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No.93 決着

インターハイ予選の二回戦がこんなに熱い試合になるとは、誰が予想しただろうか。 観客の盛り上がりを見るだけで、どれほど見ごたえのある試合なのかがわかる。

 

「博司! こっちだ!」

 

「う、うん!」

 

 リバウンドをとった博司に亮が叫んだ。その言葉を聞いた博はすぐに亮にパスをだす。第4ピリオドであることをまったく感じさせないドリブルで佐川商業のディフェンスをかわして行き、そのまま薫にパスをまわす。

 

 ディフェンスがいるにもかかわらず、高い打点からスリーポイントを放った。ディフェンスがまったく対応できないほどのスピードであった。

 

「リバンド!」

 

 薫がそう叫び、攻守共にリバウンド体勢に入る。しかし、それも無意味だったようで、薫の放ったシュートは綺麗にリングに納まったのだ。


「くそ…」

 

 松岡がすぐにエンドラインから高橋にボールを出す。そのまま味方コートまで行き、加藤にボールを出した。加藤が中へと切り込んでいく。

 

「調子にのるんじゃねぇ!」

 

 そう叫び、レイアップシュートをする。加藤の手からボールが放たれた。

 

「なにっ!?」

 

 またしても薫であった。加藤のシュートを完璧なタイミングでブロックしたのである。薫はそのままボールをキープすると、前を走る亮に向かってパスを出した。

 そして、亮がスリーポイントライン付近に達し、今度はノールックで純也にボールをパスした。

 

 助走をつけた純也がリングに向かってドリブルしていく。ディフェンスに来た浅井を軽々とかわし、そのままリングに向かってジャンプした。

 

「だっしゃぁああ!」

 

 謎の叫び声と共に、リングが叩きつけられる凄まじい音が周囲に鳴り響いた。歓声が一斉に沸いた。

 

『うおぉおおお』

 

『なんてクレイジーなダンクをするやつだ!』

 

『アイツ本当にリング壊すんじゃねぇのか!?』

 

 観客を魅了するプレー。

 

 ダンクは他のシュートと同じで、2点しか入らないシュートだ。しかし、本当に同じ価値しかないのだろうか。いや、少なくとも今の純也のプレーは佐川の選手たちの気力を奪うには十分過ぎるプレーだった。

 

 そして、佐川商業のオフェンスとなった。高橋がドリブルをしながら辺りを見渡す。

 

 まさにその時、亮が一瞬の隙をつき高橋のボールをスティールした。これで今日の試合二度目である。そのまま物凄いスピードでゴールに向かっていった。

 

 そして確実にレイアップシュートを決め、点差を7点に広げたのだった。

 

 試合時間も残り5分をきっていた。点差が二桁になるのだけは避けたい佐川。心理的にも一桁と二桁の点差では、全然重みが違う。

 

「こっちだ!」

 

 ポストに松岡があがり叫んだ。高橋は松岡にパスを出す。気合でそのまま振り替えり、シュート体勢に入ろうとしたその瞬間。

 

(な!?)

 

 膝の力が急に抜けたように、松岡がバランスを崩した。その間に、永瀬がボールを奪う。

 

 松岡はこの試合大活躍だった。それは、この会場の誰もが認めていた。自ら点をとり、チームの士気を高める。

 

 しかし、少しずつではあるが、プレーの1つ1つが松岡の体に負担をかけていたのは事実だ。

 

 大げさな例えだが、松岡1人で朱雀のメンバーを相手していたようなものなのだ。松岡がその場にしゃがみこむ。そんな松岡を一切お構い無しといった様子で朱雀高校のオフェンス陣が攻め続ける。そして再びボールが薫に渡った。その場からスリーポイントシュートを放つ。

 

 佐川のディフェンスは、ただ呆然とボールを見つめていた。ここまでの流れで、木ノ下薫がシュートを外すイメージがなくなってしまっていたのだ。もちろん、スリーポイントを全部きめていたわけではない。

 

 それほどの錯覚をおこさせるほどの完璧で綺麗なシュートだった。

 

そして、まるでこのような結果になることが最初から決まっていたかのように、ボールがリングに吸い込まれたのであった。

 

『タイムアウト!』

 

 そして、審判の合図と共に松岡のメンバーチェンジが告げられたのであった。ゴール下で動けなくなり、しゃがみこんでいる松岡に加藤が歩み寄る。

 

「すまない…」

 

 松岡が申し訳なさそうに加藤に言った。加藤は松岡の肩を首にかけ、ベンチに戻りながら返す。

 

「心配すんなって。まだ終わったわけじゃねぇ」

 

 その言葉を聞いた松岡は軽く笑みを浮かべながら、

 

「そうだな…」

 

 と言って、ベンチに向かって言った。その姿を見た観客が松岡に声援を送る。すでに試合が終わったかのような盛り上がりであった。

 

 残り時間も4分と少しといったところ。松岡に代わって、一年の武田がメンバーに加わり試合が再開された。

 

 

 その後の展開は誰もが予想していたような流れだった。松岡がいなくなった佐川は、オフェンス、ディフェンス共に戦力が低下してしまい、朱雀の一方的な展開になってしまったのだ。

 

 加藤、佐田が粘るも、木ノ下薫や永瀬の厳しいチェックにより得点することができない。

 

 そこに朱雀高校の容赦ないオフェンスにより、みるみるうちに得点を追加していく。佐川商業のメンバーも、必死についていこうとしたのだが1度流れにのった朱雀高校を止めることは出来なかった。


 

 


――――――

 

――――

 

――

 




 

『試合終了!』

 

 やがて、審判による試合終了が告げられた。

 

 スコアは97対75。第3ピリオドまでの接戦が嘘のような点差である。会場からは両チームに熱い声援が送られていた。最後まで諦めずに戦った佐川はもちろん、今回も一回戦のような爆発力を見せてくれた朱雀高校に、感謝と同時にこれからの期待の意味も込められていることだろう。

 

 両チームがセンターサークル付近で向き合った。礼が終わり、加藤が薫に歩み寄った。

 

「ち…、この先絶対に負けんじゃねぇぞ。あとそこのチビ! 来年は覚えてやがれ!」

 

 チビとは純也のことである。加藤、佐田はまだ2年生であるため、まだまだ純也たちとは戦う機会があるのだ。

 

「ああ、いい勝負だったよ。ありがとう」

 

 薫は笑顔で対応するが、純也が黙っているわけではない。

 

「来年だぁ? いつでもかかってきやがれ! 場所なんてどこでもいいからよぉ」

 

 熱くなる純也を無視して、薫は松岡に近づいて行った。そして、ベンチに座っている松岡に話しかける。

 

「いい試合だったよ。ありがとう」

 

 松岡も嫌な顔1つせずに返事を返した。

 

「悔しいが完敗だよ。どんなに必死に引き離しても、君を中心にくらいついてきた。一体なにが君を支えてるんだ?」

 

 薫は少しだけ考え、笑顔で松岡に言った。

 

「意地さ」

 

 その言葉に松岡は驚いたようだ。

 

「驚いたな。試合でシュートを決めても表情一つ変えずに、常に冷静な君からそんな言葉が聞けるとは…」

 

 特別な練習方法や、気持ちの持ち方などがあると思ったのだろう。それを聞いた薫は再び笑顔で答えた。

 

「俺はまだまださ。それに、機械じゃないんだし、練習したこと以上のことは出来ないしね」

 

 その言葉を聞いた松岡は、何かに納得したような様子だった。そして、薫に向かって手を差し出し、握手を求める。薫はすぐにその手を握った。

 

「あとの4試合、絶対に勝ってくれよ! 君たちなら優勝も狙えるはずだ」

 

「ああ、頑張るよ」

 

 そう言って薫はベンチの方に戻った。チームに指示をだし、観客に挨拶をする。

 

『ワァァァ!』

 

『次も頼むぞ!』

 

『永瀬く~ん!』

 

 薫がいなくなり、松岡が監督に話しかけていた。

 

「監督、監督が昔、僕に言ってくれた言葉は本当だったんですね」

 

 監督は何のことかすぐにわかったのだろう。笑顔でうなずいた。

 

「さっき木ノ下薫が言ってましたよね。練習したこと以上のことはできない、と」

 

 チームにテキパキと指示を出している薫を遠くから見ながら松岡は続けた。

 

「彼も決して才能だけでやってるんじゃないんだな、って。僕はこれからもバスケを続けますよ」

 

 その言葉を聞いた監督は笑顔で松岡に語りかけた。

 

「私もそう思う。木ノ下薫はまだまだ伸びるよ。そして、君もね」

 


 そして佐川の選手がベンチに帰ってきた。笑顔でいる者、泣いている者とさまざまだった。松岡は選手たちに元気よく言った。

 

「よし、挨拶に行こう。お客さんも沢山応援してくれたんだ」

 

 そんな松岡に加藤は言った。

 

「松岡! 来年は必ず勝つ! 俺と佐田、武田を中心に! 今までありがとな!」

 

 加藤の隣では、佐田や武田が真剣な顔をしていた。それにつられて周りの1、2年生も頭を下げた。

 

「わかった。お前たちならきっといけるはずだ。ありがとう」

 

 そう言って挨拶に向かった。まだ足が完全に動くわけでは無いようで、ゆっくり小走りで移動していた。

 

『松岡ぁあ! 感動したぞ!』

 

『またいつかそのプレーを見せてくれ!』

 

『来年も応援するぞ!』

 

 その言葉を聞いて、松岡がその場で立ち尽くす。

 

「悔いは無い…はずなのに…」

 

 松岡の目からは涙が溢れていた。それをみた他選手たちも共に涙していた。

 

「ありがと…ございました…」

 

『ありがとうございましたっ!』

 

 その後、会場はしばらくの間声援が鳴り響いていたのだった。

 

――――――

 

―――― 

 

――

 

 

 

「あ~、危なかったなぁ」

 

 控え室で純也がタオルを振り回しながら言った。それにすぐさま亮がツッコミをいれる。

 

「まったくだ。ヒヤヒヤさせやがって」

 

 そこに薫もやってきた。

 

「まぁ、色々と良い経験になったんじゃないか? 明日から気をつければいい」

 

「これくらいのハンデをやったほうがいいかなーと思ってな。ははは!」

 

 薫は再びやれやれ、といった様子で純也を見ていた。しかし、言いたいことは本人が1番わかっていると思ったので、深くはつっこまなかった。そして選手全員に向かって言った。

 

「よし、この調子で後の4試合も戦おう!」

 

『オッス!』

 

 大会はまだ2回戦が終わったばかり。気を抜いてはいけない。選手たちもそれをわかっているようで、真剣な表情で返事をしたのだった。


 

 


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