No.87 徹底攻略
亮は辺りを見渡していた。佐川商業のゾーンが普通のゾーンではないことをすでに気づいているのだろう
「これならどうだ…。純也! あがれ!」
「おう!」
そう言って純也がハイポストでボールを受け取る。陣形はまだ変わっていない。純也はそのままリングの方を向き、シュートモーションに入った。
「なっ!?」
突然現れる松岡の壁に驚いてしまう。
(こりゃあ、博司なんてヘでもねぇ…)
松岡を交わし、そのままレイアップをしようとしたときであった。
ドンッ!
松岡の影から現れた15番に体ごとぶつかってしまった。その瞬間、審判の笛が鳴り響く。
『青6番、チャージング!』
「ちょっと! 今のは…」
「やめろ! 手をあげろ!」
熱くなった純也に薫がすぐに叫んだ。冷静になった純也はしぶしぶ手をあげる。
相手ボールとなってしまった。高橋がボールを運ぶ。そしてボールがエースの加藤に渡った。
加藤はそのままカットインし、シュートにいくと見せかけて佐田にパスをだす。
そしてそのまま佐田はスリーポイントを放った。
パスッ!
綺麗にリングに吸い込まれる。これで得点を7-0とした。リングから落ちてきたボールを拾い、エンドラインから薫が亮にパスを出す。
「どうやらだいぶ研究をされているみたいだな」
「ですね…」
純也は状況を理解していないのか、パスはまだか、まだかといった様子であった。亮はそのままボールを運ぶ。朱雀にしてはテンポの遅い試合となっていた。
ボールが何回かまわされ、永瀬にボールがまわった。そしてそのままジャンプショットを放つ。
見事にリングに吸い込まれ、点差を5点とした。しかし、そのまま黙っている佐川商業ではなかった。
高橋により運ばれたボールが松岡へと渡される。そしてシュートモーションに入った。それにあわせて博司が飛ぶ。
「ざけんじゃねぇ!」
なんと純也も飛んでいたのだった。無理な体勢のブロックだったため、純也の体が松岡の体にぶつかってしまう。体勢を崩した松岡であったが、何とか指先だけでボールをリングに入れたのだった。
ピィィィイッ!
『バスケットカウンッ! ワンスロー』
『ワァァアアア!』
「ナイス松岡!」
加藤が松岡の胸の辺りを拳で軽く叩く。それに松岡は軽く答えた。
今、松岡がシュートモーションに入ったときに、純也が体ごと不当に妨げてしまったためにファールとなってしまったのだ。それでも松岡はシュートを決めたため、1本のフリースローが与えられた。もし、シュートを外してしまっていたら、2本のフリーローを与えられていたことになる。フリースローによる得点は1点のみとなるため、今回の松岡のプレーは成功すれば3点プレーとなるのだ。
そして、松岡は長身に似合わず、確実にフリースローを決めてきたのだった。
『ワァァァアアッ』
これでスコアが10対2となった。
「ヘヘ、お前のとこの1年はつかえねぇなぁ、ハハ」
「あぁ!?」
加藤が不意に薫に向かってそういった。それを聞いた純也が怒る。
「やめとけ、ここでキレたらヤツの思うツボだ」
「くそが…。ストリートならあんなヤツら…」
前回の練習試合でもそうだったように、加藤は相手を挑発するトラッシュトークを得意とするのだ。それをわかっている薫はかなり冷静な様子で純也に話しかける。
「わかったよ…」
そう言って試合が再開された。亮によって運ばれたボールが薫へと渡る。
キュキュキュ!
(俺に対する対応が異常に早いな…。つまり、確実にどこかが空いている)
そして薫は少し動き回った後に亮にパスを出す。そして叫んだ。
「打て!」
亮は薫の考えていることがわかっていたようで、その言葉を聞く前からすでにシュートモーションに入っていた。
そしてシュートが放たれる。一瞬入ったかのような感じではあったが、惜しくもリングに嫌われ、外に飛び出る。それに向かって一斉にリバウンドをする。
「うぉぉおお!」
純也が気合でボールを奪い取った。そしてそのままレイアップの動作に入った。
「バッ…その場で打てばいいだろ…」
亮が周りに聞こえない声で呟く。そして亮の悪い予感は的中してしまった。
ピィィィイ!
『青6番ファール』
『ワァアアアア!』
無情にも審判の笛が鳴り響いていた。
その後の第一ピリオドはまったく状況がかわらず、純也を完全に押さえ込まれ、薫と永瀬と亮で反撃をするも、ペースは変わらず…。
そしてそのままの流れが続き、第1ピリオドは18対8という、朱雀にとっては驚くほどのロースコアで終了した。
朱雀の爆発力を期待していた観客たちも静まり返っているのであった。