも最高の到達点を誇る選手なのだ。リバウンドに関しては彼の右に出るものはいないだろう。再び御庭が五十嵐に話しかける。

 

「それにしても似てるよな」

 

「ん?」

 

 五十嵐は手を後頭部に組んだまま大庭の方を見た。

 

「1年のときのお前のプレイにそっくりじゃないか。ポジションは違うけど」

 

「ああ、それなら俺も入学したときから思ってたよ」

 

 カズもそう思っていたらしい。五十嵐は不思議そうに答えた。

 

「俺ってあんなんだったのか。成長したんだな」

 

 再び部員たちから笑いが沸き起こったのであった。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 


 


 一方、黒沢高校部員たち。

 

「父さん、どうしたんだい?」

 

 黒沢高校2年生ガードの進藤鉄也しんどうてつやがなにやら考えている監督に向かって話しかけた。監督の進藤力也は鉄也の父親である。

 

「いや、なんでもない」

 

「そう」

 

 鉄也はそう言うと再び前を向いた。

 

(関東大会の時の朱雀とは明らかに違う。全体の動きもそうだが、特に長谷川亮。この短い間になにかあったのか?)

 

「朱雀高校は関東大会で圧勝しているとはいえ絶対に気を抜くな。よく見ておくようにな」

 

『オッス!』

 

 監督の言葉に選手たちが続いた。

 

 白川第一高校の観客席とは反対に、不気味に静まり返っている黒沢高校であった。

 


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