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No.91 魅力

 朱雀高校対佐川商業の試合は第三ピリオドにかかわらず、ハイペースな戦いが繰り広げられていた。その中でも特に目立つのが、お互いのチームのキャプテン『木ノ下薫』と『松岡敬吾』である。 

 両チームのエースが次々に得点していき、それに触発された他メンバーも負けじとついていく。

 

『ウオォオオ!』

 

『いいぞぉおお!』

 

 

 二回戦での戦いがこんなにも激しい戦いになるとは思ってもいなかったのだろう。観客はどちらのチームを応援するわけでもなく、ひたすら声援を送っていた。

 

 そして…。

 

 

 スパッ!

 

 

 第三ピリオド終了間際、またしても木ノ下薫のスリーポイントがリングに突き刺さった。そのフォームは後半戦の疲れをまったく見せない完璧なフォームで、一瞬時間が止まったような錯覚にすら陥る。

 

 これでスコアは67-67の同点となった。そしてお互いのメンバーがベンチに戻る。

 

 

「松岡! よくやった! 私はお前を誇りに思うぞ!」

 

 佐川のベンチに帰ってきた松岡に、監督が興奮した様子で話しかける。しかし、松岡は開いたタオルを頭にかけ、顔をふせた状態でうなずくだけだった。肩から息をしていて、その様子は後半戦開始前とは比べ物にならない。

 松岡だけではない。エースの加藤も、佐田も限界が近づいているようにも見えた。

 

 このとき、選手全員に1つのシーンが思い浮かんでいた。

 

 

 第三ピリオド終了間際に放った薫のスリーポイントだ。一切疲れを見せず、完璧なフォームで決めてきた。

 

――なぜ、あの場面で決めてくる。

 

 メンバー全員がそんな顔をしていた。それと同時にこう思ったに違いない。

 

 

――薫はまだ力を残している。

 

 

 佐川のメンバーは見えない力に押しつぶされそうになっていた。そこまで木ノ下薫のプレーが、相手にプレッシャーをかけ続けているのだ。

 

 このとき、松岡がゆっくり顔を上げた。そして…。

 

「いくら強いとはいえ、木ノ下薫も同じ高校生だ。それに、ここまで1度もリードされずにやってこれたじゃないか…。まだいける…」

 

 メンバー全員が松岡を向いた。

 

「俺たちは白川、黒沢、城清などの名門に声もかけられなかったようなヤツらの集まりだ。ベスト16に定着して何年になる?」

 

 そして、メンバーを一通り見渡してから続ける。

 

「それがどうだ? 今の俺たちのプレーはあの木ノ下薫相手にも十分通用している。名門に入ったか、そうじゃないかなんて所詮は中学校のときの評価だ…。俺は、このチームが1番成長したチームだと思っている。自信を持って最後まで戦おう!」

 

――俺たちは強い。

 

 松岡は最後にそう言い放ち、部員たちの返事が鳴り響く。

 

 

 一方の朱雀高校ベンチでは、薫がメンバーの前に立ち話しかけていた。

 

「残り10分で同点まで追いついた。みんなよく頑張ってくれた! だが喜ぶのはまだ早いぞ」

 

「喜んでるやつなんか誰もいねーよ」

 

 純也がベンチの背もたれに肩をかけ、不機嫌な様子で返す。それを聞いた薫は笑った。

 

「はは、確かにそうだな。これで満足してないのならよかった」

 

 それを聞いた亮が薫に向かって言った。

 

「そうですよ! 俺らの目標はずっと上なんですから!」

 

 上、とはおそらく優勝のことだろう。メンバーたちもそれをわかっているようで、真剣な顔でうなずいた。そして、薫が急に真面目な顔になって話し始めた。

 

「まぁ、真面目な話をする。よく聞いてくれ」

 

 ベンチにいる選手全員が薫の方を向いた。

 

「相手の松岡は強い選手だ。あんなにいい選手はめったにいない」

 

 この試合での松岡の活躍を見てきた朱雀高校部員の中に、彼をヘタだと思っている選手など1人もいなかった。

 

「だが…」

 

 その瞬間、部員たちが唾を飲む。そして薫が続けた。

 

「松岡のディフェンスに苦戦しているようなら、白川第一の御庭慶彦、永瀬朋希の2人からは絶対に得点することは出来ない」

 

 御庭慶彦とは、県内唯一の2メートル越えの選手である。ポジション取りに非常に定評のある選手だ。そして永瀬朋希は最高到達点が3m40後半という白川のゴール下の守護神。

 

「残りの10分、取れるだけ点を取るぞ!」

 

『オッス!』

 

 一瞬静まり返ったベンチだったが、薫のセリフが逆に選手の気持ちに火をつけたようだ。そして純也に向かって言い放つ。

 

「純也、いくぞ」

 

 そのセリフを聞いた純也は、背もたれにかけていた肩をゆっくり下ろし、不気味な笑みを浮かべながら言う。

 

「やっとかよ。こっちはアップが必要ねぇ感じに煮えたぎってんだからよ。危うくシケた試合見て冷めるとこだったぜ」

 

 そう言って胸の前で拳をぶつかり合わせ、音を鳴らす。永瀬が薫の前に近づき、本人にしか聞こえないような声で呟いた。

 

「役者だな」

 

 それを聞いた薫は何がなんだかわからない、といった様子で答えた。

 

「ん? なにが?」

 

 あまりの天然っぷりに永瀬が笑った。そしてまた薫にしか聞こえない声で言う。

 

「クク…相変わらずだな。部員たちもそうだが、俺も弟の名前を出されて頑張らないわけにはいかないからな」

 

「あぁ、スマンスマン。別にそういうつもりじゃない」

 

 こちらもまったく狙って言ってたわけではないようだ。永瀬も3年間一緒にやって来て、このバスケットバカがどんな性格なのかを理解していたため、すぐにベンチに戻った。

 

 知らないうちに選手の心に火をつける。

 

 自らのプレーで周りの選手を引っ張る。

 

 そして説明するには難しいような魅力が彼にはあった。

 

 

 薫についてきた者、彼に憧れて入部した者、諦めかけても薫に救われた者、変わるキッカケをもらった者、そして、薫を倒すために入部し続けている者――。


 このメンバーが出来たのはまったくの偶然ではなかったのかもしれない。

 

 

 そして、第四ピリオド開始を告げる笛が鳴った。

 

 

 

 


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