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No.84 派手なデビュー戦

 朱雀高校と、第一回戦の相手『大田高校』が控え室からコートへと姿を現す。大田高校は良くもなく悪くもない、普通のチームである。

この大会の出場校は全部で65校。白川第一高校をシードに、A、B、C、Dのブロックに別れて戦う。そして決勝はAからBブロックの勝者とCからDブロックの勝者2校がインターハイを賭けて戦うのだ。ちなみに朱雀高校はDブロック。白川第一がAブロックのシードで、黒沢高校がCブロックだ。つまり、うまく勝ち残っていけば、準決勝で黒沢高校、決勝で白川第一高校と当たることになる。

 朱雀高校の居るDブロックには4回戦で当たる城清高校がいるので簡単には勝ちあがることはできないだろう。城清といえば純也達がストバスの大会で戦ったことのある、石塚、杉山、大蔵のいる高校だ。前大会でベスト4まで入った高校はAからDに分けて抽選されるので、このような風になったのだ。

 

 しかし、朱雀高校の目標はただ1つ、優勝。抽選でどこになろうが関係ない、といった感じであった。

 

 やがて、シューティングが終わり、両チームはベンチへと戻る。まだ一回戦ということもあり、応援は少なかった。次の試合の相手だろうか、いくつかのチームが観戦しているのもわかる。

 そんな中、朱雀高校キャプテンの木ノ下薫は皆に向けて言葉を送る。

 

「いまさら言うことは特に無いが、俺たちも去年とは違うということを見せてやろう」

 

『オッス!』

 

 やがて、開始の合図がなる。審判が軽く試合での心がけを言った後に、叫んだ。

 

『両チーム礼!』

 

 その声と同時に両チームからの声が響き渡る。

 

『おねがいします!』

 

 そして試合が始まった。ジャンプボールをするために、両チームから1人ずつ選ばれた選手が前にサークル内へと歩み出る。

 

『おぉ~』

 

 その瞬間、観客から歓声が沸いた。おそらく大山博司を見てだろう。朱雀高校にこんなにも大きな選手がいるとは思ってもいなかっただろうか。それに、博司と純也は朱雀高校にとって初のお披露目である。メンバーが大きく変わっていることにも驚いたのかもしれない。

 

 審判からボールが上空へと放たれた。それに向かって大山博司と大田高校の選手がジャンプする。


パシッ!

 

 やはりジャンプボールを征したのは博司であった。身長差が20センチ近くあったため、当然の結果といえば当然である。

 そのボールを長谷川亮がキャッチした。そしてゴールへとボールを運ぶ。ディフェンスもまったくついてこれないほどのスピードであった。そしてそのまま敵を振り切り、先制のシュートを決めた。

 

『ワァァァァ』

 

 そしてすぐさまディフェンスに戻った。朱雀のディフェンスはハーフコートマンツーマンである。特徴としては、敵からのファーストブレイクを防ぎやすい、更には1対1が基本となるため能力の近い選手をディフェンスすることが出来るといったところ。比較的ゾーンや他のディフェンスと比べ理解もしやすい。純也や博司といった公式経験の少ない選手がいるためにこのディフェンスになるのは必然だったのかもしれない。ただ、ディフェンスを突破されるとカバーが大変だったり、ディフェンスが存在しない場所が簡単に出来たりと、ディフェンスにとっては精神的にも肉体的にもきついディフェンスなのだ。

 また、白川第一高校や黒沢高校といった、どこからでも平気で点を取ってくるチームには、ゾーンディフェンスだとうまくディフェンスが機能しないことがあるため、あえて木ノ下薫はこのディフェンスを選択したのである。もちろん、博司が完全に対応しきれなかった、ということもあるのだが…。

 

 相手が攻め込んでくる。そのドリブルを腰を落としながら亮は見ていた。そしてつっこんできたオフェンスを体で止める。薫はディフェンスの大切さを普段から部員に教えていたために、亮や小田原といったディフェンスがうまい選手が多いのも特徴かもしれない。

 

 中には20分で退場してしまう純也のような選手もいるのだが…。そしてしびれを切らしたのか、オフェンスが無理な体勢からシュートを放った。

 

 ボールはゴールに嫌われ、リングの外へと飛び出る。そのボールを狙い、数人が飛んだ。

 

 ダンッ!

 

  地面に足がつき、ボールを持っていたのは朱雀高校の 大山博司であった。普段からのリバウンド練習により、ディフェンスだけは見れるような感じになってきたのだ。

 

「じゅ…純也君!」

 

「おう!」

 

 博司は情けなくそう言うと、前に走っていた純也にボールをパスした。ボールを受け取った純也はゴールに向かってドリブルをする。それに大田高校の選手がついていた。

 

「おいおい、そんなディフェンスじゃあ俺を防げねぇぜ!」

 

 そう言って、得意の高速ターンムーブからのドリブルで相手を振り切った。相手はあわてた様子で純也についていく。

 そのままゴールの手前に来た途端、青のユニフォームが宙に舞う。

 

 そして、物凄い勢いでリングに向かってダンクシュートを放った。

 

 ダァァンッ!


 物凄い音がコートに鳴り響く。勢いのあまり純也の体がボード側へと浮くほどであった。

 

  少しの静寂の後、歓声が沸き起こった。

 

『ウワァアアアア!』

 

『何だアイツは!?』

 

『朱雀にあんなヤツいたかよ!?』

 

  試合を観戦している他チームの部員はかなり驚いていたようだった。今の1プレーはそこまでインパクトのあるものだったのである。

 

 そして純也がディフェンスへと戻る。すれ違い際に亮が純也に話しかけた。

 

「ケ…派手なデビューかましやがって」

 

「まぁな、お前のヘタレプレーなんぞ忘れ去られるくらいのダンクだったぜ」

 

「なんだと!?」

 

 その様子をみた薫が叫ぶ。

 

「おい、今は試合に集中しろ!」

 

「す…すみません!」

 

「あ、すまんね」

 

 そしてそのままディフェンスを再開する。会場がいまだにざわめいていた。きっと朱雀に突然現れたルーキー純也と博司だろう。薫がポジションを変更して出場する公式戦もこれが始めて、ということもあるかもしれない。

 このとき誰もが感じていた。

 

――今年の朱雀は何かが違う。

 

 その予想は正しかった。木ノ下薫はもちろん、永瀬勇希のカットイン、亮の地を這うようなドリブル、高速のクロスオーバー。更には不格好ながらも仕事をこなす博司のディフェンス。

 そして、チームを確実に勢いづける純也の荒々しいオフェンスとディフェンス。

 

 あっという間に朱雀に得点が追加されていく。もう今年の朱雀高校は大田高校のような普通の高校が相手に出来るチームではなくなっていた。

 木ノ下薫と永瀬勇希が入学して、チームが中堅と呼ばれるようになり、そして更に純也や亮といった新たな風がチームに吹き込まれ、やがては強豪へと移り変わっていく。

 そういった印象を見る人々に強く植え付けさせる試合だった。

 

 気づけば127対43というトリプルスコアに近い点差で一回戦を圧勝したのであった。

 


 


 



 


 



 


 

 

 


本番は二回戦からですね。

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