No.9 対抗心
でかすぎる…。
話し掛けられたときの声が弱々しかったのでひ弱なヤツかと思ったんだが……
「お前でかいな!!何年だよ?」
「え?キミと同じ一年だけど」
「一年!?」
ま、まじかよ!?でかすぎるぞ!
「一応聞いておくが身長は何センチだ?」
「う〜ん……たしか198センチくらいだったかな?」
「ドカーン!!」
ひゃ…198センチ?俺と約30センチ差じゃないかよ!!いや、まだ28センチ差だ。30センチ差ではない。ってことは亮は30センチ差か?ふふふ…圧勝。
「そっ…そうか、がんばれよ」
とりあえず言っておく。
さらに隣のデカ野郎が話し掛けてきた。
「バスケットって難しいね」
まあな………ん?
「お前、バスケットは初めてなのか?」
「うん。今まで部活やったことがなかったからね。小学校、中学校のときは親は別にいいって言ってたんだけど家の農業を手伝ってたし。高校になって親に高校生活を悔いのないものにしないように部活動にでも入りなさいって言われたんだ」
「へぇ〜、なんで急にバスケ部に?」
「キャプテンの薫さんに誘われたんだよ。『バスケットに興味があるかい?キミのその身長はとても戦力になる』ってね。僕はそのとき何部に入ろうか迷っていたからバスケ部に入ったんだ」
――あの野郎……俺のほかにもスカウトしたヤツがいたとは……まあ、俺はスカウトされてないけど。
「お前の名前は?まだ聞いてなかったな」
「え?僕の名前は大山博司〈おおやまひろし〉だよ。」
「じゃあさ、『ヒロ』って呼ばれるのと『ウドの大木』って呼ばれるのはどっちがいい?」
「ええっ!?そ、そりゃあヒロのほうがいいけど……」
「それじゃあ、よろしくな『ウド』」
ふぅ、いい使い捨てキャラだったぜ。
「ち、ちょっと僕の話聞いてるの?それに、たぶん使い捨てじゃないと思うよ」
「あ、声に出てたか。悪い悪い。」
「しっかりしてよぉ、ウドはさすがに嫌だよ」
「ウド」
「ええ!?」
俺の隣で驚いているウドを無視して俺はレギュラー陣の試合をみる。
このチームはやはり薫が中心となっているようだ。
薫がフォワードで点をとる。スリーポイントもかなり入るようだ。むしろ、インサイドよりアウトサイドからのシュートが多いようだ。おそらく入学した高校が朱雀ではなく白川第一(県でナンバーワンの高校)に入学していたらシューティングガードを任されていただろう。
我利勉はシューティングガードでスリーポイントで点を稼いでいる。それなりに入るようだ。しかし、あの細身ではあたり負けしている。物足りなさを感じる。
亮は……ダメ。
もう一人目にとまる選手がいた。
身長は185くらい。
薫と同じくらいだ。
顔は男のクセに綺麗、サラサラした髪が長くもなく短くもないぐらいに伸びていた。ポジションはセンターかな?上手いのだが少々あたり負けしている。コイツも背が高くて仕方がなくこのポジションをやっている感じだ。ゴール下を支配するに何かがもの足りない。きっともっとむいているポジションがあるだろう。
「おいヒロ、あの髪がサラサラのヤツは誰だ?」
俺はウドに聞いてみた。
「ん?ああ、あの人は副キャプテンの永瀬勇希〈ながせゆうき〉先輩だよ。この学校にファンクラブが存在するくらいなんだよ」
「そんなことまで聞いてねぇよ」
「ご、ごめん」
永瀬勇希ね……
このチームにも薫以外にもできるヤツがいたんだな。おもしれぇ…
――――――
――――
――
************
ここは朱雀高校バスケットボール部の部室。
ほとんどの部員が帰った後、キャプテンの木ノ下薫と副キャプテンの永瀬勇希が会話をしていた。
「薫、お前が連れてきた一年二人はどうするつもりだ?」
一年二人とはおそらく石川純也と大山博司のことだろう。
「純也は……基本的なことを覚えるとすぐにでも使える。あの身長からは考えられない力とジャンプ力とストリート仕込みのドリブル技術があるからな」
その言葉に永瀬勇希はうなずく。
「それじゃあデカイヤツは?大山っていう」
「ああ、アイツは今スグは無理でも、いずれはセンターとして使いたい」
「やめたほうがいいぜ!?確かに身長はあるかもしれないけどボールの扱いにもなれてないし」
「大丈夫だ。俺の理想のメンバーを作ることができたならきっとあの白川に対抗できるはず」
「白川第一か……お前は異常なまでに白川に対抗心を燃やしてるな」
「ああ、白川第一にはどうしても勝ちたいんだ」
そしてさらに薫は勇希に聞こえない声で呟いた。
「かならず倒す、白川……いや、五十嵐拓磨。まってろよ……」