表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/152

No.90 キャプテンの姿

 第二ピリオドが終了し、両チーム共控え室に移動する。そしてここは朱雀高校の控え室。薫が部員全員に向かって言った。

 

「よし、順調に点差を縮めることができたな。このペースで最後までいこう」

 

『オッス!』

 

 そのまま椅子に腰をかけ、我利勉に向かって言った。

 

「よくやってくれた。我利勉のおかげでペースを掴むことができた」

 

 その言葉を聞いた我利勉は照れくさそうに答える。

 

「はい…。でも、最後の方はほとんど入らなくなってましたけど…。ゴホッゴホッ」

 

 極度の緊張と、ハイペースな試合展開から、かなり疲れている様子だった。しかし、元々スタミナが無い我利勉が、普段の何倍も頑張っていたのだ。それをわかっていた薫は再び我利勉にお礼し、今度は小田原君に向かって言った。

 

「よし、相手のディフェンスが崩れかかっている今がチャンスだ。小田原君、いつもの走るバスケで完全にペースを掴もう! ディフェンスも期待しているぞ!」

 

「うん。わかった」

 

 小田原君がうなずいた。どうやら後半は勝負に出るようだ。それを理解した部員たちは再び気合を入れる。

 

 

 

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 一方、佐川商業控え室。

 

 監督が座っている部員に向かって話しかける。

 

「よく前半リードで持ちこたえてくれた!」

 

 前半フル活動をしていた松岡が、肩で息をしながら答える。

 

「はい…。朱雀のペースになると厄介でしたから。でもむこうのペースになりかけているのも事実だと思います」 

 

 更に続けた。

 

「最後の方は木ノ下にも普通にスリーを決められていました。もうゾーンだけでは彼を抑えることはできない…」

 

 部員たちも気づいていた。後半はゾーンディフェンスがまったく機能していなかったことを。仮に機能していたとしても、木ノ下薫をそれだけで抑えられるとは思えなかった。

 

 やがて、エースの加藤が監督に言った。

 

「監督! 後半はあたりましょう! 俺が絶対に木ノ下薫を抑えてみせます!」

 

「うむ…。そうだな…」

 

 考える監督に向かって松岡が続いた。

 

「大丈夫です。オフェンスも俺を使ってくれ! ディフェンスではゴール下は絶対に入れさせない!」

 

 部員全員が監督を見る。最後は自分たちの力を信じて戦いたいのだろう。

 

「わかった。今までの練習を信じて戦おう! 後半はマンツーでいく」

 

『オッス!』

 

 部員たちの返事が控え室に鳴り響く。

 

――――――

 

――――

 

――


 

『ピィイイ!』

 

 後半戦開始の笛が鳴った。

 

 前半同様、博司と松岡がセンターサークルで向かい合っていた。朱雀高校は我利勉と小田原君を交代、佐川商業はディフェンス要員で入っていた武田と、元々スタメンだった浅井四郎をを交代してきた。

 

 これから何かが起こる。

 

 観客もそんな予感がいているのかもしれない。極端に会場が静まり返った。

 

 やがて審判によるジャンプボールが行われ、第三ピリオドがスタートした。ボールをキャッチした加藤はそのままリングに向かって一直線に進んだ。それに薫がマークしていく。そこへ佐川の浅井四郎がスクリーンをした。

 

 その一瞬の隙で加藤がシュートモーションに入る。そして――。

 

「名門じゃねぇくせに調子にのんな!」

 

 そう言って気合のシュートを決めた。

 

『ワァァアア!』

 

 歓声が沸く。すぐに亮がエンドラインからボールをうけとり、ボールを運んだ。ディフェンスがマンツーマンに変更されているのに驚いた亮であったが、ディフェンスを軽々かわしていく。

 

 そして切り込んでいく永瀬に向かってタイミングよくボールを出した。

 

「させるか!」

 

 シュートモーションに入った永瀬に、松岡がブロックをする。永瀬はそのブロックを冷静に、空中でダブルクラッチでかわし、シュートを決めた。

 

 点を入れられた佐川は、まったく怯まず、すぐさまボールを高橋に渡し、試合を再開する。ボールが何回かまわった後に、佐田にボールがまわる。そして、スリーポイントが放たれた。

 

 スパッ!

 

 リングにかすりもせずに吸い込まれた。あっという間にお互いに得点が積み重ねられていく。かなりハイペースな試合展開になっていた。

 朱雀高校がリードすると思いきや、松岡、加藤、佐田の活躍によりわずかにリードしていく。

 

「うぉおお!」

 

 加藤が再びディフェンスをかわし、シュートを決めていた。これで再び点差を5に広げる。

 

 キュキュキュ!

 

 亮があっという間にディフェンス2人を抜き去り、薫にパスをだす。早いモーション、高い打点から繰り出されるシュートは、佐川の戦意を一瞬で喪失させるほど綺麗に決まる。しかし、黙ってやられている佐川ではなかった。

 

「俺を使え!! 絶対に決める!」

 

 松岡がポストでそう叫んだ。その言葉をきいた高橋は何の迷いも無くポストへパスを出す。

 ボールをキャッチした松岡は博司のディフェンスを振り切り、シュートを決める。

 

『ワァァ!』

 

 まさにチームを引っ張るも者の姿であった。そのまますぐにディフェンスを開始する。その姿をみて佐川の士気が高まっていった。松岡の働きが、チームの切れそうになる気力をつなぎ止めていたのだった。

 

 負けじと薫がボールを貰う。45度のスリーポイントラインからシュートモーションに入った。それに加藤が跳び付く。

 しかしそれはフェイントで、そのまま中へと切り込んだ。ゴール付近にいた松岡が必死にカバーリングに入った。

 ジャンプした薫は、左手でカバーをして松岡との距離を少しだけ作る。

 

そして、右手のボールを、肘をあまり曲げずに手首の力で松岡のブロックを超えるようにフックシュートを放った。

 

 

 スパッ!

 

 軽くループをしたボールがリングを綺麗に通過する。 

 

 松岡よりも10センチも低い薫が、次々に佐川から得点してゆく。それをみた観客が一斉に盛り上がっていた。

 

 

 両チームのエース同士がぶつかり合う。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ